100米ドルのノート・パソコン、部品コストは提供価格を大幅超
100米ドルと安価なノート・パソコン「XO-1」は、OLPC(One Laptop Per Child)と呼ぶプロジェクトから生まれた製品の第1号だ。このプロジェクトは、発展途上国の子供たちに学習手段としてパソコンを提供する目的と、パソコンそのもののコスト構造を見直そうという取り組みを融合した興味深いものである。OLPC プロジェクトを推進する、米国の非営利団体である「OLPC」が、科学技術を一般に広め「民主化」するという長期目標に向けた活動の一環として、XO-1を開発した。
XO-1では、ストレージ装置に、現在広く使われているハード・ディスク装置ではなくNAND型フラッシュ・メモリーを使ったSSD(Solid State Drive)を採用した。さらに、オープン・ソースのソフトウエアを活用している。これにより、低価格かつ頑丈な製品を実現した。
低価格ではあるものの、ノート・パソコンの一般的な機能を備えており、タブレット・パソコンや電子書籍(e-book)のように使える。具体的には、「IEEE 802.11a/g」に準拠した無線LAN機能のほか、カラー画面とモノクロ画面を切り替えられるデュアル・モードの液晶ディスプレイがある。バックライトを消せば、太陽光の下でも画面を読み取れるモノクロ画面の反射型パネルに切り替わる。
このほかの機能として、VGA(480×640画素)サイズの映像を撮影可能なウェブ・カメラやステレオ対応スピーカ、内蔵マイク、QWERTY配置のラバー・キーボード、抵抗膜方式と静電容量方式を組み合わせたタッチ・パッド、3つのUSBインターフェース、マイクとヘッドホンを外付けするための端子などがある。
主流とは異なる構造
OLPCは、この低価格ノート・パソコンの仕様決定と設計を主導した。製造したのは台湾Quanta Computer社である。このノート・パソコンの構造は、一般的なノート・パソコンとは異なる。通常のノート・パソコンでは、上半分と下半分に別れた筐体の上半分の部分に液晶ディスプレイのみを搭載する。これに対して、XO-1では回転する上半分の筐体に液晶ディスプレイと電子部品を実装したプリント基板(マザーボード)を収め、下半分の筐体に2次電池とキーボード、タッチ・パッド、これに関連したわずかな部品を搭載する構造を採る(図1)。
図1 販売価格が100米ドルのノート・パソコン
OLPCのノート・パソコン「XO-1」である。左上が外観で、右上が分解した様子である。中央に示した1枚のプリント基板に各種半導体チップを実装した。基板中央のチップはAMD社の「Geode LX700」。
まず、上半分の筐体を見てみよう。デュアル・モードのディスプレイは、台湾AU Optronics社の興味深い液晶パネル技術で実現されている。このパネルは、透過型のカラー画面と、反射型のモノクロ画面を組み合わせているため、高度な回折格子やそのほかの技術が盛り込まれているとして大きく話題になった。しかし、実際に分解して検証したところ、モノクロ画面を実現する画素構造は、標準的な反射型液晶パネルとほぼ変わらなかった。一方でカラー画面のためのカラー・フィルタは、赤(R)と緑(G)、青(B)の3色がそれぞれ隣接した一般的な方式ではなく、それぞれの色に対応したフィルタを斜め方向に配置したストライプ状になっていた。色の階調を増やすために、ディザリングなどの特別な仕組みが必要になる。この点以外、液晶パネルに関して先進的な技術が採用された形跡は見つからなかった。なお、液晶パネルのバックライトには、白色LEDが採用されていた。実際に搭載したパネルの寸法を考慮した場合、価格を抑えるには冷陰極管を使うのが一般的である。価格の低減よりも消費電力の削減を優先したのかもしれない。
モノクロ画面の表示モードは明らかに、パソコン全体の消費電力を抑えようという狙いで採用された。OLPCは、発展途上国では頻繁に電池を充電したり、電源コンセントを確保したりするのが難しい場合があると考えたのである。最初の試作モデルでは、手動で電池を充電する発電システムを搭載していた。ただしこれは、最終製品に改良していく過程で廃止された。ノート・パソコン全体で必要な電力量が、手動の発電システムで得られる電力量を大きく超えてしまったためだと推測できる。
このほか、消費電力をさらに削減するために、台湾Himax Technologies 社の液晶パネル用コントローラIC「HX8837」を採用した。このICには、CPUをスリープ・モードにしたときにも表示画像を失わない仕組みが盛り込まれている。フレーム・バッファには、台湾Elite Semiconductor Memory Technology社のSDRAM「M12S1616A」を使った。記憶容量は2Mバイトである。
このノート・パソコンの全機能を稼動させたとき(フル稼働させたとき)の消費電力は6〜7Wだった。LiFePO4(リン酸鉄リチウム)材料を使った、電力容量が約20Whの2次電池を搭載していることから計算すると、電池駆動時間は3時間程度である。OLPCは、10〜12時間だと説明している。しかし、「電池駆動時間を実用ベースで計測した結果、OLPCの数値はあまりにも楽観的だ」と指摘する声があった。筆者らのデータも、どちらかといえばこれに合致する結果である。
AMDのチップセット利用
次に、上半分の筐体に搭載したプリント基板に目を向けよう。米Advanced Micro Devices(AMD)社のCPU「Geode LX700」と、インターフェース処理やブリッジ処理を担当するチップセット「CS5536AD」を使った。このチップセットとSSDのおかげで、このノート・パソコンは冷却ファンを不要にできた。SSDの記録容量は合計1Gバイトである。韓国Hynix Semiconductor社の2つのNAND型フラッシュ・メモリーで構成した。型番は「HY27UG088G5M」で、記憶容量はそれぞれ512Mバイト。SLC(Single Level Cell)方式 を採った品種である。このNAND型フラッシュ・メモリーのコントローラICは、米Marvell Semiconductor社の「88ALP01」である。ウェブ・カメラを制御する役割も兼ねている。採用したNAND型フラッシュ・メモリーの性能は明らかに、一般的なパソコンに通常求められるレベルに比べて大幅に劣っている。
主記憶用のSDRAMもHynix Semiconductor社の品種である。記憶容量が64MバイトのDDR2対応SDRAM「HYD5DU121622CTP」を4つ実装した。メモリー容量は合計256Mバイトである。現在主流のノート・パソコンに実装されている容量に比べると少ないものの、価格を抑えるという目的に合った選択だと言える。
インターネット接続用に無線LAN機能を搭載した。複数のXO-1でメッシュ・ネットワークが構築できるように設計されている。ユーザーによる設定は不要である。それぞれのXO-1端末が常時接続の無線ルーターであり、相互に認識する。メッシュ・ネットワークを使えば、情報をスムーズにやり取りできる。上半分の筐体の両端にある無線LANアンテナは、まるでXO-1の耳のようだ。跳ね上げ式のこのアンテナは、パソコンを閉じた状態では上側と下側の筐体を固定する留め具として使える。
無線LAN機能は、主に3つの半導体チップで実現した。Marvell Semiconductor社のRFトランシーバIC「88W8015」とIEEE 802.11a/g規格に準拠したシステムLSI「88W8388」、スイスSTMicroelectronics社の16KバイトE2PROM「M95128」である。オーディオ機能に向けては、米Analog Devices社のオーディオ・コーデックIC「AD1888」とステレオ・アンプIC「SSM2302」を採用した。
一方の下半分の筐体には、キーボードとタッチ・パッドが組み込まれている。キーボードは、2枚のPET(ポリエチレン・テレフタレート)膜と1枚のエラストマ膜で構成する。たいていのキーボードと同じように、エラストマ膜に作り込まれた入力キーを押すことで2枚のPET膜を接触させている。NECエレクトロニクスの8ビット・マイコン「UPD78F0511」が、台湾ENE Technology社のキーボード・コントローラIC「KB3700」とキーボードの間のインターフェース処理を担う。
タッチ・パッドは、抵抗膜と静電容量の方式を組み合わせた、アルプス電気の品種である。タッチパッド・コントローラICには、STMicroelectronics社のチップを使った。静電容量方式のタッチ・フィルムは、キーボードのフィルムと非常に類似した基礎技術を採用している。キーボード向けとタッチ・パッド向け、いずれのフィルムも一見したところでは、シンプルで安価なものだ。
OLPCはXO-1の出荷をようやく開始した。OLPCのこれまでの取り組みに問題がなかったわけではない。計画の遅れや予算の超過、政治的にデリケートないくつかの問題がプロジェクトの評判を傷つけたところもある。このノート・パソコンの提供価格は、当初予定していた100米ドルの2倍近い水準に膨れ上がった。具体的な部品コスト見積もりについては、米Portelligent社が詳細なレポートを提供している。
OLPCは最終的に目標を達成できるかもしれないが、その道のりは遠い。OLPCの取り組みは少なくとも、パソコンの価格がどの程度であるべきかについて、業界の考え方に変化をもたらす一因になる。ノート・パソコン業界に向けて、価格低下に向けた圧力を加速させることが、OLPCの最大の効果かもしれない。発展途上国に向けた目的以外では。
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