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» 2010年07月28日 00時00分 UPDATE

Analog ABC(アナログ技術基礎講座):第16回 差動対がオペアンプに変身(1)〜能動負荷で利得を高める〜 (1/3)

これから数回に分けて、差動対の利得を大きく増やして、簡単なオペアンプを設計する方法を紹介します。今回と次回は、差動対の利得を大きく増やすために、「能動負荷」を使う方法を説明します。

[美齊津摂夫,ディー・クルー・テクノロジーズ]

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 4月に入り、読者の皆さんの中には、アナログ回路の設計に初めて取り組んでいるという方も多いのではないでしょうか。

 私が初めてアナログ回路をシミュレーションしたときの回路図は、手書きでした。トランジスタや抵抗が楽に書けるテンプレート(定規)を使いながら、A3判の方眼紙の左上から順番に回路を書いていったものです。最初は思いつくままに回路を書くものですから、だんだん右に行くほど間隔が詰まってきます。結局最後は、A3判の方眼紙には回路図全体が入らず、方眼紙を丸めて捨てて最初からということになってしまいます。こんなことを何度も繰り返しているうちに、まず全体のボリュームを考えてから、回路図を書き始める癖がつきました。

 また、規模が大きな回路になるとA3判の方眼紙には入りません。そんなときは、複数のブロックに分割して別の用紙に書くしかありません。そうすると自然に、複数の機能ブロックへの分け方や、信号線の接続方法などに悩むようになりました。手書きだから、やり直しはつらいのです。

 今ではCAD(Computer Aided Design)が便利になり、回路図の入力やシミュレーションがとても簡単になりました。ひと昔前に比べると、はるかに短時間で効率的に回路を設計できる環境になったと思います。CADを使えば、回路図の移動や、機能ブロックに分ける作業がすぐにできるので、昔のような悩みはなくなりました。

 ところが、1つの回路図が巨大になってしまって配線がどこにつながっているのかを追い切れなかったり、大事なトランジスタがなぜこんなところにあるのかと不思議に感じたり、機能がさっぱり分からない回路図だけど配線を追って書き直したら単なるバッファだったり…。このような変な回路図に出くわすことも多くなってきました。もしかすると、CADが便利になった弊害かもしれません。

 CADがどんなに便利になったとしても、設計者の意図や思いを回路図にうまく表現できるエンジニアでいる必要があるなぁと思う今日このころです。

帰還をかけるのが不可欠

 さて前回(第15回)「差動対の利得を理解する」では、差動対の利得について計算式を使いながら説明しました。

 これから数回に分けて、差動対の利得を大きく増やして、簡単なオペアンプを設計する方法を紹介します。オペアンプについてはご存じかと思います。あらゆる電子機器に使われている、もっともポピュラーなアナログ回路だと言えます。

 オペアンプは正帰還をかけて発振器として使うこともありますが、負帰還をかけて使う場合がほとんどです。帰還とはその字のごとく「帰る」ことで、オペアンプの出力信号を入力に帰します。出力した信号を入力に帰す目的は、大半の場合、入出力の関係を補正するためです。出力信号が期待通りになるように、オペアンプに入力する信号を補正することが負帰還の目的になります。

 帰還をかけるメリットは非常に多く、例えば直線性の改善や利得変動の圧縮、雑音の抑制などです。そもそも、帰還をかけないと増幅器ではなく、比較器(コンパレータ)になってしまいます。帰還をかけることで得られるメリットの詳細は、別の機会に紹介したいと思います。

差動対が満たすべき3つの条件

このように帰還をかけて使うオペアンプには、以下に示す3つの特性が必要になります。

(1)利得が高いこと

(2)入出力動作範囲が広いこと

(3)オープン特性が1次傾斜であること

 入出力動作範囲とは、オペアンプが動作する入出力電圧の範囲のことで、これが広いほど電源電圧範囲の端から端まで使えます。また、オープン特性とは、オペアンプに負帰還をかけず使ったときの周波数特性のことです。帰還回路を「クローズ」しないで使った状態なので、オープン特性と言います。

 この3つの特性はどれも重要です。オペアンプの利得が低いと帰還による補正に誤差が残ってしまい、負帰還をかけても期待通りに補正できなくなってしまいます。

 入出力動作範囲が狭ければ、前段または後段に接続する回路の動作範囲を制限してしまうことになり、オペアンプの使い勝手が下がってしまいます。また、オープン特性が1次傾斜ではない場合、予想外の発振やリンギングなどが発生し、問題となってしまいます。

 今回と次回は、1つ目の「利得が高いこと」という条件を満たすために、「能動負荷」を使って、利得を高める方法を説明します。その後、(2)の入出力動作範囲を広げる方法、(3)のオープン特性を1次傾斜にする方法について、順を追って紹介していきます。差動対にさまざまな回路を付け加えることで、徐々にオペアンプに近づいていく様子をうまく紹介していきたいと思います。

利得を高めるには能動負荷の利用が最適

 オペアンプの利得を上げるには、いくつかの方法があります。例えば、電流をたくさん流したり、トランジスタを多段に接続したり、コレクタ抵抗を大きくするといった方法です。

 電流をたくさん流すという方法は、消費電力が増えてしまいますし、トランジスタのサイズが大きくなってしまう要因となるので、得策ではありません。トランジスタを多段接続するという方法も同じで、消費電力やトランジスタ数が増えてしまうというデメリットがあります。それでは、コレクタ抵抗を大きくするという方法がどうかというと、ただ単純にコレクタ抵抗を大きくするとコレクタ電圧が下がってしまい、正しい動作点に合わせ込むのに電源電圧を高めなければなりません。

 単純にコレクタ抵抗の値を増やすのではなく、その替わりに能動負荷を使えば、消費電流や電源電圧、トランジスタの寸法をそのままに、利得を大きく増やすことができます。利得を高める最も効果的な方法が、能動負荷だと言えるでしょう。

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