インタビュー
» 2008年09月30日 11時00分 UPDATE

Freescale Semiconductor社CTO Lisa T. Su氏:メニーコアの時代がすぐそこに

組み込み機器の分野でも、ネットワーク/通信などに向けたハイエンド機機を皮切りに、2個や4個のコアを集積した既存の「マルチコアプロセッサ」から、より多くのコアを集積する「メニーコアプロセッサ」への移行が数年以内に始まる…。米Freescale Semiconductor社の最高技術責任者(CTO)を務めるLisa T. Su氏はこう予見する。同氏は、メニーコア時代に向けて突き進む半導体メーカーが研究開発で抱える最大の課題はソフトウエアだと指摘する。

[薩川格広,EE Times Japan]

EE Times Japan(EETJ) 半導体メーカーは現在、どういった領域の研究開発に注力すべきか。

Su氏 半導体業界は今とてもエキサイティングである。ただし研究開発の観点からは、課題の多い時代だといえよう。その中でも、特に3つの領域に注力する必要があると感じている。1つ目は半導体プロセス技術、2つ目は製品開発、3つ目はソフトウエアだ。

EETJ それぞれについて詳しく説明してほしい。

Su氏 1つ目の半導体プロセス技術では、32nm世代への移行が大きな課題である。すでに65nm世代や45nm世代の製造技術は確立されており、多くの半導体メーカーがこれらの技術を大規模チップに適用している。32nm世代へ移行する際には、リーク電流に起因する消費電力の増大を抑えることが最大の課題の1つになる。組み込み機器に向けたロジックLSIを手掛ける半導体メーカーは、リーク電流の低減に向けて、ゲート絶縁膜にhigh-k(高誘電率)材料を採用しゲート電極に金属材料を使う、いわゆる「high-k/金属ゲート」の導入に取り組む必要がある。

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 2つ目の製品開発では、顧客である機器メーカーが必要とするタイミングで適切な半導体チップを提供できるような設計手法の確立が急務だ。半導体チップの設計期間は、集積するIPコアの数が増えたり、実装する機能の複雑度が高まったりしていることから、長期化の傾向にある。製品の複雑化によって、新技術が登場しても従来のように素早く導入できなくなっていることも事実だ。

 3つ目に挙げたソフトウエアの領域こそが、半導体メーカーにとって最大の課題だといえる。現在の半導体チップは、さまざまな機能を高度に統合した1つの「システム」である。半導体メーカー各社は、半導体チップそのものに、このシステムを動作させるソフトウエアを組み合わせて「ソリューション」として提供中だ。このソフトウエアの開発規模が飛躍的に増大している。実際に、半導体メーカーにおけるハードウエアエンジニアとソフトウエアエンジニアの比率はほぼ50%ずつになっている。

EETJ これらの課題にFreescale Semiconductor社はどう対応するのか。

Su氏 半導体プロセス技術では、現行の45nm技術と同様に、米IBM社が主導する共同開発グループ(いわゆるファブクラブ)に参加する。最先端プロセスの開発では、材料技術の分野で革新が求められており、多くの企業から優れたエンジニアを集められる共同開発のメリットが特に大きい。製品開発では、ネットワーク/通信機器や、自動車、民生機器、産業機器、無線機器といった市場分野ごとに異なる機器メーカーの要求に応じられるように、これまで以上に機能集積度の高いシステムLSIやSiP(System in Package)品の開発に取り組む。ソフトウエアの領域では、機器メーカーがアプリケーションソフトウエアを開発したり、既存のソフトウエアを移植したりする際の負荷を軽減できるようなソフトウエアインフラの構築を急いでいる。

マルチ開発に仮想化環境用意

EETJ 半導体メーカーの研究開発で「ソフトウエアが最大の課題だ」と指摘する背景を詳しく聞きたい。

Su氏 マルチコアプロセッサの普及と、メニーコアプロセッサの登場が背景にある。マルチコア/メニーコアプロセッサが備える高いハードウエア性能を引き出すのに不可欠な、高度に並列化したソフトウエアの開発手法が確立されていない。半導体メーカーとして当社は、並列化ソフトウエアの開発を支援するツールを提供すべきだと考えている。

 ここでマルチコア/メニーコア・プロセッサとは、それぞれが特定の処理を担うヘテロジニアスな(異種の)コアを複数集積した旧来のマルチコアプロセッサではなく、より汎用的な処理に向けてホモジニアスな(同種の)コアを複数集積したプロセッサである。

 例えばハイエンドの応用分野であるネットワーク/通信機器では、すでに2個あるいは4個のホモジニアスなマルチコアプロセッサが主流であり、数年後には8個、そしてそれ以上のコアを集積するメニーコアの時代に突入する。実際に当社は、Powerアーキテクチャに基づくコアを最大8個集積したプロセッサ「QorIQ」をネットワーク/通信機器向けに開発し、2009年半ばまでにサンプル出荷する予定である。

EETJ マルチコア/メニーコア上のソフトウエア開発は、基本的にはプロセッサのユーザーである機器メーカーの仕事になるはずだ。

Su氏 確かにそうだが、半導体メーカーとしては、高度に並列化したソフトウエアをユーザーが容易に開発できる環境をインフラとして整えて提供する必要がある。マルチコア/メニーコアに対応したOSや、コンパイラなどの開発ツールのほか、ユーザーが開発したアプリケーションソフトウエアのデバッグや並列処理の最適化に向けたシミュレーション環境などを、ソフトウエア関連のサードパーティ企業と連携して用意する。

 ユーザーがマルチコア/メニーコア・プロセッサのアプリケーションソフトウエアを開発する際に特に問題になるのは、シングルコアやデュアルコアのプロセッサに向けた既存のソフトウエアを、クワッドコアあるいは8個のコアを集積したプロセッサ向けに移植する場合である。並列化可能な処理単位に分割し、各処理を複数のコアそれぞれに適切に割り当てなければ、ハードウエアの性能を引き出せない。このためソースコードレベルで処理の分割や割り当てを調整しながら、シミュレータを使って性能を評価できる仕組みが必要だ。

 そこで例えば前述のQorIQでは、最大8個のコアを集積するプロセッサのハードウエアをPC上で仮想的に動作させるシミュレーション環境を提供する。組み込み向け仮想化ツールベンダーの米Virtutech社と共同で開発した。同社のシミュレータ「Simics」上で、機能検証に向けて高い実行速度が得られるモードと、性能の詳細検証に向けてサイクル精度が得られるモードを切り替えて使えるハイブリッド型のプロセッサモデルを動作させて、アプリケーションソフトウエアを検証できる。


Lisa T. Su(リサ・T・スー)氏

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2007年6月に米Freescale Semiconductor社に入社し、同社の全世界における研究開発を統括する。同社に入社する前は、米IBM社で半導体研究開発担当のバイスプレジデントを務めたほか、同社Systems and Technology Groupの技術開発およびアライアンス担当バイスプレジデントや、PowerPC製品ラインのディレクタなどを歴任した。米Massachusetts Institute of Technology(MIT)で電気工学の学士号と修士号、博士号を取得している。

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