インタビュー
» 2009年11月11日 11時00分 UPDATE

米National Semiconductor社 取締役会長 Brian L.Halla氏:エネルギを創るエレクトロニクス

太陽光発電、二次電池、LED照明が関心を集めている。しかし、現在はこれらの装置の潜在能力が十分発揮できていないという。材料科学ではなく、エレクトロニクスを適用することでより効率の高い装置を作る方法について聞いた。

[畑陽一郎,EE Times Japan]

EE Times Japan(EETJ) 省エネルギに関してエレクトロニクス技術はどのように関与するのか。

Halla氏 米国を例に挙げると、環境に悪影響を与える化石燃料が主なエネルギ源になっている上に、発電した電力のうち55%が送電中に失われている。そこで、太陽光発電、二次電池、照明が省エネルギに役立つとして脚光を浴びている。だが、それぞれの技術にはまだまだ潜在能力が残っている。どの技術も長年使われてきたが、効率向上のためにエレクトロニクス技術が十分に活用されていないということだ。例えば、太陽光発電を考えると、通常は複数のモジュールを接続して使う。あるモジュールの上に何かゴミが付くと、モジュール全体(ストリング)の発電能力が落ちてしまう。同様に、各モジュールの配置角度が異なるためにモジュールごとに日照量が異なり、この場合も装置全体の発電能力が落ちる。太陽電池ストリング設置後に効率を調べてみると、本来の発電能力の50%にしか達していないということがよくある。

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 話を分かりやすくするために、懐中電灯を例に挙げよう。6本の電池を直列に接続して使用した場合、1本が切れかかっていると、懐中電灯全体の出力が落ちてしまう。太陽電池も同じだ。ストリングという形で直列につながっているため、1つが十分な性能を発揮していないと、全体の性能が落ちてしまう。

 同じことが二次電池にも言える。確かに二次電池の性能には大変な進歩があったが、化学の世界での改善にとどまる。エレクトロニクスを適用して二次電池の寿命を延ばす試みはこれまでほとんど行われてこなかった。

 照明も同じだ。高速道路などの照明に使われるナトリウム灯はスイッチを入れてから点灯するまでに長い時間がかかる。熱の無駄も多い。状況に応じたスイッチのオンオフもできない。最近ようやくLED照明の適用が始まったが、不十分だ。

EETJ 太陽光発電についてはどのような取り組みを進めているのか。

Halla氏 「SolarMagic」という製品を開発し、ウェストホールディングスと協力して日本市場でも販売を開始している。日本の家屋は屋根面積が狭く、屋根の形状が必ずしも設置に適していない。先ほどの太陽光発電モジュールの問題が起きやすい。SolarMagicを使うことで従来方式では失われていた電力を最大50%回復できる。

EETJ 二次電池の課題は何か。

Halla氏 二次電池を電気自動車に用いた場合に問題がある。トヨタのハイブリッド自動車(HEV)「Prius」は日本市場でも人気を集めている。しかし、ガソリンを使わず、必要なすべてのエネルギを電力だけでまかなおうとすると、走行距離が大幅に短くなる。

EETJ 走行距離の問題は解決できるのか。

Halla氏 SEMS(Smart Energy Management System)を適用することだ。具体的には電池の放電時と充電時の制御をきめ細かく行うことで、容量や寿命を改善できる。私は電池だけで動作する米Tesla Motors社の電気自動車「Tesla Roadster」を使っているが、二次電池の寿命がよく分からない上に、交換すると3万ドルかかる。誰でも電池の交換までなるべく長く使いたい。

 Tesla Roadsterにはリチウムイオン二次電池のセルが6800個搭載されている。これらの中にはどれ1つとして同じ容量のセルはない。仮に当初まったく同じ容量でも化学変化や温度変化に応じて劣化の速度がセルごとに変わってくる。

 ここで充電を試みたとしよう。一番容量の小さいセルが満充電に達しても、他のセルはまだ充電が終わっていない。最も容量の多いセルを100%充電しようとすると、他のセルは過充電になり、一部の電力が熱に変わってしまう。このため電池寿命が短くなる。放電時も似たような問題が起こる。結局、走行距離は一番容量の小さなセルで決まってしまう。

 当社はACB(Active Cell Balancing)技術を開発しており、容量の小さいセルの充電が終わると、残ったセルにのみ電力を供給する。これで熱に変わる電力はなくなり、過充電は起きない。走行距離が長くなり、電池の寿命が延びる。当社は中国のバス会社と協力してACB技術を検証している。この電気バスは容量が500Ahの二次電池パックを150個使っているが、電池パックを車体に内蔵するため、放熱に課題があり、寿命が十分には長くない。同社は現在ACBを使っていないため、3週間ごとに電池パックを取り外してリバランスすることで、なんとか寿命を長くしている。ACB技術で解決できるはずだ。

 ACBには他の利点もいくつかある。Tesla Roadsterの二次電池は重量が1000ポンド(約454kg)あり、車重の約5割を占める。車体の形状も二次電池のパックの形で決まっている。ACB技術を適用すると、二次電池を小さなパックに切り分けられるために、形状が比較的自由になる他、従来型の内燃機関の車に後付けして電気自動車化する場合にも役立つ。さらにACB技術を使えば過充電がなくなるため、大電流で充電でき、従来よりも短い時間で充電が完了することになる。

 ACB技術は今後6カ月以内に商用化する予定だ。まず自動車業界に適用されるため、ゆっくりと市場に広がるはずだ。ただし、二次電池メーカーにはこの技術の適用に抵抗もある。とにかくコストを低減しようとしているからだ。重要なのは最終消費者の声だ。電池寿命が十分長くない電気自動車は欲しくないという声が十分強くなれば、ACB技術の普及も早まるだろう。

EETJ 照明については何ができるのか。

Halla氏 まずは効率の悪い照明をLED照明に置き換えることだろう。その次はスマートな照明だ。例えば、誰もいない駐車場に照明が必要なのか。幸いLED照明は電源投入から点灯までの時間が短く、電源遮断後すぐに電源を投入できる。LED照明をインテリジェント化して人や車を検知し、こまめに消灯できる。次は通信機能だ。例えば高速道路では車が接近したときに一番近い照明が検知し、次の照明、その次の照明に通信して明るく照らす。その後、減光する。

 当社のLED照明向け半導体製品は調光機能を備えており、需要が伸びている。同部門では売上げが四半期ごとに2倍に増えているほどだ。


Brian L.Halla(ブライアン L. ハーラ)氏

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1969年、米University of Nebraskaで電気工学の学士号を取得している。米Intel社に14年間勤務。その後、米LSI Logic社(現米LSI社)のExecutive Vice Presidentなどを務める。1996年にチェアマン兼CEOとしてNational Semiconductor社に加わる。

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