AV機器は無線で相互接続可能に、WirelessHDコンソーシアム議長が語る
WirelessHDコンソーシアムの議長(Chairman)を務めるJohn Marshall氏(2008年12月5日に撮影)。
米SiBEAM社がサンプル出荷を開始した、WirelessHD方式に向けたチップ・セットの第2世代品。ハードウエア部分を改良することで、通信性能を大きく高めたという。
実際の室内を模した試験ルームを用意した。
実際の室内を模した試験ルームで確実にAV機器間を接続可能であることを、米SiBEAM社が提供する、WirelessHD方式に向けたチップ・セットの第2世代品で確認したという。
テレビ受像機を薄型化するためにチューナを外付けにして、外付けチューナと薄型テレビを無線で相互接続する――。2008年には、このような新たなタイプのテレビを各社が製品化した。チューナに接続する無線アダプタを日立製作所とシャープが製品化したのに続いて、ソニーと三菱電機が無線機能を内蔵したチューナを市場投入した。2009年以降も、AV機器を相互に無線接続する取り組みは進みそうだ。
無線でAV機器を相互に接続する方式には複数ある。その1つが、1080p(1920×1080画素)で60フレームの高品位(HD)映像を圧縮せずに無線伝送できることを訴求する「WirelessHD(WiHD)」である。60GHz帯を使って最大4Gビット/秒の伝送速度を得る。このWirelessHD方式の普及促進を図るコンソーシアムの議長(Chairman)兼、WirelessHD方式に向けた半導体チップの開発を手掛ける米SiBEAM社のマーケティング・事業開発担当のバイス・プレジデントを務めるJohn Marshall氏に、宅内無線ネットワークの未来像を聞いた。(聞き手=前川慎光)
EE Times Japan(EETJ) 現在、薄型テレビと外付けチューナを、無線で相互接続する機種が市場に投入されているものの、1対1でデータをやりとりしている。このタイプは、接続可能な機器が限られた「クローズ型システム」で、無線の利点を生かしているとは言えない。今後、AV機器接続の無線化への取り組みは、どのように進むと考えているか。
Marshall氏 薄型テレビと、セットトップ・ボックス(STB)、Blu-ray Discプレーヤ/レコーダ、ノート・パソコンを相互に無線で接続可能な「オープン型システム」へと進展していくだろう。その先には、これらの無線ネットワークに、デジタル・カメラやデジタル・カム・レコーダといった携帯型電子機器が、無線接続できるようになるはずだ。まず、2010~2011年には、据え置き型AV機器の無線化が実現されるのではないか。
現在製品化されている、薄型テレビと外付けチューナを無線で相互接続する機種は、ハイエンド品に限られている。2010~2011年には、ミドルレンジの機種にも無線化が広がるはずだ。確かに、これらの機器ではデータをやりとりする相手が限られる。そこで、2010年~2011年の時期にはさらに、チューナを内蔵した一般的なテレビ受像機でも、無線機能が搭載されるだろう。これによってテレビ受像機が、複数のAV機器と無線接続するオープン型になっていく。早ければ2009年には、オープン型システムを実現する動きがあるかもしれない。例えば、テレビ受像機をはじめとしたAV機器に外付けする無線アダプタが製品化されるなどである。
EETJ 異なるメーカーのAV機器の間で、1つの無線ネットワークを構築できるのか。
Marshall氏 そもそも、WirelessHD方式を策定した目的は、そこにある。すなわち、WirelessHD方式に対応すれば、メーカーが違ったとしても相互接続性を確保できるという点である。WirelessHD方式では、PHY層の上に、機器を相互に接続したり、制御したりするためのAVC(Audio Video Control)層を規定している。これによって、相互接続を実現する。この層の実装は必須(マンダトリ)ではない。ただし、ほとんどのAV機器でAVC層を実装することになるだろう。
一般消費者は、HDMIケーブルの無線化を望んでいる。このことは、HD映像の無線伝送について一般消費者の需要を知るために、WirelessHDコンソーシアムが実施した市場調査でも明らかである。AV機器を購入するときに重視する項目を複数回答してもらったところ、全体の64.3%が「機器の設置と接続が容易であること」だと回答した。さらに、53.5%は「設置自由度の高さ」、46.5%は「ケーブルが不要にできること」、30.7%は「携帯型電子機器との接続が容易にできること」であると回答している。
EETJ 1つの室内で、無線でデータをやりとりする場合、最も重要な要素は何か。
Marshall氏 セキュリティや伝送距離、使い勝手など複数の要素がある。市場調査の結果では、映像品質が最も重要であると指摘されている。すなわち、画質を劣化させずに、しかも非圧縮で送るという点である。これを実現できるのは、WirelessHD方式だけだと考えている。
もちろん、高い映像品質を実現できるからといって価格が大幅に高くなってしまっては、一般消費者に受け入れられない。次の論点は、現在の厳しい市場状況下で、一般消費者は無線化に対してどの程度の追加コストを許容するのかという点である。この点については平均で、機器の価格のおおよそ15%ならば追加的に支払うという結果を得た。例えば、40万円のテレビならば6万円である。
以上は、日本や韓国、台湾というアジア地域や、北米、欧州の一般消費者342人の回答を基にした早期解析の結果である。最終的には2000人の一般消費者の回答を詳細に解析する。
EETJ 無線化に要する費用について、再度聞きたい。無線機能を付加したときに、一般消費者に広く受け入れられる価格を実現できるのか。
Marshall氏 もちろん、高い映像品質を実現しながらも、民生市場で受け入れられる価格帯に抑えられると考えている。例えば、当社(SiBEAM社)が市場に投入しているチップ・セットを使った場合、現時点ですでに、競合他社に比べてシステム全体として部品コストは低いだろう。無線化に必要な電子部品は、アンテナ一体の高周波(RF)チップとネットワーク・プロセッサ、レギュレータ、コネクタだけである。今後さらに、半導体チップの製造プロセスを90nmから65nmプロセスに微細化したり、集積度をさらに高めたりすることで、部品コストの低減を図れると考えている。
4K2Kや3次元映像への対応も視野に
EETJ 60GHz帯を使うWirelessHD方式は、電波の直進性の高さゆえに、安定して映像を伝送するのが難しいのではないかという指摘がある。この課題への対策は何か。
Marshall氏 機器メーカーは実際の宅内を模した評価ルームで、試作チップを評価している。当社でも独自に評価ルームを構築して試験することで、安定して高い映像品質でデータをやりとりできることを確認する。
当社が最近サンプル出荷を開始した、WirelessHD向けチップ・セットの第2世代品は、機器間の接続不良を大幅に改善したものだ。パワー・アンプ(PA)やアンテナ・パッケージといったハードウエア部分を改良したことで、リンク・バジェット(Link Budget)やアンテナ利得といった通信性能を表す指標が、従来の品種に比べて22%向上した。この結果、従来の品種では、評価ルームで接続に問題があった場所(位置)でも、第2世代のチップ・セットではその接続不良が改善している。
EETJ この第2世代のチップ・セットを量産するのか。
Marshall氏 量産する品種や時期については、現時点では明らかにできない。ただし、第2世代のチップ・セットでは実用上問題のない通信性能を得ている。
EETJ WirelessHD方式の将来について聞きたい。現在、1080pよりもさらに高精細である4K2K(4096×2160画素)や、3次元映像の実用化が検討されている。これらの高精細コンテンツを無線で伝送するには、10Gビット/秒を超える伝送速度が必要だ。WirelessHD方式では、どのように対応するか。
Marshall氏 4K2Kや3次元映像といった高精細コンテンツへの対応が大切であることは認識している。WirelessHD方式の相互接続や認証試験のプログラムを策定した後に、次世代の仕様についての検討を始めるかもしれない。ただし、現在は検討を始めていない。
ビット・レートを現行の最大4Gビット/秒から高める方策はいくつかある。例えば、伝送効率(1Hz当たり伝送可能なデータ容量)を高めたり、利用する周波数帯域(チャネル)を増やしたりといった方法である。
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(前川慎光:EE Times Japan)
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