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シリコン発振器内蔵の無線制御用IC、シリコン・ラボラトリーズが出荷無線通信技術

Silicon社は機器の部品コストやシステム設計のコストを抑えることに主眼を置き、2つの独自技術をSi4010に盛り込んだ。1つは、「クリスタルレスアーキテクチャ」と呼ぶ、基準信号の生成技術である。シリコン発振器を搭載することで、通常の無線制御用ICでは外付けになる水晶発振器を不要にした。

» 2010年08月27日 00時00分 公開
[前川慎光,EE Times Japan]

 照明やメーターをはじめ、様々な機器を無線で遠隔操作できるのが無線制御用ICである。米Silicon Laboratories(シリコン・ラボラトリーズ)社が8月から日本でサンプル出荷を開始した「Si4010」(図1)は、無線制御用ICに不可欠な発振器を内蔵するなど、機器への実装コストを削減できることを特徴にしている。

 Silicon社は機器の部品コストやシステム設計のコストを抑えることに主眼を置き、2つの独自技術をSi4010に盛り込んだ。1つは、「クリスタルレスアーキテクチャ」と呼ぶ、基準信号の生成技術である。シリコン発振器を搭載することで、通常の無線制御用ICでは外付けになる水晶発振器を不要にした。「水晶発振器の外付けが不要な無線制御用ICは業界初」と同社Broadcast ProductsのSenior Product Managerを務めるLawrence Der氏(図2)は強調する。

図1 図1 Silicon Laboratories社の無線制御用IC「Si4010」 対応周波数範囲が27MHz〜960MHzの無線制御用の送信ICである。評価キットや開発ツールも提供する。Si4010からマイコンを取り除いた「Si4012」もある。

 ただし、水晶発振器を使わずに対応できる範囲には制限がある。発振器のキャリア周波数精度は、0℃〜70℃の温度範囲で±150ppm、−40℃〜85℃の温度範囲で±250ppmである。さらに高いキャリア周波数精度が必要なときは、水晶発振器を外付けして使う必要がある。

 もう1つの独自技術は、「自動アンテナチューニング技術」である。無線制御ICでは制御信号の送信用に、ループアンテナを外付けして使う。そのループアンテナの製造ばらつきによる共振周波数のずれや、ループアンテナの周囲状況の変化による出力電力の低下が生じる場合がある。それを補正できるのが自動アンテナチューニング技術である。無線制御ICに内蔵した可変キャパシタと、パワーアンプ部分にバイアス電流を変える仕組みを搭載することで実現した。

 ループアンテナの共振周波数が当初設定の共振周波数からずれているときは、可変キャパシタを調整することで整合させる。可変キャパシタの静電容量の調整幅は、10pF〜12pF程度。調整できる周波数の範囲は、ループアンテナのインダクタンス値に依存する。周囲状況の変化による出力電力の損失は、パワーアンプ部の出力強度をフィードバックし、パワーアンプ部のバイアス電流を調整することで補正できる。

図2 図2 製品担当のLawrence Der氏 8月25日に東京都内で開催した製品説明会で詳細を発表。

外付け部品はバイパスコンデンサ1つ

 Si4010の対象機器は幅広い。例えば車庫の開閉や照明制御、キーレスエントリー、水道メーターやガスメーターの遠隔検針、ビルオートメーション、気象情報の遠隔観測、健康モニタリングなどがある。

 Der氏によれば、「無線制御の分野では主に3つの点で顧客ニーズが高まっている」。第1に、双方向通信の需要が生まれてきたこと。第2に、従来のディスクリート部品を使った無線回路の構成から、高集積のシングルチップへ移行する動きがあること。集積度が高ければ、高周波回路やアナログ回路を設計する負担を減らせるからだ。第3に、量産規模が大きい単方向通信の機器において、部品コストを削減する要求が強まっていることである。

図3 図3 Si4010の回路ブロック 中央にある「LCOSC」と記載している部分がシリコン発振器。同社のシリコン発振器「Si500」に搭載した基準信号の生成技術を転用した。

 このうちSi4010は、高集積化と部品コスト削減に対応したという。高集積化の面では、27MHz〜960MHzの周波数に対応したRFトランスミッター回路や8051互換マイコンなどを搭載しており、外付け部品はバイパスコンデンサ1つだけになっている。トランスミッター回路や8051互換マイコンのほか、8kバイトのOTP(One Time Programmable)メモリーや4kバイトのRAM、128ビットのEEPROMを搭載した(図3)。

 コスト面では、「従来のディスクリート部品を使った構成と比較して、競争力のある価格設定にした」(Der氏)という。具体的には、1万個購入時の参考単価は1.40米ドルである。「無線制御の分野では部品コストを抑えることを目的に、現在でもディスクリート部品を使って高周波回路を構成する場合が多い(図4)。Si4010でディスクリート部品からの置き換えを促したい」(同氏)。

図4 図4 ディスクリート部品を使った回路構成からの置き換え  写真の左部分に、ディスクリート部品を使ったときの課題が列挙されている。

 出力電力は最大10dBm。利得は最大19.5dBで、0.25dB刻みで変えられる。変調方式は、FSK(Frequency Shift Keying)かOOK(On Off Keying)に対応する。伝送速度(シンボルレート)は、100kBaud。消費電力が低いことも特徴で、スタンバイ電流は10nA未満、動作時のピーク電流は20mA未満である。電源電圧範囲は1.8V〜3.6V。

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