重要性高まる力率補正、デジタル制御でコスト削減
力率補正(PFC)は、今やほとんどの電源装置にとって必要条件となっている。電力供給網に接続する機器では、電力調整(パワー・コンディショニング)の重要性が高まっているからだ。
直流電源を必要とする機器では、回路に整流段が含まれる。通常、整流動作の入力には非線形性があるため、その電源装置の電源ライン(1次側)からは非正弦波の電流が流出する。このような機器が使用されるケースは着実に増加しており、電源ライン電流の高調波の問題が重大化しつつある。不適切な力率と、電源ライン電流に載った大きな高調波によって、変圧器や誘導機器の過熱、システム電圧品質の劣化、ピーク電流の増大による構成素子へのストレス増加などの悪影響が出てくる。さらに、高調波電流に対しては国際規格と規制当局によって厳しい制約が課せられており、このことからも電源品質向上の必要性がなおさら重要であることが分かる。こうした課題への解決策となるのが、PFC技術である。
本稿ではPFCの重要性が、かつてないほど増している理由を説明する。さらに、設計時にデジタル・シグナル・コントローラ(DSC)を活用してPFCを実装するための最適なコンバータ・トポロジや、最良の制御手法を選択する方法についても検討する。検討の根拠となる実験結果を示した後、モーター制御機器へのデジタルPFCの統合方法についても紹介する。
力率とは何か
力率とは何であるかを理解するには、皮相電力が有効電力と無効電力の2つの成分からなることを認識することが重要だ。
有効電力とは、機器が動作するときに、実際に消費される電力の成分である。この電力が、熱や光を発生させたり、あるいは機械を動作させたりする。有効電力はW(ワット)単位で表され、電力会社の電力量計にはkWh(キロワット時)単位で記録される。
一方無効電力は、実用的な動作には一切関係しないものの、誘導性の部品や負荷に伴う電磁界を維持するために必要とされる。無効電力はバール(VAR)単位で表わされ、電力会社の電力量計にはkVAR(キロバール)単位で記録される。必要な総電力容量(皮相電力)は、単純にkVA(キロボルト・アンペア)で表わす。
これらの電力成分を踏まえると力率は、「機器が実際の動作に使用する電力の、皮相電力に対する割合」と定義できる。理想的には、機器の力率は1になる。しかし実際の機器では、次のような理由から力率は1にはならない。(1)電気変位の結果として表れる、電圧に対する電流の位相ずれが存在するため。これを「変位力率」と呼ぶ場合がある。(2)電流波形を歪ませる電流中の高調波成分が存在するため。これを「歪み率」と呼ぶ。
以上より、力率を「歪み率と変位力率の積」と定義することもできる。力率改善は、電力会社にとって著しいコスト削減につながる場合が多いため、力率は重要な測定値となり、性能指数となる。
PFCの目的は、電力コンバータ自体が入力電圧に対して線形抵抗として振る舞うようにすることである。それによって、正弦波である入力電圧に対して入力電流も正弦波になり、電力供給システムがより効率的に動作するため、エネルギ消費が抑えられる。
電流高調波とは、基本波の整数倍の周波数を持つ正弦波である。これらは、過渡歪みや電力サージといった電源ラインへの外乱とはまったく異なる。電流高調波は、電力供給網に生ずる継続的で定常的な障害である。
電流高調波の原因と影響
電流高調波が発生する一般的な機器には、次のようなものがある――(1)整流器、無停電電源装置(UPS)、ステート・コンバータ、サイリスタを利用した機器(変圧器や調光器)、スイッチ・モード電源(SMPS)などをはじめとするパワー・エレクトロニクス機器。(2)溶接機、アーク炉、水銀灯などの産業機器。(3)発電機、モーター、変圧器などの可飽和誘導装置。
電流高調波により、次のような問題が発生する――(1)ブレーカ、ヒューズ、リレーなどの誤動作。(2)電子機器の損傷。(3)コンデンサ、変圧器、モーター、照明用バラストといった機器の著しい過熱。(4)隣接する電子機器との干渉。
これらの有害な影響を低減するには、入力に流れ込む電流の波形が、入力電圧プロファイルと同じ形状をしている必要がある。
コンバータを見かけ上抵抗にする
この課題は、PFCにはそれほど高度な周波数要件が課されていないことに解決の糸口がある。つまり、高周波リップルを除去するフィルタ機能さえあれば、電力コンバータ自体はすべての周波数で抵抗性である必要はない、ということだ。4つの基本的な電源コンポーネント、すなわちインダクタ、コンデンサ、ダイオード、スイッチがあれば、コンバータを見かけ上抵抗にできる。その際、そのままでは電力会社または電力供給網に還流されてしまう無効電力を局所化して、PFCコンバータ内に閉じ込める必要がある。
従来は下流の負荷を補償するのに、位相を進ませるにはバルク・インダクタ、位相を遅らせるにはバルク・コンデンサを使用していた。これらのバルク・コンポーネントは電源サイクル1周期内のエネルギを蓄積する。この手法の欠点は、コストが増加することと、高調波の補正ができないことである。
しかし、DSCや高度なパワー・エレクトロニクス素子が登場して、インダクタやコンデンサといったエネルギ蓄積部品の小型化が可能になった。エネルギを蓄えておくのは数十μsという短い時間で済むためだ。この手法は、高調波に対しても効果的な対策となる。
PFCのトポロジを検討
図1は、PFC機能を備えた汎用電力コンバータの基本ブロック図である。整流器は、交流入力を単極性のパルス出力に変換する。この波形がPFC機能付き電力コンバータの入力になる。PFC機能付き電力コンバータは、降圧型、昇圧型、昇降圧型など、さまざまなトポロジを採ることが可能だ。DSCには制御ループのフィードバックとして、VAC(1次側電圧)、IAC(1次側電流)、VDC(2次側電圧)の3つの信号を入力する。DSCからの出力は、PFCのMOS FETをスイッチングするPWMパルスのみである。
各種トポロジのうちのどれがPFCに適しているのかを判断するために、それぞれを検討してみよう。図2に電力コンバータの降圧型、昇圧型、昇降圧型トポロジを示す。表1は、さまざまなパラメータに基づいて、これら3種類のコンバータを比較したものだ。この表から、PFC機能を実装するには、クロスオーバー歪みがなく、コンバータを連続導通モードで動作できる昇圧型が最適であると結論づけられる。
昇圧型コンバータの制御には、さまざまな方法がある。
不連続導通モードでは、各スイッチング・サイクルの最後にインダクタの電流がゼロに戻るため、スイッチング損失が小さくなる。ただし、各スイッチング・サイクルで電流がゼロになるため、インダクタを流れるピーク電流、つまりスイッチング素子を通して流れる電流は、連続導通モードよりも比較的大きくなる。
臨界導通モードは、不連続モードが連続モード動作に近づくように最適化したものである。このモードによる動作では、ピーク電流と全高調波歪み(THD)が連続導通モードより大きいものの、不連続導通モードよりは小さくなる。臨界導通モードは負荷や入力電圧に応じてスイッチング周波数が変化する、可変スイッチング周波数で動作する。
連続導通モードは、ピーク電流レベルを最小限に抑えるために、昇圧インダクタを通して流れる電流がゼロにならないように維持する。つまり、これによって、不連続導通モードや臨界導通モードに比べて損失が低減される。従って、連続導通モードは電力レベルが大きい用途に適している。ただし、制御方法はより複雑になる。
デジタル方式で実装
図3は、DSCを使用したデジタル方式でPFC機能を実装した例である。ここで使っている手法は、平均電流モード制御と呼ばれる。この手法では、インダクタを通して流れる平均電流を強制的に正弦波にして、さらに出力電圧を調整する。
インダクタの平均電流波形を正弦波にするには、ソフトウエアによって正弦波パターンを生成する方法と、整流した電圧自体を使用する方法がある。図3の方式では、整流した電圧を使用して、所望のインダクタ電流波形を発生させている。TSはPWMスイッチング周期、tONはMOS FETの導通時間、tOFFはMOS FETがオフになっている時間である。時間tONは、必要なインダクタ電流波形が得られるように、次に説明するデジタル制御システムによって制御される。
以下の制御ループと補償回路は、ソフトウエアによってデジタル方式で実装される。
●電流ループ
制御ブロックの内側のループは、電流ループである。電流ループへの入力は、外側のループからのリファレンス電流信号とインダクタ電流である。電流誤差補償回路は、インダクタ電流がリファレンス電流信号を追従するように出力を制御するよう設計している。電流ループは、電圧ループよりも高速に動作する必要がある。電流補償回路の帯域幅には、入力周波数の2倍、すなわち100Hzまたは120Hzとなる半正弦波波形に正確に追従できるだけの広さが必要である。通常、約100kHzのスイッチング周波数に対する電流補償回路の帯域幅は5k~10kHzである。この程度のスイッチング周波数ならば、小型の部品で済む。電流コントローラは、PFCが備えるMOS FETのゲートを駆動する波形のデューティ・サイクル値を生成する。電流誤差補償回路には、PI(比例(proportional)、積分(integral))コントローラを使用する。
●電圧ループ
制御ブロックの外側のループは、電圧ループである。電圧ループへの入力は、直流リファレンス電圧と、検出された出力電圧である。電圧誤差補償回路は、負荷電流や電源電圧が変動しても、直流出力電圧を常にリファレンス電圧に対して一定に保つため、出力を制御するように設計してある。電圧コントローラは、内側の電流ループで使用するリファレンス電流を決定する制御信号を発生する。電圧ループの帯域幅には、入力周波数である100Hzまたは120Hzよりも十分に低い値として、10Hzを選択した。これは、出力電圧を一定に保ち、同時にインダクタ電流の波形を歪ませず、必要な形を維持できるようにするためである。電圧誤差補償回路にも、PIコントローラを使用する。
●電圧フィード・フォワード補償回路
電圧が低下すると、これに比例して、電流リファレンスを決定するVACとVPIの積も減少する。しかし、入力電圧が低下しても出力電力を一定に保つために、電流リファレンスを増加させる必要がある。入力電圧フィード・フォワード機能を搭載する目的は、たとえ入力ライン電圧が突然変動しても、出力電力を一定の値(負荷によって決定)に保つことである。この補償回路はデジタル方式で実装されている。入力ライン電圧の平均値を計算し、その結果で電流リファレンスを割る。こうして得られた信号は、内側の電流ループへの入力になる。
PFCを機器と統合
スイッチ・モード電源やモーター制御の分野の電源装置では、多くの場合、PFCをフロントエンド・コンバータとして使う。ここでは、家庭用エアコンなどの機器を例に説明しよう。図4を見ると、入力コンバータにアクティブPFC段が採用されていることが分かる。これはさまざまな国で課される厳格な規制に準拠するのに有効な回路である。DSCのA-D変換モジュールは、必要なフィードバック電流/電圧を測定する。これらの測定値に基づいて、PWMモジュールがパワー・スイッチを駆動する。このオンチップPWMモジュールの動作は、力率をほぼ1に保つために、2つのPIコントローラによって制御される。
同じDSCを使用して、センサーレス・ベクトル制御(FOC:Field Oriented Control)アルゴリズムにも、フィードバックとなる位相電流をA-D変換モジュールを通して入力する。インバータのパワー・スイッチを駆動するのにも、同じオンチップPWMモジュールを使用する。このパワー・スイッチは、複数のPID(比例(proportional)、積分(integral)、微分(derivative))コントローラによって制御され、エアコンのコンプレッサの速度とトルクを調整する。
1つのDSCを、PFC機能とFOCアルゴリズムの両方の実装に適用することで、DSCを使用せずに同じ機能を実装した場合に比べて、大幅にコストを削減できる。これは、FOCアルゴリズムの実装には、高価なASICや専用デバイスが必要なためである。PFCによって電力供給網へのストレスを軽減し、同時にエアコンのモーターを効率的に制御するという最終目標は、DSCを使用すれば容易に実現できる。
このような機能の多くがPFCとともにシングルチップDSCに集積化されつつあり、電力調整機能は機器にとって不可欠なものとなるだろう。サーバー機器向け電源、UPS、電気通信用の整流器電源、洗濯機、冷蔵庫、ゲーム機器、テレビ受像機など多くの適用例がある。
図5は、DSCを使用して実装したデジタル方式PFC機能の有効性に関する実験結果である。黄色の波形は入力電流で、青色の波形は入力電圧である。この実験結果から、入力電流の波形が電圧に追随しており、1に近い力率が得られていることが分かる。PFC機能を実装すれば、電力品質の改善にかかるコストの大幅な節減が可能になる。さらに、電力会社の損失を低減する効果もある。
【著者プロフィール】
Vinaya Skanda氏は、米Microchip Technology社のデジタル・シグナル・コントローラ部門でシニア・アプリケーション・エンジニアを務める。
【EE Times Japan 2009年4月号「Tech Trends」、pp.44~48掲載記事】
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