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第2部 電極と回路構成の工夫で容量を高める

 電気自動車普及に向けた最大の課題は、2次電池の性能の低さだ。重量エネルギ密度と体積エネルギ密度のいずれもがガソリンと比べて小さく、充電1回当たりの走行距離が伸びないのだ。単位時間当たりに取り出せるエネルギはガソリン車に匹敵するが、エネルギ密度向上と両立しにくい。

 第1部で触れたように、各メーカーはエネルギ密度を高める研究を重ねている。また、エネルギ密度が小さくても問題が起こらない方法を考えているメーカーもある。

電池の形状を変えて密度を上げる

 電池モジュールのエネルギ密度を高める方法は2つある。電池モジュールの形状を工夫する方法と、電池セルの内部構造や材料を変える方法だ。

 電池モジュール内の電池セルの形状や配置を工夫することで無駄な空間を減らし、体積エネルギ密度を改善できる。電気自動車向け電池でも有効な改善策だ。「2000年に販売を開始した電動の軽自動車『ハイパーミニ』と比べ、2010年に生産を開始する電気自動車『リーフ』のエネルギ密度は2倍に向上している。電池セルの電極材料改善の効果もあるが、電池セルを多数並べたときにすき間の出来やすい円筒型から、すき間ができない薄いラミネート型に切り替えたことが大きい」(日産自動車でEV技術開発本部EVエネルギー開発部の担当部長を務める菅原浩氏、図1)。


図1

図1 日産自動車の電池セルの形状
平面状の電池セル(左)を積み重ねて電池モジュール(右)にしている。

 

 電気自動車向けの電池は、小さな電池セルを数千個接続した電池モジュールという形を採る(図2)。単体の電池セルでは電圧が4Vと低いため、直列に接続することで電圧を高める。さらに大電流を取り出せるよう、直列に接続したセルを並列に接続するのだ。


図2

図2 電気自動車に搭載する電池モジュールの構造
電池セルを必要な電圧に達するまで直列に接続した後、並列に接続する。

 

 電池モジュールの性能を上げるには先に説明したように電池セルの形状を工夫する方法もあるが、電池セルの性能を高めるのが一般的だ。電池セルの性能を上げる方法を解説していこう。

電極の改良でエネルギ密度向上

 電池セルを改良するには電池セル内の電極(正極、負極)と電解質の改善が必要だ。現在、各メーカーは電極の改善に取り組んでいる。

 リチウムイオン電池は当初、1次電池として開発が始まった。1980年代から充放電が可能な2次電池としての開発が始まっている。1980年代後半にはC(炭素)を用いた負極の開発に複数のメーカーが成功した。現在のようなリチウムイオン2次電池は、ソニーが1991年に製品化している。

 リチウムイオン2次電池はLi(リチウムイオン)の移動によって起こる「インターカレーション」によってエネルギを蓄える(図3)。


図3

図3 リチウムイオン2次電池の動作
Li(リチウムイオン)の移動によって、電極へのインターカレーションが生じる。これによりエネルギを蓄え、放電する。

 

 インターカレーションとは、ある物質の内部に別の物質が出入りする現象である。すき間が多い物質を電極に用い、そこにLiが出入りするようにすれば電池として機能する。負極にLiを吸蔵すると電池を充電でき、負極からLiを放出すると放電する。

 電極の体積が同じと仮定して、Liの出入りする量の大小が、リチウムイオン2次電池の容量を決める。Liの吸蔵量は放電容量(mAh/g)で示す。

 そして、インターカレーションの速度は、単位時間当たりに引き出せるエネルギ量を決める。単位時間当たりのエネルギ量を「パワー密度」と呼び、この値が高いと短時間に大量の電流を取り出せる。インターカレーションの速度は、電気自動車の加速性能や充電にかかる時間に直結する。

正極材には改良の余地が大きい

 リチウムイオン2次電池の正極材料は、開発当初からLiCoO2(コバルト酸リチウム)が有望だとされてきた。現在でもLiCoO2を正極に使ったリチウムイオン2次電池は多い。LiCoO2を正極に使ったリチウムイオン2次電池では、充電時は以下の反応式が右に進み、放電時は左に進む。

LiCoO2⇔Li1-xCoO2+xLi+xe

 LiCoO2は、Co(コバルト)が高価であるなどの欠点があるので、各メーカーはこれに代わる材料の研究を進めている。

 正極材に求められている特性は、Li源と成りうること、インターカレーションを起こしやすい結晶構造であることだ。インターカレーション時に高い電圧を発生させられる材料でもあることが求められる。そしてリチウムイオン2次電池では正極と負極の電位差は最大で4V程度だ。この条件下でも蓄えた電力をなるべく多く放出できることも求められる。

 このような条件を満たす物質としては、LiCoO2のほか、LiMn2O4(マンガン酸リチウム)、LiNiO2(ニッケル酸リチウム)、LiFePO4(リン酸鉄リチウム)などが挙げられる。これらの物質は製造条件によって多様な結晶構造を採る。放電容量を高めるには、インターカレーションを起こすように層状構造を作り込む必要がある。

 加えて、量産時に大量に使用するため、なるべく安価な材料を選びたい。正極材料の種類によって、電池セルの電圧は変化するが、車載用途ではモジュール構成を採るため、電池セル単体の電圧はそれほど問題にはならない。

 LiCoO2は放電容量を高められる点が長所だ(表1)。LiCoO2を正極に使用した場合の放電容量は150mA/gだ。しかしパワー密度が比較的低く、希少金属であるCo(コバルト)を含むため、高価だという欠点がある。例えばMn(マンガン)と比べるとCoの価格は50倍にもなる。


表1

表1 正極材料の特長
放電容量の高低以外に、コストや安全性、パワー密度が異なる。

 

 LiNiO2はやはり放電容量を高めやすく、200mAh/gに達する。さらにNi(ニッケル)はCoの半分程度のコストで済むので2次電池の価格を抑えられる。しかし、充電時の安全性に問題があり、高温環境で性能が低下する。

 LiMn2O4はコストが低く、安全性が高い。しかし、放電容量は120mAh/gと高くないほか、パワー密度が低い。

 LiFePO4は放電容量が160mAh/gと高く、コストが低く、さらに安全性に優れる。欠点はパワー密度が低いことと、導電性が低いことだ。

 それぞれ長所短所があるので、長所を高め、短所を打ち消す研究が進んでいる。エネルギ密度とパワー密度を最大化する取り組みだ。まずメーカーが取り組んだのは、NiとMn、Coをある比率で含む三元系の材料(LiNixMnyCo1-x-yO2)を用いた研究だ。Ni、Mn、Coを含む材料はLiのインターカレーションを起こしやすい構造を製造しやすい。

 三元系は、Ni、Co、Mnの最適な組み合わせ比率の研究に時間がかかる。どのように組み合わせた場合でも正極容量の理論上限は275mAh/gだとされている。現在は、高価なCoの比率を減らしながら、放電容量の高いNiの比率を増やすことで容量を増やす試みが進んでいる。

 三元系の材料にさらに工夫を加えたメーカーもある。ジーエス・ユアサは、三元系にLiFePO4を追加することで、重量エネルギ密度127Wh/kg、体積エネルギ密度239Wh/lの電池セルを開発した。これは同社の従来の三元系電池セルの約2倍に相当するという。新電池セルでは、電池の残存エネルギ量が少ないときでも出力密度を高く維持できるため、車載用途に向くとした。例えば、10%充電時の出力密度は1kg当たり1500Wであるという。

 三元系から離れて別の材料を研究するメーカーもある。パナソニックはLiNiO2にAl(アルミニウム)とCoを添加することで、エネルギ密度を高めながら、安全性の確保にも成功した。Coを加えるため多少高価になるが、10Ah級の大型セルで、1kg当たりのエネルギ密度141Whを達成できたという。三洋電機のモバイルエナジーカンパニービジネス開発統括部で統括部長を務める雨堤徹氏も「実用化されている正極材料のうち、LiNiCoAlO2はエネルギ密度が最も高くなる」と認めている。

 日立ビークルエナジーは、三元系材料を構成するNi、Mn、Coのうち、Coを排除し、NiとMnを使ったLiNixMn1-xO2(ニッケルマンガン酸リチウム)を研究している。この材料を使って、エネルギ密度115Wh/kgの電池セルを作れることを実証した。

Si負極材が注目を集める

 リチウムイオン2次電池の製品化を可能にしたのはC(炭素)からなるグラファイト(黒鉛)負極の開発である。現在でもグラファイト以外の材料を負極に使うことはほとんどない。

 グラファイトはC原子が平面上に横方向に結合したもの(グラフェン)が複数積層したものだ。グラフェン同士がファンデルワールス力によって上下に結びつき、層状の構造を形成する。ファンデルワールス力は中性の分子間に働く凝集力だが、引きつけ合う力はとても弱く、水素結合の1/10程度に過ぎない。このため、層間にLiが進入しやすい。さらにLiが層間から抜け出した後にも構造が元に戻りやすい。このような性質がリチウムイオン2次電池の負極として適している。

 充電時には以下の反応式が右側に進み、放電時には左側に進む。

6C+xLi+xe⇔LixC6

 さらなる性能向上のため、グラファイト以外の負極材料を探す動きもある。特に関心を集めているのがSi(シリコン)である。その理由は、SiのLi吸蔵量の大きさだ。理論値ではグラファイトのLi吸蔵量は372mAh/gだが、Siはグラファイトの10倍以上の4200mAh/gものLiを吸蔵できる。Siは地球上に大量に存在し、簡単に手に入るため、材料のコストも問題になりにくい。

 しかし、Si負極には2次電池のサイクル寿命を悪化させるという欠点がある。2次電池では充放電を繰り返すと内部抵抗が増加し、容量が減少する性質がある。公称容量の50~80%に達したときの充放電回数をサイクル寿命と呼ぶ。

 SiはLiを吸蔵したときに最大で400%まで体積が増加する。グラファイトとは異なり、Si同士の結合力は強いので、Liのインターカレーションが進むと、Siにひびが入り、最後には粉々になってしまう。Siの結晶構造が維持できなくなると、製造当初の電池の容量を維持できなくなる。

 三井金属は、Siを直径数μmまで極小化し、個々の粒子をCu(銅)で被覆することによりサイクル特性を高める研究を進めている。2009年12月には150サイクル後の容量維持率80%を達成したという。Cuで被覆しても膨張は起こるため、Cuで被覆したSi粒子の間に数μm径の隙間を設けている。Cuを選んだのは電気抵抗が小さく、パワー密度を上げやすいからだ。同社が開発した負極「SILX」の負極容量は、グラファイト負極の2倍である。

 トヨタ自動車は、微結晶SiをSiOxで緩く結びつけることによって、微結晶SiがLiを吸蔵しても、電極全体の体積があまり膨張しないようにした。

気軽に充電

 リチウムイオン2次電池のモジュールのエネルギ密度を高めるほかにも、電気自動車を使いやすくする方法はある。例えば、いつでもどこでも短時間で充電できれば実用上、問題は表面化しにくい。

 充電スタンドを多数用意するほかにも、電池の急速充電特性を高めるほか、無線充電を可能にするなど、さまざまな対応策が採れる。

 例えば、トヨタ自動車は2009年12月から家庭用電源から充電できるプラグイン・ハイブリッド型のプリウスを先行販売している。

 三菱自動車のi-MiEVは単相交流200V、三相交流200V、家庭用の交流100Vの3種類の充電方式を用意している。充電方式を3種類用意することで、より多くの場所で充電できるようにした。一般家庭でも利用できる単相交流200Vの場合、普通充電に7時間かかる。三相交流の200V電源を利用すれば、容量の80%を30分で充電できる。家庭用100Vを使うと充電時間は14時間だ。

 日産自動車は、無線充電の研究を進めている。床面に設置したワイヤレス充電器と電気自動車を組み合わせて試験している。将来、公共駐車場や料金所、交差点などにワイヤレス充電器が多数埋め込まれるようになれば、ユーザーが意識的に受電しなくてもよくなる。無線充電のメリットは大きい。

 三洋電機は太陽電池と2tトラックを組み合わせたシステムを試作している(図4)。出力210Wの「HIT」太陽電池パネル9枚を搭載し、「18650」サイズ(直径18mm×高さ65mm)のリチウムイオン2次電池3510本と組み合わせることで、16時間充電後に130km走行できるとした。充電設備を建設、設置する必要が一切無いため、たとえ電力が入手しにくい地域であっても電気自動車の普及に役立つ。


図4

図4 三洋電機の太陽電池トラック
用途は限られるが、充電にまったく費用がかからない自動車が実現する。

 

 大電流を使って急速充電する充電スタンドを活用するには、電池の急速充電性能を高める努力が必要だ。さらに電池のサイクル寿命を延ばせれば、無線充電の活用などより使い勝手の高い電気自動車を設計できる。

 東芝は、急速充電性能を高め、サイクル寿命を伸ばすことをもくろみ、電極の材料を工夫したリチウムイオン2次電池「SCiB」を製品化している。大電流を使うことで5分間で電池容量の90%を充電でき、6000回の充放電が可能である。例えば3000回の急速充電後の容量低下率は20%に過ぎない。電池の残容量が少なくなっても、電池に蓄えた電力を使い切ることができるという(別掲記事「使い切ってもダメ、フル充電もダメ」)。ただし、SCiBの重量エネルギ密度は三元系よりも低いので、蓄えられるエネルギ量は大きくない。

 負極にCではなく、Li4Ti5O12(チタン酸リチウム)を用いたことで実現した。正極にはLiMn2O4を用いた。

 

使い切ってもダメ、フル充電もダメ

 過充電や過放電はリチウムイオン2次電池にとっては致命的だ。過充電では正極物質からO2(酸素)が発生するほか、溶媒の反応によってCO2(二酸化炭素)が発生し、分解が進む。その結果電池自体が変形し、壊れてしまう。過放電すると溶媒が還元されて炭化水素が発生し、2次電池の機能が低下する。

 正常な動作範囲であっても電池の容量いっぱいまで充電したり、容量を完全に使い切るほど放電すると、電池の性能が低下する。

 容量いっぱいまで放電を起こすと、次のようにLiCoO2が飽和してしまい、Li2O(酸化リチウム)が生成し、元に戻らなくなる。

Li+LiCoO2→Li2O+CoO

 容量ぎりぎりまで充電するとCoO2(二酸化コバルト)が生成してしまう。さらに充電すると、CoO2からO2が発生する。この場合も元に戻ることはない。

LiCoO2→Li+CoO2

 以上の反応が進んでいくと、インターカレーションが起こりにくくなっていき、最後には電池として機能しなくなる。

電池モジュールを改善する

 電池モジュール内には多数の電池セルが組み込まれているが、電池セルの容量にはばらつきがある。3個の電池を直列に接続し、過充電や過放電を避けようとすると、3個のうち、最も容量の小さな電池セルの容量×3が直列接続の容量になってしまう。例えば、容量が100、105、110という3つの電池セルを直列につなぐと、容量は300(100×3)になってしまい、15が無駄になる。

 2次電池は充放電を繰り返すうちに容量が減少する。しかし、劣化の速度は電池セルごとに異なる。モジュールを組み立てると一番劣化の速い電池セルに合わせて容量が減ってしまう。

 この問題を回避することで、電気自動車の走行距離を伸ばす研究を進めるメーカーもある。例えば各電池の状態をモニタリングし、状態に合わせて接続状態を動的に変更するような仕組みの研究が進んでいる。

 三洋電機の雨堤氏は「接続状態を動的に切り替える際に重要なのはソフトウエアである。しかし電気自動車向けの2次電池ではエネルギ密度向上と並んで、コスト引き下げが課題になっている。なるべく低コストな制御基板上でソフトウエアが動作するよう研究を続けている」という。

 米National Semiconductor社 取締役会長 Brian L.Halla氏は「ACB(Active Cell Balancing)という技術を開発している。これは容量の小さい電池セルの充電が終わった後、残った電池セルだけに充電することを可能にする技術だ。ACBを使えば過充電が起きないことはもちろん、電池モジュールに蓄えて利用できる電力を高められる」と語る。

信頼性向上が容量向上に結びつく

 電池モジュールの信頼性を高めることによっても、取り出せるエネルギを増やすことは可能だ。

 米QUALLION社は電池のモニタリングや信頼性向上に向けた技術を開発している。代表的な技術としては車載にも向く電池モジュール「Matrix」の技術が挙げられる。

 Matrixの目的は、安全性と信頼性を兼ね備えた電池モジュールの開発にあるという。電池モジュールを構成する個々の電池セルが機能しなくなっても、電池モジュールとして正常に動作させるための技術だ。

 Matrixでは電池モジュール内の各直列ラインを途中で格子状に結ぶ「バランシング・ライン」とバランシング・ライン間を接続する「バランシング回路」を備えている(図5)。「15年以上の実績があり信頼性の高い18650セルを使うことで、電池セルに由来する問題を少なくした。さらに、Matrixを適用して、たとえ問題が生じても対応できるようにした」(米QUALLION社Manager, Research & Developmentの永田幹人氏)。


図5

図5 米QUALLION社のMatrix
回路構成とソフトウエアを工夫することで、電池モジュールの信頼性を高め、実際に利用できるエネルギ量を増やせる。青色で表した接続線と回路が従来の回路に追加した部分である。出典:米QUALLION社

 

 同社は8直列12並列の電池モジュールにMatrixを適用し、1000サイクルごとに電池モジュールから電池を1本ずつ取り外す試験を実施した。通常の回路構成では抜き取った電池が入っていた直列ラインはまったく機能しなくなり、ほかの直列部分に負荷がかかる。Matrixを適用したところ、3750サイクル後でも電圧に異常が見られなかったという。

 同社の取り組みはMatrixにとどまらない。電池セルの各部分の性能低下をモニタリングする際に役立つ「参照電極」を実用化しようとしている。

 参照電極は、正極と負極の間の電位差だけではなく、ある電位から正極と負極のそれぞれの電位がどの程度離れているかを測定するために用いる。電池の研究開発には欠かせないものだが、最終製品ではほとんど利用されていない。これはコストアップ要因になるためだ。

 QUALLION社は、長期間、正確な電位を読み取れる小型のLi4Ti5O12参照電極を開発した。「過充電や故障を即座に把握できるほか、経年劣化によって電池セルの正極、負極のどちらに問題が起きたのかを測定でき、長期的な信頼予測などに役立つ」(QUALLION社でMaterial Scientistを務める玉城亮氏)。

 さらに同社は1つ1つの電池セルに起因する障害を回避するために、折り曲げ可能なPTCR(positive thermal coefficient resistivity)薄膜を開発した。18650セルなどでは円筒形の空間を有効に利用するために、正極とセパレータ、負極を組み合わせたシートをロール状に巻いている。このため、PRCR薄膜にも柔軟性が必要である。

 同社が開発したPTCR薄膜は、1つの電池セル内で起こった問題を回避するための技術だ。従来のリチウムイオン電池は電池セルの内部温度の上昇に応じて電流を遮断するPTC(Positive Temperature Coefficient Thermistor)素子を内蔵している。PTCR薄膜は、電池セル内の一部で短絡が起きたとき、短絡が起きた部分だけを絶縁し、残った部分をそのまま利用し続けるための技術である。

 ナノ・サイズのBaTiO3(チタン酸バリウム)を高分子バインダで結合させることで、柔軟性を持たせたことが特長である。

 

リチウムイオン2次電池を超える

 「リチウムイオン2次電池の次はリチウム空気2次電池だ」。産業技術総合研究所エネルギー技術研究部門でエネルギー界面技術研究グループ長を務める周豪慎氏の主張である。電池セル同士を比較すると、リチウムイオン2次電池の100倍を超える重量エネルギ密度を達成できる見込みがあるという。

 同氏が試作したリチウム空気2次電池では、電極1g当たり0.1Aの放電をし続けた場合、空気極1g当たり50000mAhの電流を取り出せる。放電電圧が2.5Vの場合、エネルギ密度は1kg当たり7万5000Wh/kgに相当し、ガソリンのエネルギ密度をも上回る*1)

 同氏が試作したリチウム空気2次電池は図A-1のような構成を採る。


図A-1

図A-1 産業技術総合研究所が開発したリチウム空気2次電池
負極の金属Liから正極(空気極)の水性電解液を固体電解質で完全に分離した。出典:産業技術総合研究所

 

 放電時の反応は負極では、Li→Li+eとなり、正極ではO2+2H2O+4e→4OHとなる。充電時は逆向きの反応が起こる。

 ただし、リチウム空気2次電池では反応経路が上記の理論通りに進まないことがあるという指摘がある。「リチウム空気2次電池を試作し、反応生成物を調べたところ、溶媒の酸化など本来起きないはずの反応が起きていたと考えられる。実用的なリチウム空気2次電池を開発するには、O2(酸素ラジカル)の影響を受けない溶媒の開発が前提になる」(トヨタ自動車電池研究部の水野史教氏)という。

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