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電源ケーブルいらずの携帯に一歩前進、共鳴型ワイヤレス給電の新設計手法(後編)ワイヤレス給電技術 共鳴方式

富士通研究所では、コイルの導線間の浮遊容量ではなく、コンデンサ素子をコイルに外付けして共振させるようにした。送電側/受電側コイルの寸法や形状、周囲の状況に応じて、外付けするコンデンサの最適な値を見つけ出す方法に、同研究所の独自性がある。

» 2010年09月17日 00時00分 公開
[前川慎光,EE Times Japan]

「前編」では、共鳴型ワイヤレス給電システムの開発動向を解説

コンデンサを外付けして直列共振させる

 そこで富士通研究所では、コイルの導線間の浮遊容量ではなく、コンデンサ素子をコイルに外付けして共振させるようにした(図3)。コイルのインダクタンスに、キャパシタンスを直列に接続した等価回路になる。「浮遊容量ではなくコンデンサ素子を使うことで、コイルの設計が非常に楽になる」(同研究所)。もちろん、コイルの導線間の浮遊容量は残るものの、直列共振現象には大きな影響を及ぼさないという。

 これまでも、浮遊容量を使うのではなく、コンデンサ素子をコイルに接続して、インダクタンスとキャパシタンスを直列共振させるというアイデアはあった。ただし、送電側/受電側コイルの寸法や形状、周囲の状況に応じて、外付けするコンデンサの最適な値を見つけ出す方法に、同研究所の独自性があるという(図4)。

図3 図3 コイルにコンデンサを接続 3巻コイルの端部にコンデンサが接続してある(図の上側、コンデンサは見えない)。中央部にある細線の1ターンのコイルは、外側の3巻コイルに電力を供給するためのもの。

 詳しくは説明しよう。まず、電磁界シミュレータを使って、寸法や形状を決めたコイルの情報から、インダクタンスや抵抗、余分なキャパシタンス成分に相当する浮遊容量などの等価回路定数を抽出する。電磁界シミュレータには、市販されている一般的なものを使った。

 その後、抽出した等価回路定数を基に、独自の専用回路シミュレータを使って、最適な共鳴条件を求めていく。具体的には、送電効率を最大にするといった評価関数を使って、最適なキャパシタンス値を求める。「最適なキャパシタンス値を求める方法にわれわれのノウハウがある」(同研究所)。

 前出のf0=1/2π√LCの関係から、コイルのインダクタンス値(L)と共振周波数(f0)が決まると、キャパシタンス値(C)は一意に決まるように思える。ただ、そう単純ではないという。前編の図2に示した送電側と受電側のループコイルの影響があるからである。例えば、送電側(図2では左側)のループコイルは、電磁誘導現象によって、送電側のスパイラルコイル(またはヘリカルコイル)に電力を伝える役割を持つ。ところが、この送電側ループコイルが、距離が離れているといえど受電側の2つのコイルとわずかに結合する現象が発生するため、これも考慮する必要があるのだ。

図4 図4 共鳴型ワイヤレス給電専用の回路シミュレータを開発さまざまな要因を考慮して最適なコンデンサ値を算出する。浮遊容量ではなく外付けコンデンサを使ってコイルを共振させる仕組みを採ることで、コイルの設計時間を大幅に短縮できた。

複数のコイルにも対応

 今回開発した設計手法は、複数の受電側コイルに同時に給電するときや、送電側コイルと受電側コイルの間に、「リピータ」と呼ぶ距離を延ばすための中継コイルを挿入するときも、有効である。それぞれのコイルに接続するコンデンサの最適なキャパシタンス値を算出できる。一般に、利用するコイルが増えると、電磁結合の観点で等価回路の構成が複雑になるため、最適化も難しくなる。

 浮遊容量ではなく、外付けコンデンサを使うことで、コイルの設計に要する作業時間が大幅に減った。コイルの寸法や形状、電磁界シミュレータを使った解析作業の精度(メッシュの細かさ)に依存するものの、「3つの受電側コイルを設計する例では、従来の手法の1/150に短縮できた」(同研究所)という。

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