指向性制御用アンテナ・モジュール、BON Networksが評価ボードの提供開始

米BON Networks社のCEO & FounderであるGil Levi氏。

提供を開始した評価ボードの外観である。素子数が9つのアンテナ部とRFフロントエンド部、デジタル制御回路部を組み合わせたもので、「SEDAN」と呼ぶ。指向性がそれぞれ異なる11のビームを形成する。ビーム幅や利得はあらかじめ、このアンテナ・モジュールの設計段階で決めてある。

米BON Networks社の技術の特徴。出典:ジャパン ビジネス コンタクト グループ

同社が提供する技術を採用した場合の無線端末のブロック図。出典:ジャパン ビジネス コンタクト グループ

アンテナの指向性を変えるイメージ図である。出典:ジャパン ビジネス コンタクト グループ

 米国のベンチャー企業である米BON Networks社は、宅内の無線端末(CPE)やノート・パソコンなどに向けたアンテナ・モジュールの評価ボードの提供を開始した。

このアンテナ・モジュールは、複数のアンテナ素子(エレメント)と高周波(RF)フロントエンド部、デジタル制御部で構成したもので、「SEDAN(Smart electrically Steered Direction Antenna)」と呼ぶ。特徴は、アンテナの指向性を動的に変えるビーム・フォーミング(指向性制御)技術を、安価に実現することである。従来、ビーム・フォーミング技術は、軍事や衛星通信といった特殊用途や、無線基地局などに導入されてきた。しかし、民生分野に導入するにはコストが掛かり過ぎるという側面があった。

同社のCEO & FounderであるGil Levi氏に、このアンテナ・モジュールを民生分野に採用するメリットや実現手法などを聞いた。(聞き手:前川慎光)


EETJ ビーム・フォーミング技術を宅内無線端末(CPE)といった無線機器向けに導入するメリットは何か。
Levi氏 通信可能距離の拡大と通信性能の向上、機器間の相互干渉の抑制という、主に3つである。

無指向ではなく、アンテナに指向性を持たせれば、利得を高められる。具体的には、素子数が9つのアンテナ・モジュールで10dB、素子数が4つのもので6dBと高い利得が得られる。また、高い通信特性が得られる方向にアンテナの指向性を選んで向けることが可能だ。

これらの効果で、通信可能距離は3~4倍に広げられると考えている。通信性能の向上については、基地局から端末にデータを送る「ダウンストリーム」だけでなく、端末から基地局にデータを送る「アップストリーム」において、通信速度向上の効果が顕著に現れるだろう。高い通信特性が得られるように無線端末側のアンテナの指向性を変えられるからだ。これまで、アップストリーム側は、無線でデータをやりとりする際のボトルネックとなっていた。このほか、狙った方向にのみに指向性を高めることで、ほかの機器との干渉レベルを20dB減らせる効果もある。

これらのメリットは、無線LANやWiMAXといった通信方式に依存しない。現在は、「SEDAN WiMAX」と「SEDAN Wi-Fi」という2つの品種を提供している。宅内無線端末(CPE)やノート・パソコンのほか、WiMAX通信網と無線LAN網を接続する「ブリッジユニット」と呼ぶ無線機器にも有効だと考えている。

EETJ ビーム・フォーミング技術をどのように安価に実現したのか。
Levi氏 指向性を制御する手法には、デジタル・ビーム・フォーミング(DBF)と高周波(RF)ビーム・フォーミングの2つがある。当社の技術は基本的には、RFフロントエンド部で高周波信号の位相を変えてアンテナの指向性を制御する、後者の方式を採用する。ただし、位相を変える仕組みが従来とは大きく異なる。

そもそもRFビーム・フォーミング方式は、従来から軍事分野や衛星通信分野で使われてきた。放射する電磁波の位相を変える「移相器」と、アレイ・アンテナを組み合わせたもので、「フェーズド・アレイ・アンテナ」と呼ばれている。しかし、軍事や衛星通信分野向けアンテナ・システムのコストは100万~1000万円程度と高価で、民生分野に導入することは難しかった。部品コストが高価な移相器を使ってきたためである。

当社の技術の特徴は、軍事や衛星通信分野向けで使われてきた高価な移相器を使わずに、指向性制御を実現したことにある。高周波信号の位相を変える仕組みを、位相を変える分解能は劣るものの、コストが抑えられる独自のアナログ回路で実現した。さらに、当社はアンテナ設計そのものも強みとする。今回の制御方式に合わせたアレイ・アンテナを設計した。これらの工夫によって、アレイ・アンテナと制御回路を合わせたアンテナ・モジュールの価格を、民生機器に許容されるレベルにまで下げられた。なお、前者のデジタル・ビーム・フォーミングは無線基地局などで導入されている。アンテナ素子それぞれの信号系統に、D-A変換回路やRFフロントエンド回路が必要である。これを民生分野の無線端末に導入するのは、回路規模が大きくて難しいだろう。

EETJ 位相を変える独自のアナログ回路とは何か。
Levi氏 パワー・アンプ(PA)やバラン、アンテナ・スイッチ、低雑音アンプ(LNA)で構成するRFフロントエンド部に、アンテナ素子ごとに位相を変える機能を盛り込んである。「フェーズ・マニュピュレータ」と呼び、このアーキテクチャ(基本設計)は非常に複雑な構成を採る。

前述のように、移相器と呼ぶ位相を変えるためだけの回路は使用していない。当社の仕組みは、前述のように一般的な移相器に比べると位相を変える特性は劣る。しかし、WiMAXや無線LANといった民生分野に向けて十分に許容される特性を確保しつつ、部品コストを大幅に抑えた。当社の独自技術なので、これ以上の詳細は説明できない。RFフロントエンド部とアンテナ素子を最適に組み合わせて設計する技術も当社の強みであることを強調したい。

EETJ 最適な指向性を形成する仕組みは。
Levi氏 現在、360度の全方位に対して、9素子のアンテナを使って11方向に異なる指向性を形成する設定となっている。ビーム数を11としたのは、WiMAXや無線LANという通信方式を想定した試験の結果、最も適していたからだ。ビーム数はアンテナの個数に依存しない。技術的には、ビームの数はもっと増やせる。

最適な指向性を得る仕組みはこうだ。ビーム1からビーム11まで次々と指向性を変えながら、全方位に対して受信信号強度(RSSI)や信号対干渉雑音比(CINR)を測定する。この情報を基に、最も高い通信性能が得られるビームを設定する。無線LAN方式に対してはRSSI、WiMAXに対してはRSSIとCINRと組み合わせて使う。

ビームの構成、すなわち利得やビーム幅は、アンテナ・モジュールの設計段階であらかじめ設定してある。ビーム幅は、狭すぎても広すぎてもいけない。狭すぎるとフェーディングに起因した受信強度変動の影響を受ける。広すぎると利得が稼げない。計算機シミュレーションなどで最適な値を決定した。マルチパスの影響も考慮してある。このアンテナ・モジュールを購入した顧客は、複雑な計算や特段の準備をすることなく利用可能だ。

EETJ 製品供給の状況を教えてほしい。
Levi氏 すでに、宅内無線端末やノート・パソコンに向けた品種の評価ボードの提供を開始している。通信事業者(キャリア)やPCメーカーなどに向けたもので、すでに量産体勢は整っている。

提供している品種は2つある。1つは、USBインターフェースを備えており、外付けアンテナとして使える「SEDAN-USB」。もう1つは、機器組み込みタイプの「SEDAN-CPE」である。2009年3月にインドで開催された展示会で、これらを披露したところ、たいへん好評だった。その際の数社に評価ボードを提供した。

現在提供している品種の部品構成は、インターフェース回路とRFフロントエンド回路を組み込んだカスタム・チップ、デジタル制御回路を組み込んだCPLD(Complex Programmable Logic Device)などである。携帯型電子機器に向けて開発中の品種「SEDAN-LP」では、インターフェース回路とRFフロントエンド回路、デジタル制御回路すべてを1チップに集積化したASICを使う計画だ。ASICは、1米ドル以下のコストに抑えたい。アンテナの素子数は4つで、携帯型機器の電池部に格納できるように寸法は5cm×5cm程度にする予定である。


問い合わせ先:日本での販売代理店であるジャパン ビジネス コンタクト グループ、電話03-3446-1265

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