インタビュー
» 2010年08月17日 11時00分 UPDATE

ベネッセホールディングス取締役会長 福武總一郎氏:電気自動車の要は電池技術ではない

電気自動車普及のカギは何だろうか。電気自動車は既存のガソリン車と比べて性能や価格に劣る部分がある。例えば走行距離である。このためには電池技術の向上など、さまざまな改善を加えていく必要があると考えられている。一方、このような考え方とはまったく異なる視点もある。電気自動車の普及策について聞いた。

[畑陽一郎,EE Times Japan]

EE Times Japan(EETJ) なぜ自動車産業とは無関係な企業の代表が電気自動車を普及させようとするのか。

福武氏 時代の変わり目を感じたからだ。ある面では、自動車産業は最も遅れている。生産では垂直分業されており、動力の技術も古い。100年ほど前に原形ができたガソリン内燃機関を改良、改善した技術を使い続けている。例えば汽車であれば石炭から始まり、リニアモーターカーへ、飛行機にしてもプロペラからジェットへと変わってきている。自動車はどうか。変化が少なく、遅れていると考える。

 自動車はこれからどうなっていくのだろうかと考えていたとき、慶応義塾大学教授の清水浩氏に出会った。清水氏が2004年に開発したインホイールモーターを採用した電気自動車「Eliica」が、画期的だと感じた。この技術を広めることができればと考えた。自動車メーカーの電気自動車には感動はなかったのだが。そこで、清水氏と協力してインホイールモーターを用いた電気自動車の技術を開発する企業としてSIM-Driveを2009年8月に立ち上げた。

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 もう1つは、地球温暖化だ。地球温暖化は局地的な問題ではなく、一時的な問題でもない。対応が遅れれば遅れるほど問題が深刻になる。ベネッセコーポレーションは子供の将来を見守っている企業だ。地球温暖化問題は、既存の自動車を電気自動車に転換するという形で多くの人が解決に参画できる。

EETJ 電気自動車の技術を改善する要は二次電池ではないのか。

福武氏 二次電池の技術には興味はない。現在、多数の企業、技術者が二次電池の改良に携わっており、二次電池の性能向上には不安がない。

 二次電池のネックは性能よりも価格だ。これを解消するにはリース形態を採るのがよい。電気自動車に搭載した二次電池を利用できる期間は、5年程度だ。しかし、電気自動車で使えなくなった二次電池もそのほかの用途では利用できる。そこで、例えば200万円の電池モジュールを買い切りではなく、リースできるようにする。こうすることで、二次電池の価格が1/10、1/20に下がっていくだろう。

 リースを普及させる前提が二次電池の形状などの標準化だ。標準化することで、リースが可能になり、二次電池の価格が下がる。二次電池を議論する際、標準化の論議が盛んにならないのはおかしいと考える。広い視野に立った技術論が重要だ。

EETJ 電気自動車はどのように普及していくのか。

福武氏 電気自動車を新車として購入するよりも、既存の自動車を改造(コンバージョン)する流れが大きくなると考える。産業の規模としても改造車の方が大きくなるのではないか。

 例えば慶応義塾大学ではスズキのスイフト(SWIFT)を使って、後輪をインホイールモーターに変え、リチウムイオン二次電池を載せることで、非常に簡単に電気自動車に改造できた。それほど遠くないうちに、数十万円で既存の自動車を電気自動車化する技術を確立できるだろう。

 国内では中小企業がすでに改造のノウハウを蓄積している。日本EVクラブが1回の充電で500km、1000km 走行したことがニュースになっているが、そのときに使った車も改造車だ。ただし、各企業がバラバラに動いていてはだめだ。改造車が普及するには安全基準がしっかりしていなければならない。改造中古車が広く流通するときに安全基準が問題になるからだ。

 そこで、2010年6月に電気自動車普及協議会(APEV)を立ち上げた。改造車メーカー以外にも、国土交通省関東運輸局や、自動車検査独立行政法人、軽自動車検査協会などが参加しており、今後、安全基準の確立に向かって協議が進んでいくだろう。

EETJ SIM-Driveの技術を用いるとどのような電気自動車を実現できるのか。

福武氏 すでに、台湾の東元電機(TECO)にインホイールモーターの製造を委託した。2011年末までに量産が可能になる。東元電機の製品は、100馬力のモーターが数万円という価格になる予定だ。既存のモーターと比べても大変安価である。インホイールモーターを自由に入手できるようになったとき、例えば東芝のSCiB電池と組み合わせ、コントローラを付ければ電気自動車ができあがる。

 SIM-Driveは次期量産試作車を2010年11月までに完成させ、2011年3 月に公開する予定だ。この量産試作車は皆がびっくりするようなすばらしい車になる。エンジンルームがないため、車内空間の使い方は従来の概念を覆すだろう。例えば、少し無理をすれば軽自動車の車体で6人乗りになる。さらに四輪駆動だ。走行しないときはオーディオルームとして使えるなどの特長も持たせたい。

 この試作車を量産する場合、四輪駆動であっても150万円程度の価格にできる可能性がある。二次電池をリース形式にすれば、リースの代金は毎月のガス代よりも安くなる。

 自動車メーカー各社が2011年、2012年に各種電気自動車を販売する。このとき、SIM-Driveの技術を用いた電気自動車が同時に登場できるよう技術開発を進めている。


福武總一郎(ふくたけ そういちろう)氏

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1969年早稲田大学理工学部卒業。1973年福武書店(現ベネッセコーポレーション)入社。1986年同社代表取締役社長、2007年より同社代表取締役会長兼CEOを経て、2009 年より現職。SIM-Drive 取締役会長と、電気自動車普及協議会会長も務める。

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