コラム
» 2010年05月12日 00時00分 UPDATE

製造プロセス:単分子トランジスタを試作、20年後の主力技術目指す

Si(シリコン)半導体技術の限界はどこにあるのだろうか。Si半導体技術の限界は見えるところまで来ている。Si半導体技術の後を引き継ぐ候補の1つが分子デバイスだ。

[畑陽一郎,EE Times Japan]

 Si(シリコン)半導体技術の限界はどこにあるのだろうか。新材料を導入したり、構造を工夫することで、あと10年はSi半導体技術を利用できるだろう。しかし、Si半導体技術の限界は見えるところまで来ている。

 Si半導体技術の後を引き継ぐ候補の1つが分子デバイスだ。既存の微細化技術をいくら改良しても、分子1個分の寸法まで素子を小さくすることはできない。一方、分子デバイスであれば可能だ。

 分子デバイスのうち、最初に研究が進んだのが、C(炭素)だけからなるカーボン・ナノチューブである。カーボン・ナノチューブは結線として優れた性質を備える。

 結線だけではなく、論理回路自体を分子で構築しようという試みも進んでいる。米国の大学であるYale Universityと韓国の大学である光州科学技術院の共同研究チームが開発したのは、単一の分子だけで構成するトランジスタだ(図1*1)。ごく微少なAu(金)電極に挟んだ1個のC6H6S2(1,4-ベンゼンジチオール)分子がトランジスタとして動作したという。この分子の寸法は0.6nm×0.3nm程度であり、これはSiの格子定数(0.543nm)とほぼ同程度の寸法である。明らかに既存の微細化技術では到達できない寸法だ。

*1) 2009年11月にはスイスのSwiss Federal Institute of Technology(ETH Zurich)の研究チームが、単一分子からなる光トランジスタを試作している。このときは分子構造を明らかにしておらず、染料として用いられる分子を使ったとしている。

図1 図1 単分子トランジスタの構造 Au(金)電極間を接続するようにAuナノワイヤーを伸ばし、2本のナノワイヤー間を1,4-ベンゼンジチオール分子(緑色の骨組み)で接続した。2本のAuナノワイヤーがトランジスタのソースとドレインに相当する。上部の拡大図中で灰色に描かれた部分はゲート電極を覆うAl2O3(酸化アルミニウム)層である。出典:Hyunwook Song氏、Takhee Lee氏

トンネル電子を利用

 今回の成果はゲート電圧を制御することで、1,4-ベンゼンジチオール分子のエネルギ状態を変化させ、分子を経由して流れる電流の大きさを制御できたことにある。つまり、1つの分子をFET(電界効果トランジスタ)として動作させたということだ。

 図1の上方の拡大図にある1,4-ベンゼンジチオール分子(緑色の骨組み)の内部を流れる電子は、分子の状態によって2種類に分かれる。弾性トンネル電子(黄色)は、エネルギをまったく失わずにAu電極間を流れる。非弾性トンネル電子(赤色)は、分子の振動エネルギと共鳴結合を起こすことで、エネルギを失う。つまり電流があまり流れない。

 分子のエネルギ状態は、ゲート電極に印加する電圧によって制御できる。電圧を印加することで分子の振動エネルギを変化させ、自在に弾性トンネル電子と非弾性トンネル電子を切り替えることができるわけだ。

電極技術が重要

 今回の研究チームには6人の研究者が参加している。Yale Universityからは、Engineering & Applied Scienceの教授であるMark Reed氏が加わった。同氏は非常に短い間隔を開けた金属電極の間に分子をトラップ(固定)する研究を続けている。光州科学技術院のScience and Technologyの教授であるTakhee Lee氏は、Reed氏の研究室で博士課程を過ごした経歴を持つ。Lee氏は固定した分子を視覚化する研究を重ねており、これまで電極の小型化と固定されやすい分子の性質を研究してきた。

 Si半導体の微細化とは異なり、単分子トランジスタを製造するには、電極の間の正しい位置に後から分子を配置しなければならない。分子1個の位置を自在に制御する技術は開発されていない。単分子トランジスタが成功するかどうかは、トランジスタにふさわしい分子を見つけ出すだけではなく、いかに小さな電極を製造し、電極と分子を接続するかにかかっていたという。

 Reed氏は今回の成果がすぐに実用化できるとは考えていない。例えば、分子の振動エネルギを制御するため、試作した素子は真空中で4.2K(-269℃)まで冷却して動作させている。1,4-ベンゼンジチオールが最適な分子なのかどうかも分かっていない。現在は、C8H18S2(1,8-オクタンジチオール)でも実験を続けている。

 同氏によれば、分子トランジスタ技術は科学技術研究におけるブレークスルーの段階にあり、実用に耐える素子を製造できるのは数十年先のことだという。

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