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» 2010年11月10日 10時30分 UPDATE

テスト/計測 モジュール型計測器:なぜモジュール型計測器なのか、高性能化で選択肢が拡大 (1/3)

かつては別々の機器に散らばっていた数々の機能が、現在では1つの機器に集約されるようになってきた。いまや携帯電話機もテレビも自動車も、多様な機能を複合的に備えている。そうした機器を高い品質で開発し、高いコスト効率で量産するには、複合的な機能が相互に及ぼす影響を包括的に評価できる計測システムが必要だ。所要の計測機能を過不足無く搭載し、さまざまな形態の信号を多チャンネルで同期をとりながら評価できるシステムを実現したい――。開発/製造現場のこうした声に応えるツールとして、モジュール型計測器の存在感が高まっている。

[薩川格広,EE Times Japan]

 かつては音声通信のみの端末だった携帯電話機は、いまや複合的な機能を備えた高度な端末へと進化を遂げている。現代の携帯電話機は、データ通信端末でもあり、デジタルカメラやナビゲーション端末、そしてPCでもある。このように機能の複合化が進んでいるのは携帯電話機だけではない。例えばテレビはインターネット接続端末でもあり、自動車はホームシアターでもある。今後の普及が期待される電気自動車やハイブリッド自動車に至っては、家庭用蓄電装置の役割を担う可能性もある。

 こうした多様な機能の複合化は、機器のエンドユーザーに高い利便性をもたらす一方で、機器の開発や製造の複雑化を招く。機器メーカーが多機能化を進めながらも製品の品質を高く維持するには、1つ1つの機能を検証することに加えて、複数の機能が相互に与える影響も検証しなければならない。組み合わせる機能の数が増えれば、検証の複雑度は指数関数的に上昇してしまう。さらに、特に製造現場では、複雑な検証を実施するからといって、それに費やすコストの増大は許されない。製品の原価を押し上げてしまうからだ。

モジュール計測器の存在感が高まる

 機器の開発/製造現場のこうした悩みに応えるツールとして、モジュール型の電子計測器が存在感を高めている。

図1 図1 スタンドアロン型とモジュール型の計測器の例 (a)スタンドアロン型は、単体で機能する箱型の計測器である。(b)モジュール型は、各種の計測モジュールとそれらを制御するコントローラ、筐体(シャーシ)が供給されており、ユーザーがこれらを組み合わせて任意の計測システムを構築する。

 一般に電子計測器は、「スタンドアロン型」と「モジュール型」の2種類に大きく分けられる(図1)。スタンドアロン型とは、単体で動作する単機能の箱型計測器で、例えばオシロスコープやデジタルマルチメータ(DMM)、ファンクションジェネレータ、スペクトラムアナライザ(スペアナ)、高周波信号発生器、高周波ネットワークアナライザなどがある。

 一方、モジュール型は、単体では動作しない。筐体(「シャーシ」「メインフレーム」「計測ステーション」などと呼ぶ)と各種の計測モジュールを複数のメーカーが供給しており、ユーザーはそれらのハードウエアを任意に組み合わせる。加えて、計測機能を実現するソフトウエアを用意することで、複合的な計測機能を備えたシステムを構築できる。

 市場規模で比較すると、スタンドアロン型が圧倒的に大きい。電子計測器の大手メーカーであるアジレント・テクノロジーによれば、全世界の電子計測器の市場規模が約80億米ドルと推定されるのに対し、モジュール型の主流になっているPXI(コンピュータの内部バス規格であるPCIをモジュール計測器向けに拡張した規格)対応機の市場規模は4億米ドル程度にとどまる。

 ただし、市場成長率で見ると逆転する。「電子計測器全体の市場は、年間成長率が5%〜10%と穏やかで、すでに成熟している。これに対しモジュール型は、PXI対応機の市場が同20%〜30%と、成長著しい」(アジレント・テクノロジーの電子計測本部 マーケティングセンタでマーケット・ディベロップメント・マネージャを務める犬飼 清氏)。

 こうした状況の背景には、冒頭で述べた機器の機能の複合化というトレンドがある。モジュール型であれば、複合化の進む機器の検証においてスタンドアロン型では対応しにくい要件にも応えられる。特に、デジタル信号やアナログ信号、高周波信号など、形態が異なるさまざまな信号を多チャンネルにわたって、チャネル間の同期を高い精度で確保しながら計測する際には、モジュール型の採用が不可欠になる(図2)。

図2 図2 機能の複合化で多チャネルの同期測定ニーズが高まる 入力と出力の信号が複数チャネルずつ存在し、それぞれデジタル/アナログ/高周波など信号の形態が異なる複合的なシステムの評価系を模式的に表した例である。入力信号のエラーやタイミングのずれが出力信号に与える影響を検証するには、これらの信号の多チャネル同期測定に対応可能なシステムが必要になる。それには、計測器1〜7の同期を確保しなければならない。出典:日本ナショナルインスツルメンツ

 図3に示す通り、スタンドアロン型とモジュール型では、計測器(もしくは計測モジュール)およびそれを制御するコンピュータの間でデータや同期信号の接続方法が異なる。この結果、次のような違いが生じる。すなわちスタンドアロン型では、ホストPCが介在する処理では、外部バスのデータ転送速度やレイテンシが計測システム全体のスループットのボトルネックになる場合がある。また、タイミング制御にホストPCが介在すると、同期精度を確保しにくい。モジュール型では、内部データバスは転送速度が高い上に、外部バスに比べてレイテンシが短く、処理のボトルネックになりにくい。また、データバスとは別に高精度タイミング/トリガーバスを備えており、コントローラと計測モジュール間の同期も確保できる。多チャネルの同期精度が求められる複合的な測定にも対応可能だ。

図3 図3 計測システムの構築手法で処理速度や同期精度に差が生じる (a)スタンドアロン型では、複数の計測器を外部データバス経由でホストPCに接続する。同期信号は通常、計測器間のみBNC同軸ケーブルを介して分配する。(b)モジュール型は、単一シャーシ内で計測モジュールとコントローラを内部データバスでつなぐ。また、データバスとは別に高精度タイミング/トリガーバスを備え、コントローラと計測モジュール間の同期も確保できる。出典:日本ナショナルインスツルメンツ

 もっとも、モジュール型とスタンドアロン型の使い分けは、定性的に見ればこれまでと変わっていない。すなわち、極めて高い性能を追求する用途や、購入後に直ちに使える簡便性や物理的なボタンやノブによる操作性を求める用途などでは、スタンドアロン型に強みがある。一方で、計測システムの機能/構成の柔軟性/拡張性を重視する用途や、特に製造現場において低コストや省スペースを追及する用途では、モジュール型が優位に立つ(表1)。

表1 表1 スタンドアロン型とモジュール型の計測器の特性 特性の違いをまとめた。この違いによって、それぞれのタイプの応用範囲はすみ分けができている。どちらが最適な解になるかは、個別の事例ごとに異なるので、定量的に線引きすることは難しい。出典:日本ナショナルインスツルメンツの資料を基に本誌が作成*1)ただし、製造ラインなどでは、モジュール型をうまく活用すれば単位設置容積当たりの計測スループットを大幅に高められるので、テストに費やす総コストを低く抑えられる可能性がある。
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