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第5回 トランジスタには接続方法が3つAnalog ABC(アナログ技術基礎講座)(2/3 ページ)

» 2009年08月20日 00時00分 公開
[美齊津摂夫ディー・クルー・テクノロジーズ]

「きっかけ」はベース電流

 それでは、トランジスタではどのような順番で電流や電圧が決まっていくのでしょうか。NPN型トランジスタの場合、次のような順番になります(図2)。


図2 図2 トランジスタの動作 ベース電流(IB)をきっかけにして、ベース電流の電流増幅率β倍に相当するコレクタ電流(IC)が流れます。
  1. ベース端子とエミッタ端子間に電圧V1を印加する。
  2. ベース電流が(IB)、ベース端子からエミッタ端子に流れる。
  3. ベース電流のβ倍のコレクタ電流(IC)がコレクタ端子に流れ込む。
  4. 負荷抵抗とコレクタ電流の値によって、コレクタ電圧VCがV2−ICR1と決まる。

上の順番で2番目のステップから始めることも可能です。すなわち、「ベース端子とエミッタ端子間に電流を流す。その結果として、ベース端子とエミッタ端子間に電圧が発生する」という流れです。

 ここで注意すべき点があります。「コレクタ電流=電流増幅率β×ベース電流」の関係があるので、ベース電流がβ倍に大きくなってコレクタ電流として流れているように見えるかもしれません。実際はそうではありません。ベース電流がエミッタ端子に流れたことが「きっかけ」となって、コレクタ電流がエミッタ端子に流れるのです。

 この現象は、横断歩道の風景にそっくりです。横断歩道のこちら側(コレクタ側)で大勢の人が赤信号で立ち止まっています。そこに無茶な人が1人、どこからともなく(ベース端子に)現れて、向こう側(エミッタ側)に渡ってしまった…。そうすると、横断歩道を渡った1人の動きを見た大勢の人が、「みんなで渡れば怖くない」とばかりに横断歩道の向こう側に渡ってしまう。これと似たようなことがトランジスタでも起こっていると想像すると分かりやすいです。

グラフの外形が特徴的

 具体的に、電流や電圧にはどのような関係があるのでしょうか。イメージしやすいように、NPN型トランジスタのベース-エミッタ端子間電圧とベース電流、コレクタ電流の関係、コレクタ電圧とコレクタ電流の関係を図3に示しました。

図3 図3 電流や電圧の変化の様子 (a)はべース-エミッタ間電圧と、ベース電流やコレクタ電流の関係。(b)はコレクタ電圧とコレクタ電流の関係を示しました。

 図3(a)を見て下さい。ベース-エミッタ端子間電圧の変化に対して、ベース電流とコレクタ電流が指数関数として増加しています。「ある電圧」から急激に電流が増える格好になり、この電圧を「しきい値電圧」または「オン電圧」と呼びます。縦軸(電流軸)を拡大したり縮小したりしても、グラフの形は変化しません。指数関数の面白いところです。

 図3(b)は、コレクタ電圧とコレクタ電流の関係です。トランジスタについて記載した参考書でよく目にするグラフだと思います。ベース-エミッタ端子間電圧(またはベース電流)をパラメータにしています。一般にトランジスタは、グラフの曲線が平らな領域で動作させます。コレクタ電圧が変化しても、流れるコレクタ電流が変わらない電流源として使うためです。コレクタ電流が電圧に対して変化する領域は、「飽和領域」*4)と呼びます。この領域では、電流増幅率βや周波数特性が大きく変化して、トラブルが発生しがちです。なるべく使わないように回路を設計する必要があります。

*4) MOS FETでの「飽和領域」とは、まったく逆の意味になるので注意が必要です。


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