宅内AV機器の無線接続、WirelessHDとWHDIが激突か
図1 モジュールや参照設計の準備も進む
(a)WirelessHD規格に準拠した無線モジュール。上側はパナソニック、下側は村田製作所が製造した。(b)イスラエルAMIMON社が現在提供している参照設計。5GHz帯の20MHz幅を使って最大1.5Gビット/秒を得る。
図2 両派の今後の見通し
規格策定に関しては、WirelessHDが先行している。WHDIコンソーシアムも規格の策定作業を進めており、2008年末までには完了させる予定である。
高品位(HD)映像を無線でやりとりする――このような無線機能を搭載したテレビ受像機が、複数のメーカーから続々と製品化されている。しかし、各社が採用する無線通信方式は一本化されていない。どの方式が将来主流になるのかは、混沌(こんとん)とした状況だ。60GHz帯を使って最大4Gビット/秒(bps)のデータ伝送速度を得る「WirelessHD」や、5GHz帯の40MHz幅を使って最大3Gbpsのデータ伝送速度を得ると主張する「WHDI(Wireless Home Digital Inter-face)」が候補に挙がっている。さらには、無線LAN規格の最新版「IEEE802.11n」を利用する動きもある*1)。
採用する方式を選ぶ際の決め手は何か。これには、さまざまな意見がある。「映像品質」に対する考え方や、最終製品出荷のタイミング、半導体チップのコスト、さらには利用する周波数の違いに起因した各種特性の違いや、技術的な実現難易度など、複数の要因が複雑に交ざり合い、どの方式が優位なのかはっきりとしない。無線機能を搭載したAV機器の市場投入は今後も活発に進むとみられる。複数の無線通信方式が真っ向からぶつかる構図になりそうだ。デファクト・スダンダード(事実上の標準)の獲得に向けた争いが始まろうとしている。
準備は整いつつある
WirelessHDとWHDIはいずれも、非圧縮でHD映像を無線伝送することを訴求する方式で、それぞれの普及促進を目的にしたコンソーシアム(業界団体)がある。宅内のさまざまなAV機器を無線で相互接続し、自由にコンテンツをやりとりできるようにするという将来の見通しは、WirelessHDコンソーシアムとWHDIコンソーシアムともに同じである。各コンソーシアムでは普及促進に向けて、無線での相互接続を実現する規格と認証試験の準備をそれぞれ進めている(図1)。
WirelessHDコンソーシアムは、WirelessHD規格を2008年1月に発表済みである。現在、認証試験(コンプライアンス・テスト)の策定作業が最終段階に入っており、2008年末までに完了する予定だ(図2)。「2009年の非常に早い段階に認証試験をスタートする」(WirelessHDコンソーシアムのChairmanを務めるJohn Marshall氏)。「2009 International CES」の会期中に、認証試験やロゴ付与プログラムについて、何らかの発表がある可能性が高い。その後、2009年初頭には、認証試験を通過してWirelessHD規格の正式準拠をうたう半導体チップが米SiBEAM社から市場に投入される見込みだ。
現在、WirelessHD規格の採用を表明している東芝やパナソニックは、製品化に向けた取り組みを着実に進めている。例えば「CEATEC JAPAN 2008」では、国内で初めてWirelessHDによるHD映像の無線伝送についてデモを見せた。現在、同社らはSiBEAM社が提供するチップ・セットのファースト・サンプル品およびこれを搭載したリファレンス・ボードを使った開発を進めている。今後の開発の流れについては、「回路部分を改良したセカンド・サンプル品の動作を評価した後、これの量産チップを最終的に採用することになるだろう。一方で、当社独自の機能を実装するためのファームウエアを開発する」(CEATEC JAPAN 2008の東芝ブースの説明員)という。製品開発の段階としては、ほぼ最終段階まで進んでいるようだ。
60GHzで動作するSi(シリコン)CMOSチップを民生用途向けに量産した事例はこれまでに無い。それゆえ、量産時の歩留まり率が低いのではないか、この結果チップ・コストが高価になるのではないかと不安視する声がある。これに対して、米SiBEAM社のPresident & CEOであるJohn E. LeMoncheck氏は、「民生機器に受け入れられるチップ・コストに抑えられる見通しが明確にあったからこそ、市場に参入した。チップの耐久性や信頼性についても、顧客の要求を満たすようにかなり厳しい試験を実施する」と、問題が無いことを強調した。
WHDIは認証試験を策定中
一方のWHDI方式に関しては、現在コンソーシアムの作業部会で規格策定が進められており、2008年末までに完成する見込みである。さらに、「認証試験の策定作業を、近々開始する」(イスラエルAMIMON社のChairman & CEOを務めるYoav Nissan-Cohen氏)という。現在、WHDIコンソーシアムには、コンソーシアムの運営に関する作業部会と、規格策定を進める技術部会がある。これに加えて新たに、認証試験を策定する作業部会を立ち上げる。2009年中ごろには認証試験を開始する予定で、「2009年下半期には、WHDIロゴが付いたAV機器が市場に登場するだろう」(同氏)とする。
WHDI規格は、AMIMON社の独自方式を基にした内容になるようだ。同氏は、この独自方式を「WHDI規格のプリスタンダード(pre-standard)」と説明する。すなわち、現在策定中のWHDI規格のPHY層とMAC層の95%の部分は、この独自方式を踏襲する。
規格に新たに盛り込む主な部分は、機器間の認証や制御に関するプロトコルで、アプリケーション層のAVC(Audio Video Control)に関するもののようだ。AVCプロトコルの策定に向けた同社の考えは明確である。ほとんど機能をマンダトリ(必須項目)にするという。機器メーカーが独自に盛り込めるオプション機能は極力少なくする。「マンダトリとオプションの機能の切り分けは大変難しい。しかし、AV機器メーカーにユーザーを囲い込ませないで『開放』させるという基本方針で規格を策定したい。ユーザーには、機器を自由に選びやすくなるというメリットがある」(同氏)。
AMIMON社は、WHDI規格に向けた半導体チップのサンプル出荷を2009年第1四半期に始める。この品種では、1080p(1920×1080画素)で60フレーム/秒のHD映像を処理できるようにする。量産は、同年第2四半期に開始する予定だ。
大手メーカーが新たに参画
両コンソーシアムとも、参画企業を増やす動きを活発化させている。WHDIコンソーシアムには、大手の機器メーカーがプロモータ企業として、近々参画する予定である。AMIMON社のYoav NissanCohen氏が明らかにした。また同コンソーシアムは、規格策定後にメンバー企業の募集を開始する。
一方のWirelessHDコンソーシアムには、米Broadcom社がプロモータ企業として新たに参画した。同コンソーシアムのJohn Marshall氏は、同社が参画した意義について、2つ説明した。1つは、機器メーカーにとって、半導体チップ・ベンダーの選択肢が増えること。もう1つは、「加入可能な業界団体にさまざまな選択肢があった状況で、民生分野の無線チップに強みを持つ同社がWirelessHDコンソーシアムに加入したことは、当コンソーシアムの優位性を裏付けるもの」(同氏)という点である。
【脚注】
*1)米W&W Communications社は、IEEE 802.11nに準拠した無線チップと、同社のH.264対応の低遅延コーデックICを組み合わせた参照設計(リファレンス・ボード)の提供を2008年11月ころに開始する。無線LANチップの設計・開発を手掛ける半導体ベンダーも、映像伝送に今後注力する考えだ。台湾Ralink社は、映像の伝送機能を強化した無線LANチップのサンプル出荷を2009年第1四半期に始める。
【EE Times Japan 2008年11月号「Building Blocks」、pp.20~21掲載記事】
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