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Illinois大学とFraunhofer研究所、高効率の太陽電池を低コストで製造する技術を発表エネルギー技術 太陽電池

» 2010年05月31日 15時21分 公開
[Mark LaPedus,EE Times]

 米国の大学であるUniversity of Illinoisと、ドイツの研究機関であるFraunhofer研究所とはそれぞれ独自に、新しい手法で太陽電池を製造することに成功した。

 GaAs(ガリウムヒ素)などの化合物を材料とする太陽電池は、Si(シリコン)太陽電池に比べて、変換効率をおよそ2倍に高められる。しかし、GaAsなどを原材料とすると、太陽電池の製造コストが増大するという問題がある。

 材料の層を堆積させる

 University of Illinoisの研究グループは今回、太陽電池などのさまざまな電子機器で利用する、GaAsなどの化合物半導体を低コストで製造する手法を開発した。

 1つのウエハーの上に材料の層を幾つも堆積させて、「パンケーキ」のように積み重なったGaAsの薄膜を形成したという。

図1 図1 Fraunhofer研究所のAndreas Bett氏(左)とFrank Dimroth氏
高効率の太陽電池を低コストで製造する研究に取り組んでいる。

 University of Illinoisの研究グループによれば、「GaAs薄膜の層ができても、薄膜をはがせなければ意味がない。そこで、材料の層を堆積させるときに、AlAs(ヒ化アルミニウム)の層をGaAs層の間に作り、積み重ねる。そして、完成した層を酸性の溶液や酸化物に浸すと、AIAs層が溶解する。その結果、GaAs層を1枚ずつはがしてGaAs薄膜を取り出すことができる」という。

 そして、「GaAs薄膜を取り出すときは、スタンプのような柔軟性のある装置を使って1枚ずつ取り出す。GaAs薄膜を取り出したら、用途に応じてガラスやプラスチック、Siなどの基板に載せる。薄膜の層を作るのに使ったウエハーは、再利用できる」という。

 今回発表した研究論文の共著者として、米国ノースカロライナ州に拠点を置く新興企業である米Semprius社からも、2人の科学者が参加している。同社は、この技術を利用した太陽電池の製造を始めている。

 Semprius社は、大規模な太陽光発電に向けた、集光型太陽電池(CPV:Concentrator Photovoltaic)モジュールの開発に取り組んでいる。同社独自の印刷エレクトロニクス技術である「micro-transfer printing」を利用すれば、ごく小さいGaAs材料を大量に並べた多接合太陽電池の形で、CPVを製造することが可能だ。集光度を高めることにより、モジュールのコストを最小限に抑えることもできる。

 またSemiprius社は、ドイツX-Fab Semiconductor Foundries社がUniversity of Illinoisからスピンアウトした企業に150万米ドルを戦略的に投資したことを受け、X-Fab Semiconductor Foundries社とファウンドリ契約を締結している。

 University of IllinoisのDepartment of Materials Science and Engineeringで教授を務めるJohn Rogers氏は、発表資料の中で、「太陽電池は、集光できる太陽光スペクトルの範囲が広ければ広いほど良いとされる。極論すれば、十分な数の層を形成することで、集光できる領域を10倍に高めることも可能だ。また、集光領域を拡大することにより、コストの削減や、ウエハー使用量の低減も実現できる」とコメントしている。

 宇宙空間で使う技術を安価に

 一方、Fraunhofer研究所のSolar Energy Systems部門(Fraunhofer ISE)の研究グループは、InGaP(インジウムガリウムリン)や、InGaAs(インジウムガリウムヒ素)、などのIII-V族化合物半導体と、Ge(ゲルマニウム)を用いた、メタモーフィック接合を利用した3重接合太陽電池の開発に成功したことを明らかにしている。

 同研究グループは、太陽光を電力に換える変換効率を大幅に高め、過去最高レベルとなる41.1%まで向上させた記録を持っている。

 このような高い変換効率は、最高品質の半導体膜を幾つも積層するという手法で実現した。Fraunhofer研究所のFrank Dimroth氏は、「今回開発した3重接合太陽電池は、それぞれ性能向上の工夫を施した層を20層以上も積層したことで実現した」と述べている。

 同氏はさらに、「半導体の構造を工夫しただけでなく、材料の品質や、金属の接点、反射防止膜などもそれぞれ改善した。その結果、高い変換効率を達成できた」と述べる。

 これらの化合物系太陽電池はもともと、宇宙空間で使用するものだ。製造コストが高くなるため、これまで地上で使われたことはなかった。

 レンズを組み合わせることで性能を引き出す

 またFraunhofer研究所の研究グループは、「変換効率が高い太陽電池と集光レンズを組み合わせることで、既存の太陽電池モジュールに比べて、半導体の表面積を500分の1にまで縮小できる。独自に設計した集光レンズを搭載している太陽電池セルの寸法は、わずか3mm2だ」という。

 さらに、「これらの超小型の太陽電池から約10cm離してフレネル・レンズを設置したことにより、従来の400〜500倍もの太陽光を集光できるようになった。また、銅板を取り付けたことで、熱を十分に放散できるようになったため、太陽電池が過熱する心配もない。自然放熱だけで十分だ」という。

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