3D映像をより身近にするには
パイオニア 高橋威裕氏
3次元(3D)ディスプレイの製品化が進みつつある。多くのテレビ受像機メーカーは、左目用と右目用の映像を高速で切り替えるディスプレイを利用し、それと同期する専用眼鏡を使って、3D映像を視聴できるようにしている。
パイオニアはこの方式とは異なる「3D フローティング・ビジョン」を開発し、2009年8月末に「FV-01」の出荷を開始した。製品の企画、開発時点に持ち上がった課題をどのように解決したかを聞いた。
EE Times Japan(EETJ) 開発時には何に苦労したのか。
高橋氏 当社は他社とはまるで異なる3D表示方式を考案して、製品化した。他社の方式は大画面テレビで映画などを見て、迫力ある立体映像を楽しむことを目的としている。
当社はユーザーが3D映像に触れていると感じさせることを目指した。心理的な効果を生かすことで映像にあたかも「触った」かのように感じさせる。箱庭のように表現した世界に触れ、新しい臨場感をユーザーに与えるわけだ。
他社の方式では、目の焦点はディスプレイの表面に合っており、立体映像はその手前に見えている。映像を触ろうとしても映像と目の焦点の位置が異なるため、不自然になる。当社の方式なら立体映像と目の焦点の位置が一致するため、立体映像に手を伸ばしたときに違和感が少ない。専用眼鏡も必要ない。
基本的なコンセプトは2001年にすでに固まっていた。私が入社した2006年には何種類かの試作機が完成しており、展示会でユーザーの意見を聞いていた。
製品化した「FV-01」では、2次元(2D)映像を表示する液晶ディスプレイ・パネルの上に多数のレンズを配置したシートを載せた。そして遠くの物体は輪郭をぼかして暗めに表示し、近くの物体は輪郭をはっきりさせて明るく表示する。このような工夫でディスプレイの手前に映像が浮かんで見える。2Dの元絵にコントラストや陰影を追加することで、3Dに見せるわけだ。視差情報を持たない映像で3D表示可能だ。
ただし、当社の方式では3D表示しにくい絵もある。暗い背景の中に人物やキャラクタなどが浮かんでいるような絵は表現しやすいが、背景が描きこまれていると、3Dとも2Dとも言えない奇妙な絵になってしまう。
EETJ その背景に関する問題をどのように解決したのか。
高橋氏 焦点距離が異なる2つのレンズを用いて2枚の映像を重ねて表示すればよい。映像を多層化する。例えば、背景用のレイヤーと人物用のレイヤーを用意すればよい。
今後の顧客の要望に応じられるよう、多層化の研究は続けているものの、FV-01ではこの手法は使わなかった。3Dディスプレイという分野そのものが立ち上がったばかりであり、高度な表現を追求するよりも、製造コストを引き下げて用途を問わずいろいろな顧客に提供したかったからだ。
EETJ 目の前の3D映像に触れるというユーザー・インターフェースは実現できたのか。
高橋氏 第1弾の製品では、映像近辺の物体の存在だけを検知している。それでも映像に触ったかどうかを大まかではあるが検出できる。パソコン側でセンサー情報を取得し、これに応じて映像を変えられる管理ソフトウエアを添付した。4万9800円という価格を実現するには、ユーザーの手の位置情報を取得するセンサーを組み込むことはできなかった。
スピーカとマイクを内蔵し、ディスプレイの縁に埋め込んだ数個のLEDもパソコンから制御できる。ユーザーの工夫次第で、これまでにないユーザー・インターフェースも作り出せるだろう。今回の製品はパソコンにUSBで接続すれば使えるので、個人でも簡単に3D映像を扱える。
試作機では、指の座標を検知することで、ウインドウを指で操作したり、携帯電話機をスプーンのように使って映像の一部をすくって取り、その映像に含まれる情報を携帯電話機側に取得したりするなどさまざまな試みを繰り返している。今後の製品に組み込むときもこれまでの開発が役立つはずだ。
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高橋 威裕(たかはし たけひろ)氏








