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「コイルを使わずとも電力は送れる」、共鳴型ワイヤレス給電技術に新展開ワイヤレス給電技術 共鳴方式

「共鳴型ワイヤレス給電技術」に、新たな技術展開があった。「スパイラル・コイル」や「ヘリカル・コイル」といったコイルを使わず、比較的自由な形状の送電側/受電側デバイスを使って電力を送る手法の提案だ。

» 2010年06月08日 00時00分 公開
[前川慎光,EE Times Japan]

 「共鳴型ワイヤレス給電技術」に、新たな技術展開があった。「スパイラル・コイル」や「ヘリカル・コイル」といったコイルを使わず、比較的自由な形状の送電側/受電側デバイスを使って電力を送る手法の提案だ。ヨコオが提案しているもので、プリント基板やフレキシブル基板に、平面で任意の形状の送電側/受電側デバイスを形成できると主張する。コイルを使う場合に比べて、機器実装時の自由度を大きく高められる可能性を秘める。

伝送線路の結合を利用

 送電側デバイスと受電側デバイスを共鳴現象によって強く結合させる共鳴型ワイヤレス給電技術には、既存の方式にはない特徴がある。比較的高い伝送効率で、数m程度離れた場所に電力を送れる点だ。電磁誘導を使う方式に比べて送電距離は長く、マイクロ波帯電磁波を使った方式よりも民生用途に利用することを想定した上では伝送効率が高い。

 米Massachusetts Institute of Technology(MIT)の研究グループが2007年に、共鳴現象を使って電力を送れることを実証して以降、多くの研究機関や企業が実用化を目指した研究開発を進めている。ただ、これまでの事例では、3次元の構造体であるコイルを送電側/受電側デバイスとして使っていた。

 ヨコオは、2つの伝送線路(電磁波の通り道)が電磁気的に強く結合する「線路間結合」と呼ぶ現象を利用することで、送電側/受電側デバイスの形状の自由度を高めた。線路間結合は、マイクロ波帯の高周波回路ではごく一般的な現象だが、電力の伝送に使うというアイデアはこれまでほとんどなかった。

「k×Q」はあまり意識せず

 ヨコオは、2009年に入って共鳴型ワイヤレス給電技術の関する調査を始めた。きっかけはMITの研究グループの2006年と2007年の成果である。技術そのものは特別新しいものではないのになぜ注目されるのか疑問に思ったことが、研究開発の出発点だったとする。

 しかし、2009年は、多くの企業や研究機関が共鳴型ワイヤレス給電技術の研究を進めていた時期である。すでに公開されているものと同様の研究をしても新しさは打ち出せない。そこで、「当社は、アンテナ技術やマイクロ波帯の高周波技術に強みがある。われわれならどう作るか、当社ならではのアプローチを考えた」(同社の研究開発部長である水谷浩氏)という。

図1 図1 ヨコオの共鳴型ワイヤレス給電システム 同社は「共鳴型非接触伝送用結合器」と呼ぶ。下の送電側機器から上の機器に数mWの電力を送る。伝送距離は、5mm〜10mm。白丸の付近に送電側または受電側デバイス(共振器)が設置されている。EE Times Japanが2010年4月に撮影。

 考えた末に得たのが、コイルを使わずにワイヤレスで電力を送るというアイデアだ。「現在、企業/研究機関の多くは、3次元構造のコイルを使っている。仮に、コイルを平面状にしたとしても、比較的大きな面積になってしまうだろう。コイルを使わなければ、機器への実装は容易になり、機器設計の自由度は上がるはずだ」(同氏)と説明する。同社の研究開発部新技術探索研究グループの課長である白方恭氏は、「ワイヤレスで電力を送るのに、送電側/受電側デバイスがコイル形状である必要はない。コイルを使わないからといって、原理的に伝送効率が下がる要因にはならない」と説明した。(なお、白方氏はかつて、アンテナ用磁性材料の研究に携わっていた)。

 一般に、共鳴型ワイヤレス給電システムでは、「k×Q」が重要な指標とされている。kは、送電側デバイスと受電側デバイスの結合係数。Qは共鳴の鋭さで、送電側/受電側デバイス付近に蓄えられるエネルギの指標となる。同社は試作機の開発に当たって、このk×Qをあまり意識しなかった。マイクロ波帯の高周波回路やアンテナを設計するときに使い慣れた放射抵抗や反射係数といった指標を活用し、設計したという。送電側と受電側デバイスの距離が5mm〜10mmのとき、伝送効率(送電側/受電側デバイス間)は85%である(図1)。送電側/受電側デバイスの具体的な形状や寸法は明らかにしていない。試作機で利用した周波数帯は、1GHz前後だが、「この周波数にこだわっている訳ではない」(同氏)。

 実用化に向けた課題はまず、伝送効率を高めることである。送電側と受電側のデバイス間の伝送効率は85%と高いものの、高周波発振器と増幅器、整流回路を含めると伝送効率は大幅に下がる。また、現在の送電電力はmWオーダーだが、今後これを高めていく。

 同社は、太陽電池を始めとした再生可能エネルギと組み合わせてこそ、共鳴型ワイヤレス給電技術の実用化への道が開けると考えている。ワイヤレスで電力を送ると、当然のことながら有線に比べて伝送効率は下がる。再生可能エネルギを使えば、一般消費者は電気代を払う必要がないため、多少伝送効率が落ちても許容されるだろうという指摘である。水谷氏は、「再生可能エネルギを使ってはじめて、伝送効率が有線より低くても、電子機器の使い勝手を高められるというワイヤレス給電の利点が認められるのではないか」と語った。

図2 図2 龍谷大学粟井氏の研究グループの試作機 ワイヤレス給電システムの結合線路のパターン。将来的には、電気自動車の走行中充電に使うことを想定している。出典:龍谷大学

配置の自由度向上を狙う研究も

 なお、伝送線路の結合をワイヤレス給電に使うアイデアは、龍谷大学理工学部電子情報工学科の教授である粟井郁雄氏が、2009年9月の時点に、すでに提案していた(図2)。2009年9月に新潟で開催された、電子情報通信学会ソサイエティ大会で発表したもので、タイトルは「方向性結合器を用いた移動式無接触電力伝送」である。同氏の研究は、送電側/受電側デバイスの形状の自由度を高めるというよりも、送電側と受電側の位置関係の自由度を高めることを目的にしている。

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