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» 2010年11月11日 11時00分 UPDATE

Embedded Android for Beginners(Android基礎講座):第4回 GoogleがAndroidで狙うもの

Googleはサービスの無料化によって競争相手のビジネスモデルを壊して競争を無効にしています。Googleの本当の戦場は検索と広告ですが、これまでの買収を振り返ると検索や広告の規模を大きくする側面支援につながるものでした。広告ビジネスを柱とする会社がなぜAndroidを始めたのか、このように考えると合点がいきます。

[金山二郎(イーフロー),EE Times Japan]

 インターネットの検索エンジンとしては後発のGoogleが産声をあげたのは1998年。それから10年もしないうちに、Googleは世界有数のIT企業にまで成長しました。

 Googleの強みは、コア技術である検索エンジン以外にもあります。「全てを破壊する」と言われる、世界でもまれに見る戦略と画期的な広告モデルの導入です。Googleが育て上げたAndroidには、Googleならではの機能や考え方が盛り込まれています。なにより、Googleのビジネスにおける、確固たる位置付けが与えられています。Androidを理解する上で最も重要とも言えるGoogleのビジネスの考え方について紹介しましょう。

Googleの柱は検索と広告

 Googleの考え方を知るために、まずGoogleの生い立ちから振り返ってみましょう。

 Googleの歩みはStanford Universityの学生であったLawrence Page氏とSergey Brin氏が1996年に開始した検索エンジンについての研究プロジェクトから始まりました。当初は検索エンジンをWebサイトの1機能として提供することで収入を得ていましたが、程なくして、後に2兆円の売り上げをもたらすオンライン広告「Google AdWords」を開始します。そこに2001年、Eric Schmidt氏がCEOとして合流し、役者がそろいました。

 この時点で、Googleは次の2つを柱とした会社となっています。

  • インターネット検索技術
  • 広告収入

 ここから先、Googleは買収と新サービスの発表を重ねていきます(表1)。Gmailをはじめほとんどのサービスを無料で提供したため、ビジネスモデルも何もないように見えます。Androidのような組み込み機器向けソフトウエアプラットフォームを提供し、「Google Chrome」のようなWebブラウザも提供し、ついにはPC向けのOSである「Chrome OS」まで無料で提供しようとしています。Googleは大丈夫なのかという周囲の懸念をよそに、広告収入は順調に伸びていき、ついに2兆円に達しました(図1)。「探そう」というキャッチコピーのテレビコマーシャルをご覧になった方も多いと思います。国内の転職先企業のランキングではトヨタを超えた人気企業となり、世界でも有数のあこがれの会社になりました。

ALD 表1 Googleの動向 Googleの歴史は買収と新サービスの歴史ともいえるが、実は全ては検索の適用範囲を広げるため、広告収入を増やすための行動だった。

 順調な広告収入の伸びという実績とキャッチコピーが、Googleの考え方を物語っています。すなわち、検索技術の適用に基づく広告収入、これがGoogleの全てであり、「Google Earth」もAndroidもChrome OSも、広告収入を増やすための道具と考えられます。

ALT 図1 Apple、Google、Microsoft、ソニーの株価時価総額の推移 AppleはMicrosoftの時価総額に迫っているが、Googleも追従すると予測できる。

 インターネット検索技術では、Googleは最大のライバルであったYahoo!を大きくしのぎました。Googleはインターネット検索技術を武器に、広告という古来からあるマーケットを制覇するという壮大なビジョンを持ちました。おびただしい数の買収や新サービスの目的はこれです(図2)。Googleがこのように成長したのはEric Schmidt氏の見識によるところが大きいと思います。

ALT 図2 Googleのビジョン 宅内利用から携帯利用まで検索対象と検索機会を拡大することで広告収入も拡大させるGoogleのビジョン。消費者行動なども貴重な情報としてまとめられる。

 さまざまなサービスの中でも、GoogleEarthとAndroidの役割は特別です。Googleの検索サービスはもともとPCから利用することを考えて作られましたが、次第に携帯型機器での利用を視野に入れる必要が出てきました。移動中の人たちがAndroidを採用した携帯電話機を持つようになれば、標準で設定されているGoogleの検索サービスを利用する機会がより多くなり、より多くの広告収入が得られるという仕組みです。

 PCに向けては「Google Desktop」やGoogle Chromeが投入されています。さらに、クラウドコンピューティングを利用した「Google Document」の完成度も上がっています。クラウドコンピューティングの登場以降、PCやPC上で動作するソフトウエアに対する依存度が下がっていますから、今後登場する無料のChrome OSがそこそこ使い物になるのであれば、乗り換えるユーザーは多いでしょう。

 広告収入を生む利用機会を増やすためにそこまでする必要があるのかという疑問を持たれる方も多いことと思います。このようなアプローチが「破壊者」とやゆされるゆえんでもあります。

 しかし、ビジネスという観点から考えると、いたって普通の考え方でもあります。AppleのCEOであるSteve Jobs 氏は、相手が競争する気をなくすくらいの優位性を示すことが重要だと述べています。Jobs氏だけではなく多くの経営者が同様のことを語っています。相手よりも圧倒的な優位に立つことが究極の戦法であり、安定収入にもつながり、その後の展開も自社の思い通りに進められます。

 Googleの場合、サービスの無料化によって競争相手のビジネスモデルを壊して競争を無効にしています。Googleの本当の戦場は検索と広告ですが、これまでの買収を振り返ると検索や広告の規模を大きくする側面支援につながるものでした。

 広告ビジネスを柱とする会社がなぜAndroidを始めたのか、このように考えると合点がいきます。また、「全てを壊す」と言われるGoogleのビジネススタイルも、とっぴなものではない自然な考え方のように思えてくるのです。

Androidを介したGoogleとの付き合い方

 組み込み機器を開発するとき、さらに組み込み機器を使ったサービスを構築する際、Googleと付き合う機会が今後ますます増えていくでしょう。

 Googleの考え方に沿っていくと、AndroidひいてはGoogleと付き合う上で、次のことが言えそうです。

  • 検索対象、検索機会の拡大につながることは喜ばれる
  • 広告収入の拡大につながることは喜ばれる

 自社の組み込み機器にAndroidを採用すると、率直に喜んでくれそうに思えます。仮にネットワークにつながらず、直接、検索や広告を呼び出さなかったとしても、組み込みOSのシェアをより多く獲得することには、将来を見越した意味があります。

 前回紹介した通り、Androidを採用した携帯電話機はスマートフォンでは最も勢いがあり、タブレット機器でも有利な位置にいると考えられます。コストが厳しく問われる低価格情報機器のOSとして、無料のOSはうってつけだからです。

 Androidを機器に採用すること以外にもGoogleが喜ぶことがあります。Androidへのコントリビュート(コードの寄付)です。Androidはオープンソースソフトウエアであり、コントリビュートによってバグの修正や機能追加が進みます。そのため、Googleはオープンソースコミュニティに力を入れています。コミュニティ内でコメントを付けたり、コードを寄付することは、Androidに対する直接的なコントリビュートになります。日本語のコミュニティもできていますが、Android開発の現場を生で知るために、ぜひ developer.android.com のコミュニティに参加していただきたいと思います。

 Androidを頼ってビジネスを進めていきたい企業は、例えば自分たちの技術がAndroid標準のAPIで利用できるようにならないか、技術をGoogleが買ってくれないかと考えることでしょう。試してみる価値はありますが、オープンソースであるが故に、コミュニティでの活動と同様、ぜひコントリビュートしてください、ということになります。Googleがお金を出しても欲しい技術であれば可能性はあります。もちろんGoogleの広告収入に大きく寄与するという説明が可能な技術でなければなりません。

 AndroidがGoogleの巨額な投資に支えられていることは事実ですが、Googleもむやみやたらと投資しているわけではありません。Androidのどの部分に資金をつぎ込むかということについては、むしろ非常にドライな判断をしています。例えば、Androidの中核技術である「Dalvik」は、Android 2.2からJITコンパイラを正式にサポートしています。Dalvikは社内でチームを結成してスクラッチからコードを作り上げ、鋭意改善しています。

 しかし、Dalvikとは対照的にARM以外のプロセッサは未だサポートされていません。これはAndroidが携帯電話機やタブレット機器のような携帯型機器に向けて開発を開始したことはもちろん、組み込み機器では携帯型機器市場が最も強力であるという背景を意識した上での判断であることは間違いありません。「Google TV」プラットフォームを採用したソニーのテレビ受像機ではインテルの「Atom」プロセッサを採用していますが、Atomはもともと組み込み向けとしては高速なプロセッサであり、JITの開発は見送られていると考えられます。

 企業によるコントリビュートにはさまざまな考え方があります。カスタマイズしないと色々な機器に搭載されない特殊技術であれば、カスタマイズの仕事が生まれることを期待してコントリビュートするという考え方もあるでしょう。あるいは、コントリビュートによってGoogleのように、ある分野の競争力を無効にできる場合もあるでしょう。「破壊者」と呼ばれることをいとわなければ。

Googleの将来とAndroidの未来

 もう少し将来を見通すと、Googleとの付き合い方が変わってくるかもしれません。Googleは検索対象と検索機会の拡大という観点から、関与する範囲をどんどん拡大しています。Googleが新たなビジネスモデルを投入する機会が増えていることになります。検索と広告という組み合わせが将来、変わることがあれば、また、そうでなくても、思わぬ分野にGoogleが進出して来れば、われわれとGoogle、Androidとの付き合い方が変わってくるかもしれません。

 最近では「Google Books」が注目されています。書籍は歴史の長さから、音楽以上の蓄積があり、版権なども複雑です。単なる検索対象以上の意味があり、特別なビジネスとなる可能性は十分にあります。Androidは当然のことながらビューアとしての役割を担います。ただし、別掲記事「GoogleとSunとAndroidにはセキュリティ面で課題があり、今後解決を要します。

 Googleは車や医療、電力といった分野にも手を拡げています。車までは既存のビジネスモデルに当てはまりますが、医療や電力となるとさすがに話が変わってきます。ビジネスモデルもまた変わっていくのではないかと考えられます。しかしそのような分野でもクライアント機器は必要ですから、Androidが搭載されたカーナビや医療用機器、スマートメーターが数多く登場することでしょう。少なくとも、現在の同種の機器よりは、安くて使い勝手が良さそうです。加えて、カーナビなら「Google Maps Navigaion」というように、これまでのGoogleの買収の成果を存分に生かした内容になることが期待できます。

 医療用機器にはリアルタイム性が求めれられることが少なくありません。リアルタイム性はAndroidにはそぐわないので、別掲記事で触れた仮想化技術のような下支えとなる技術を用意し、リアルタイムサービスとAndroidサービスを適切に切り替えて提供することになるでしょう。

 スマートメーターにはAndroidが向いているかもしれません。スマートメーターには確固たる定義はありませんが、一言で言うと高機能電力メーターであり、電力計測を軸に、消費電力の様子を把握したり宅外から家電製品のリモートコントロールを可能にするような機器を意味します。Androidによりさまざまなアプリケーションソフトウエアが提供可能になれば、電力消費の様子から節電のポイントを見つけたり、新しいライフプランの提言まで可能になるでしょう。

 GoogleはAndroidをもたらしただけでなく、途方もなく大きな視野を持つことの価値を教えてくれました。Googleが業態を変えたとしても、この考え方は未来永劫変わらないでしょう。GoogleらしいAndroidの使い方とは、自社のこれまでのビジネスを取り囲んでいた枠を壊すようなAndroidの活用方法を考えることかもしれません。大いに見習いたいものです。

GoogleとSunとの切っても切れない関係

 創業からわずか10年余りで世界に名だたるIT企業となったGoogle。同社とSunMicrosystemsとの関係は浅からぬものがあります。

 Googleの創業資金を融通したのはSunMicrosystemsの共同創始者であるAndyBechtolsheim氏でした。そして、2001年にNovellを経てGoogleのCEOに就任したEricSchmidt氏は、もとはSun MicrosystemsのCTOを務めていました。

 Eric Schmidt氏は、Sun Microsystemsの誰よりもJavaを知っていると言っても過言ではありません。Oracleとの裁判で係争中ということもあり、公には言えないと思いますが、Googleの技術、特にAndroidが、Javaに深く根ざしていることは否定のしようもありません。

 オープンソースという形態を選んだことも、Sun Microsystemsを含む企業やそこで活躍した人たちの文化が作用したと考えられます。Androidが発表された当初、iPhoneよりも後発なのだから、普及させるにはオープンソースにするしか道がなかったといった見方がありました。これは今となっては誤った見解でした。iPhoneやiPodの場合、機器の成功よりも「iTunes Music Store」の成功の方に意味があると言われています。これまで誰も成し得なかった大規模なオンライン音楽配信ストアを成功させるためには、機器のソフトウエアをオープンにするわけにはいかなかったということです。

ALT 図A-1 仮想化技術によるAndroidとセキュアなデータの分離 脆弱(ぜいじゃく)性のあるAndroidソフトウエアから仮想化によってセキュアなデータを隔離することで、著作権などがあるコンテンツや電子マネーなどを扱うサービスが可能になる。

 実際、オープンソースを選択したAndroidはOSのルート権限が奪われ放題という状況になっており、これは版権所有者として好ましいとはとても言えない状態で、Androidの大きな課題になっています。セキュリティを確保するためには、仮想化技術によりセキュアなソフトウエアをAndroidから隔離するという手段があります(図A-1)。Androidのセキュリティ問題を一掃する究極の手段です。日本国内ではアックスなどがAndroid向けに仮想化技術を提供しています。

 組み込み機器に向けた仮想化技術はまだ手探りの部分も多く、組み込みに対する深い経験に基づいた設計やチューニングが求められます。

著者プロフィール

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金山二郎(かなやま じろう)氏

株式会社イーフロー統括部長。Java黎明(れいめい)期から組み込みJavaを専門に活動している。10年以上の経験に基づく技術とアイデアを、最近はAndroidプログラムの開発で活用している。



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