ハイブリッド/電気自動車のバッテリ監視システム、トレードオフ考慮し最適なアーキテクチャを選ぶ
次世代の電気自動車(EV)とハイブリッド自動車(HEV)に向けた2次電池(バッテリ)技術の開発が進んでいる。こうした自動車では、コストを最小限に抑えつつ、電力効率を高めることが求められる。従って、バッテリが備える蓄電容量をフルに利用できるようなバッテリ管理システムが不可欠になる。
このシステムは、バッテリの状態を監視し、充放電などを制御する役割を果たす。システム設計者は、高度な機能を統合し、精度と堅牢性がともに高いシステムを、コストや信頼性に妥協することなく実現できる適切なアーキテクチャを選択しなければならない。最近では、こうしたバッテリ・システムの中核機能を1チップで提供するバッテリ監視ICが製品化されている。
そこで本稿では、電気自動車やハイブリッド自動車においてバッテリ・システムに求められる要件を解説するとともに、バッテリ監視機能を実現する複数のアーキテクチャをそれぞれの長所/短所を挙げて説明する。
一例として、単一ボード構成のバッテリ監視モジュール上でメインCANゲートウエイ・コントローラに直列接続するアーキテクチャを示す。こうしたアーキテクチャの詳細は、5ページ目の「バッテリ監視システムの実装アーキテクチャは4種類」で解説する。
バッテリの実効容量と充放電回数はトレードオフ
電気自動車やハイブリッド自動車に向けたバッテリ技術が目覚ましい進歩を見せている。バッテリのエネルギ密度は着実に高まっており、最近では高い信頼性で数千回も充放電できるようになった。こうしたエネルギ容量の向上を効果的に利用すれば、EVとHEVはコストや信頼性、耐久性の面で、内燃機関によるエンジンを使う従来の自動車に対抗できる可能性がある。
一般にバッテリのエネルギ容量は、バッテリの充電状態(SOC:State Of Charge)が100%から0%になるまでに供給できる電荷の総量で規定されている。ただしバッテリは、SOCが100%のときに充電したり、0%のときに放電したりすると、寿命の劣化が急激に進んでしまう。そこで通常はこうした事態を避けるため、フル充電状態やフル放電状態が発生しないように、バッテリの状態を監視しながら充放電を制御する。
バッテリ・システムの設計者にとって悩ましいのは、バッテリが備える規定容量のうち実際に充放電させるエネルギ容量の割合(本稿では「実効容量」と呼ぶ)と、バッテリ寿命(充放電可能回数)の間にトレードオフの関係があることだ。バッテリをSOCが10%と90%の間で使う場合は、規定容量の80%を実効容量として確保できるものの、SOCが30%と70%の間で使う場合(実効容量は規定容量の40%)に比べると充電可能回数が1/3以下になってしまう可能性がある。
例えば、バッテリの充電可能回数を重視するため、規定容量の40%の範囲でしか充放電しないようにシステムを設計したとしよう。この場合、規定容量の80%を使う場合と同量のエネルギを確保するには、バッテリの容積を2倍にする必要がある。するとバッテリ・システムの重量が倍増し、コストも増え、電力効率は低下してしまう。
一般に自動車メーカーは10年を超えるバッテリ寿命を求めており、必要な実効容量も指定している。従ってバッテリ・システムの設計者にとっては、最小のバッテリ・パックから最大のエネルギ容量を絞り出すことが課題になる。これを達成するには、バッテリの状態を注意深く監視して高度に制御する高精度のバッテリ・システムが不可欠である。
スタック構成のバッテリ・パックは高度な監視が必要
電気自動車に向けたバッテリ・パックは、数多くのバッテリ・セルを直列に接続した、いわゆるスタック構成を採る。リチウムイオン2次電池による標準的なバッテリ・パックでは、セルを96個程度スタックしており、各セルが4.2Vに充電された状態でバッテリ・パック全体としては400Vを超える端子電圧を発生する。
自動車の電力システムは、こうしたバッテリ・パックを「高電圧の単体バッテリ」として扱う。すなわち、バッテリを構成するセル全体を同時に充電したり放電したりする。ただしバッテリ制御システムは、スタックを構成する各セルの状態を個別に把握する必要がある。
例えば、スタック内のあるセルの容量がほかのセルよりわずかに小さい場合を考えてみよう。そのセルの充電状態は、充放電サイクルを繰り返すうちにほかのセルの充電状態と大きく異なってしまう。充放電サイクルの中でほかのセルと充電状態が同期しないこうしたセルは、場合によっては深放電状態に陥って、バッテリ・スタック全体の動作不良を引き起こしてしまう危険性がある。
こうした事態を防ぐため、バッテリ制御システムは、各セルの端子電圧を個別に監視して充電状態を判断する必要がある。さらに、各セルを個別に充電したり放電したりすることで、各セルのSOCをバランスさせる仕組みが不可欠である。
バッテリ・パックの監視システムを設計する際に重要な検討項目は、ホスト・システムとの通信インターフェースである。一般に、単一ボード内の通信では、選択肢として「Serial Peripheral Interface(SPI)バス」や「Inter-Integrated Circuit(I2C)バス」がある。いずれも通信のオーバーヘッドが小さく、低干渉環境に適している。
このほかの選択肢としては、車載用アプリケーションに広く使われている「Controller Area Network(CAN)バス」がある。CANバスは堅牢性が高く、誤り検出とフォールト耐性を備えている。ただし通信のオーバーヘッドが大きい上に、部品コストが比較的高くなってしまう。従って、バッテリ・システムと自動車の主要部へのインターフェースとしてはCANバスを採用することが望ましいが、バッテリ・パック内部ではSPIやI2Cによる通信の方が有利だといえる。
中核機能を1チップ化した専用ICが登場
従来、上記の要件を備える高度なバッテリ監視システムは、A-D変換器ICやアナログ・マルチプレクサIC、基準電圧源IC、差動アンプICなどを組み合わせて構成する必要があった。ただし最近になって、こうしたバッテリ・システムの中核機能を1チップで提供する専用ICが製品化され始めている。
例えば、単体で最大12セルに対応でき、さらに複数個を縦列に接続することで、任意のセル数のスタックに対応可能なバッテリ監視IC「LTC6802」が米Linear Technology(リニアテクノロジー)社から2008年9月に発表されている。この監視ICを使えば、各セルの端子電圧を個別に測定できるほか、内蔵したスイッチを使って任意のセルを個別に放電し、スタック中のセルの充電状態をそろえる機能を実現可能である。
一例として、96個のリチウムイオン2次電池セルで構成したスタックを考えてみよう。スタック全体を監視するには、このバッテリ監視ICが8個必要だ。このとき各監視ICは、それぞれ異なる電圧範囲を監視する。つまり、4.2Vのリチウムイオン2次電池セルを使う場合、最低電圧範囲を担当する監視ICは、12個のセル群にまたがって、0V~50.4Vの範囲を受け持つ。そして、電圧範囲が次に低いセル群を担当する監視ICが50.4V~100.8Vの範囲を監視し、以下同様にしてスタックの上位電位側に対応する。
ここで問題になるのが、監視ICごとに動作電位が異なるため、監視IC間の通信が難しいことである。これについては各種の手法が提案されており、自動車メーカーがバッテリ・システムに求める要件の優先順位に応じて、それぞれ長所と短所がある。
バッテリ監視システムの5つの要件
バッテリ監視システムのアーキテクチャを選択する際、少なくとも次の5つの要件を検討しなければならない。すなわち精度と信頼性、製造性、コスト、消費電力である。それぞれの相対的な重要度は、最終顧客である自動車メーカーがバッテリ・システムに求める要件によって異なる。
●精度
バッテリ・セルが備える規定容量を使い切り、最大限の実効容量を得られるようにするには、バッテリ監視システムはセルの状態を高い精度で把握する必要がある。ただし、自動車は雑音が多い環境であり、電磁的な干渉が広い周波数範囲にわたって発生するため、高い精度を保証することは簡単ではない。精度を十分に確保できないと、バッテリ・パックの寿命と性能に悪影響を与えてしまう。
●信頼性
自動車メーカーは、バッテリ・システムのみならず、あらゆる面で非常に高い信頼性基準を満たす必要がある。特にバッテリは、エネルギ容量が大きい上に、電池技術によっては原理的に揮発性がある場合もあり、自動車全体の安全性における主な懸念材料になる。従って、バッテリ・システムを安全側に大きく振った条件でシャットダウンするフェール・セーフ機能を備える方が、自動車ユーザーにとっては不便な状況を生む可能性はあるものの、致命的なバッテリ故障よりは望ましいといえる。
すなわち、バッテリ・システムの設計者は、バッテリの状態を注意深く監視し、制御することで、システムの全寿命にわたる完全な管理を保証する必要がある。故障状態の誤検出と真の故障の両方を最少に抑えるため、バッテリ・パック・システムには、堅牢な通信と、最少に抑えた故障モード、フォールト検出機能を適切に設計して搭載しなければならない。
●製造性
最近の自動車には、多種多様な電子装置と複雑な配線ハーネスがすでに搭載されている。電気自動車やハイブリッド自動車では、バッテリ・システムをサポートする高度な電子装置と配線をさらに追加しなければならず、自動車の製造をさらに複雑にしてしまう可能性がある。サイズと重量の厳しい制約を満たしながら、大量生産に対応できるようにするには、部品の個数と接続個所の総数を最小限に抑えなければならない。
●コスト
複雑な電子制御システムは高コストになりかねない。マイコンやインターフェース制御IC、ガルバニック絶縁素子、水晶発振器など、比較的高価な部品について使用個数を減らせば、システムの総コストを大幅に削減可能である。
●消費電力
バッテリ監視システム自体も、バッテリにとっての負荷になる。バッテリ監視システムの動作時の消費電流を低減すれば、システム全体の電力効率が向上する。また、待機時の消費電流を抑えれば、自動車を使用していない期間におけるバッテリの過放電を防げる。
バッテリ監視システムの実装アーキテクチャは4種類
バッテリ監視システムの実装に向けた4種類のアーキテクチャを図1~4にそれぞれ示す。さらに、各アーキテクチャの長所と短所を表1にまとめた。
各例はいずれも、96セルのバッテリ・スタックを想定した。12個のセルを1つのグループとしてまとめた上で、8個のグループを直列に接続したスタックである。先に紹介したバッテリ監視IC(LTC6802)を8個使っており、各監視ICが8個のグループ1つ1つに対応する。
いずれのアーキテクチャも、自立したバッテリ監視システムとして動作する。各アーキテクチャともに、自動車のメインCANバスに接続するCANインターフェースを備えており、自動車のほかの部分からは電気的に絶縁されている。
●セル群ごとに独立したモジュールをメインCANゲートウエイ・コントローラにローカルCAN経由で並列接続する(図1)
12セルのバッテリに、バッテリ監視IC(LTC6802)とマイコン、CANインターフェースIC、絶縁用トランスを組み合わせたモジュールを8個用意し、各モジュールを共通のローカルCANバスに接続する。そしてこのローカルCANバスをCANコントローラ・モジュール経由で自動車のメインCANバスに接続するアーキテクチャである。
各バッテリ・モジュールを直接メインCANバスに接続していない理由は、バッテリ・モジュールが出力する大量の監視データによってメインCANバスがオーバーフローしてしまう危険性があるからだ。すなわちこのアーキテクチャでは、CANコントローラ・モジュールが、メインCANバスへのゲートウエイとして機能する。
●セル群ごとに独立したモジュールをメインCANゲートウエイ・コントローラにSPI経由で並列接続する(図2)
12セルのバッテリにバッテリ監視ICとデジタル・アイソレータを組み合わせたモジュールを8個用意する。さらに、マイコンとCANインターフェースIC、絶縁用トランスを搭載したコントローラ・モジュールを用意し、これに各バッテリ・モジュールをSPIバスなど経由で接続する。コントローラ・モジュールに搭載したマイコンは、各バッテリ・モジュールを調停するとともに、自動車のメインCANバスへのゲートウエイとしても機能する。
●単一ボード構成のバッテリ監視モジュール上でメインCANゲートウエイ・コントローラに直列接続する(図3)
この構成では、12セルのバッテリ・モジュールそのものには、監視ICや制御回路を搭載しない。その代わり、別のボード1枚に8個の監視ICを搭載しておき、各監視ICを8個の12セル・バッテリ・モジュールそれぞれに接続する。8個の監視IC同士は、SPIバス互換の非絶縁のインターフェースを使って通信する。このボードにはこのほか、マイコンとCANインターフェースIC、絶縁トランスを搭載する。このマイコンが、SPI互換のシリアル・インターフェースを介して監視ICの1つと通信し、バッテリ・スタック全体を監視/制御する仕組みである。このマイコンは、自動車のメインCANバスとのゲートウエイとしても機能する。
●セル群ごとに独立したモジュールを直列接続してからメインCANゲートウエイ・コントローラに接続する(図4)
このアーキテクチャは、各12セル・バッテリ・モジュール内のボードに監視ICが搭載されていることを除けば、図3に示したアーキテクチャに似ている。8個のバッテリ・モジュールは、監視ICが備える非絶縁のSPI互換シリアル・インターフェースを介して互いに通信する。このため物理的には、隣り合う監視IC同士を3線もしくは4線のケーブルで接続しておく。
このほか、マイコンとCANインターフェースIC、絶縁トランスを搭載したコントローラ・モジュールを用意する。このマイコンが、8個のバッテリ・モジュールのうち最低電位側のモジュールに搭載した監視ICを介して、バッテリ・スタック全体を制御する仕組みである。このマイコンは、自動車のメインCANバスへのゲートウエイとしても機能する。
適切なアーキテクチャを選ぶ
前ページの図1と図2に示したアーキテクチャは、いずれも並列型のインターフェースを使うため、多数の接続と絶縁が必要になり、通常は採用しにくい。バッテリ・モジュールそれぞれに搭載した各監視ICがホスト・システムと独立に通信できるように設計する必要がある。これに対し、図3と図4に示したアーキテクチャはシンプルで、制約事項も比較的少ない。
本稿で例に挙げた監視ICのLTC6802は、これら4つのアーキテクチャのいずれにも対応可能である。具体的には、図1や図2の並列型アーキテクチャに対応する品種と、図3や図4の直列型アーキテクチャに対応する品種がそれぞれ用意されており、システム設計者は設計案件ごとに最適な品種を選べばよい。
並列型に対応した品種は、監視ICごとに個別のアドレスを割り当てることで、コントローラから個別に制御できる。直列型に対応した品種は、複数の監視ICをSPIインターフェースを介して縦列接続することが可能だ。バッテリ・スタックの高電位側に対応する監視ICと低電位側に対応する監視ICは、このSPIインターフェースを介してデータをやりとりできる。監視IC間のSPIインターフェースに、外付けのレベル・シフターや絶縁素子は不要である。
ここまで述べたように、電気自動車向けバッテリ・パックには、さまざまな要求事項が突きつけられている。自動車メーカーは、バッテリ・システムに対して、信頼性に関する厳しい要件を満たしながらも、高い費用対効果が得られることを期待する。最近になって市場に投入された車載向けバッテリ監視ICを使えば、バッテリ・システムの性能を犠牲にすることなく、最適なアーキテクチャを選択できるようになるだろう。
【著者プロフィール】
Jim Douglass氏は、米Linear Technology社でデザイン・マネジャーを務めている。
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