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SiTime社が携帯機器向けMEMS発振器発売、低消費電流と立ち上がりの短さを訴求電子部品 タイミングデバイス

» 2009年02月04日 00時00分 公開
[前川慎光,EE Times Japan]

 MEMS発振器はこれまで、オフィス機器や産業機器、情報関連機器などに採用されてきた。米SiTime社は、MEMS発振器の新たな市場として携帯型電子機器を狙った3品種「SiT8003/SiT8033/ SiT8003XT」を発売した。

 消費電流が低く、立ち上がり時間が短いことが特徴である。具体的には、動作時の消費電流が3.5mAで、待機時が10μA。立ち上がり時間は3msである。同社従来品「SiT8002」の消費電流は、動作時が19mA、待機時が50μA。立ち上がり時間は50msだった。立ち上がり時間とは、電源電圧を印加した後、仕様で規定した出力特性が得られるまでの時間を指す。携帯型電子機器では、電池駆動時間を延ばすために、動作モードと待機モードを切り替えながら動作させる場合がある。このような機器の場合、立ち上がり時間の短さが求められるという。「競合する水晶発振器では、動作時の消費電流が10mA、立ち上がり時間が5msである。これを上回る性能を得た」(同社)。

図 MEMS技術で作り込んだ共振子と、これの駆動回路、PLL回路を1パッケージに格納した「MEMS発振器」を3品種拡充した。SIMカード向けに0.25mmと薄い品種も用意した。

 MEMS技術でSi(シリコン)チップに作り込んだ共振子のほか、共振子の駆動回路とPLL(Phase Locked Loop)回路で構成する。今回、消費電流の削減と立ち上がり時間の短縮が図れた理由について同社は、「一概には言えない。さまざまな部分で数多くの改善を施すことで実現した」(同社のMarketing 担当Vice Presidentを務めるPiyush Sevalia氏)と説明した。消費電流の削減については、「チップ全体の消費電流の90%をPLL回路部が占めていた。これを低く抑えた」(同氏)という。

図 「MEMS関連デバイスの将来は明るい」と語る、SiTime社のMarketing 担当Vice Presidentを務めるPiyush Sevalia氏。

出荷前に各種パラメータを設定

 SiTime社は、発売した3品種が「プログラマブル」であることも訴求する。すなわち、出力周波数や電源電圧、周波数精度を、ユーザーが指定した値に工場出荷の前段階で設定する。このような仕組みを採ることで、「サンプル品は受注後24時間以内、量産品は2週間以内に出荷可能だ」(Sevalia氏)という。

 3品種の出力周波数範囲は1M〜110MHzで、ジッターはrms(root mean square)値で3ps(ピコ秒)以下である。周波数偏差は±25 ppmまたは±30 ppm、±50 ppm、±100ppm、電源電圧(入力電圧)は1.8Vまたは2.5V、2.8V、3.3Vのいずれかを選べる。

図 SiTime社が手掛ける製品分野である。MEMS技術で作成する共振子、共振子とこれの駆動回路を組み合わせた発振器、発振器に機能を付加したタイプの3分野にわたる。

 3品種はそれぞれ、パッケージの厚みや出力系統数が異なる。SiT8003は、厚みが0.85mmで、実装面積が7mm×5mmまたは5mm×3.2mm、 3.2mm×2.5mm、2.5mm×2mmである。SiT8033は、厚みと実装面積はSiT8003と同じで、2つの出力系統を備える。具体的には、基本出力周波数をf0とすると、もう1つの出力周波数をf0/2またはf0/3、f0/4、f0/8のうちから選択して注文できる。3品種目のSiT8003XTは、厚みが0.25mmで、実装面積が3.5mm×3.0mmである。大容量SIM(Subscriber Identity Module)カードなどに特化した品種である。

図 今回発表した3品種の位置づけ。消費電流の低さや立ち上がり時間の短さを訴求し、携帯型電子機器に売り込む。

 いずれの品種も2009年2月中旬にサンプル出荷を開始する。量産は、2009年3月下旬以降に始める。価格に関しては、顧客ごとに個別に対応するとして明らかにしていない。

「もはや新しいデバイスでは無い」

 今回発売したMEMS発振器で置き換えを狙うのは、水晶発振器のうちでもプログラマブル水晶発振器やSPXO(Simple Packaged Crystal Oscillator)の製品分野である。水晶発振器の市場に関して、日本メーカーが全世界の市場シェアの7割を占めているという。このような背景からSiTime社は、日本市場を攻略することがMEMS発振器を普及させる上で重要だと考えている。

図 MEMS発振器の特徴を5つ挙げた。

 「当社はこれまで、コンピュータや民生、産業、通信、医療、軍事といったさまざまな分野の合計800の開発案件に対してサンプル品を提供してきた。すでに量産を開始した品種もあり、2008年12月末の時点で合計325万個を出荷した実績を持つ。MEMS発振器というと新しく登場したデバイスだというイメージがある。そうではなく、すでに数多くの機器で採用されているデバイスだ」(Sevalia氏)。なお、水晶発振器のうち、温度補償型水晶発振器(TCXO)や恒温槽付水晶発振器 (OCXO)に関しては、現在のMEMS発振器の性能で置き換えを狙うのは難しい。

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