メディア

部屋丸ごと「ワイヤレス給電空間」へ、WiTricity社が考える未来像ワイヤレス給電技術 共鳴方式(1/2 ページ)

「共鳴型」と呼ぶワイヤレス給電技術の実用化に向け、研究開発を進めている企業の1つが、米国に本社を構えるWiTricityだ。

» 2010年11月26日 00時00分 公開
[前川慎光,EE Times Japan]

 「共鳴型」と呼ぶワイヤレス給電技術の実用化に向け、研究開発を進めている企業の1つが、米国に本社を構えるWiTricityだ(図1)。米Massachusetts Institute of Technology(MIT)の研究グループから、共鳴型ワイヤレス給電に関する技術ライセンスを受け、2007年に設立した。

 ただ、2007年の設立以降、同社の研究開発の動向は、ほとんど公開されていない。そこで、実用化に向けた最近の状況や、同社が手掛ける共鳴型ワイヤレス給電モジュールの特徴を、同社のDirector of Business Development & Marketingを務めるDavid Schatz氏に聞いた。以下は、メールでインタビューした内容をまとめたものである。

図1 図1 共鳴型ワイヤレス給電システムの開発を手掛ける、WiTricity 従業員は25名。最近、2万平方フィート(およそ1858m2)の敷地のオフィスに移転した。

モバイル/家電/電気自動車がターゲット

EE Times Japan どのような種類のワイヤレス給電モジュールを用意しているのか。寸法や伝送効率などの仕様を教えてほしい。

Schatz氏 用途や供給電力が異なる3種類のワイヤレス給電モジュールを用意しており、サンプルの提供を2010年1月に始めた。

 まず1つ目は、モバイル機器を対象にしたワイヤレス給電モジュールだ(図2)。モバイル機器と言っても幅広く、携帯電話機やスマートフォン、デジタルカメラ、タブレットPC、PCの周辺機器などを対象にしている。複数の機器に対して同時に給電することができ、総供給電力は2.5W〜10Wである。

図2 図2 複数のモバイル機器とPC周辺機器に同時に給電 机の下に送電側のモジュールが取り付けられており、机の上に置いた複数の機器に同時に電力を供給する。出典:WiTricity

 ワイヤレス給電モジュールは、送電側のデバイス(共振器)と、受電側のデバイスで構成しており、モバイル機器を対象にした用途では、机などに送電側デバイスを設置して使う。そうすることで、机の上に置かれたモバイル機器に対してだけでなく、送電側デバイスからおよそ3m離れた位置にある機器に対しても電力を供給できる。受電側デバイスのサイズはおよそ4cm×7cm(名刺より一回り小さいサイズ)で、モバイル機器への組み込みのほか、外付けアクセサリとして提供することを想定している。

 電力を供給可能な距離は、送電側/受電側デバイスの寸法に依存するが、「共振リピータ(passive resonating repeaters)」を使って、延ばすことが可能だ。共振リピータは、コイルで形成した共振器で、非常に薄いフレキシブル基板に作り込むことができる(リピータについての詳細は、「理論は帯域通過フィルタそのもの」を参照)。

 共振リピータは、受動素子で構成したデバイスで、電源の接続は不要である。送電側のデバイスが形成した磁界をまるで「ホップ」させることにより、効率を維持したまま、送電側デバイスと受電側デバイスの距離を延ばせる(図3)。

図3 図3 コードレス・電池不要のLED照明を「共振リピータ」で実現 送電側モジュールはキッチンキャビネットの内部にあり(図には見えていない)、受電側モジュールを組み込んだLED照明に電力を供給する。特筆すべき点は、送電距離を延ばすために、「共振リピータ(Resonant Repeater Pads)」を使用していることである。壁のコンセントの部分に取り付けてある。電力をホップさせることで、距離を延ばせると説明した。出典:WiTricity

 共振リピータは、ワイヤレス給電システムの適用範囲を広げるのに、非常に効果的だと考えており、この技術に関する特許も有している。共振リピータを、1つのリピータ装置として設置するだけではなく、家具やカーペット、床のタイル、壁パネルなどに組み込むことで、1つの部屋全体を「ワイヤレス給電空間」にすることが可能だろう。

 2つ目は、中電力供給用のワイヤレス給電モジュールである。デジタルテレビやノートPCを対象にしている。当社のワイヤレス給電モジュールを使えば、完全にケーブルフリーのデジタルテレビを実現可能だ(図4)。例えば、建物の壁に配置した送電側デバイスから、テレビの台座や机に設置した受電側デバイスに電力を供給する構成を採る。

 送電側デバイスと受電側デバイスの構成によって異なるが、伝送距離は10cm〜50cm、供給電力は60W〜250Wである。ノートPCを対象にしたワイヤレス給電モジュールも用意しており、受電側デバイスの寸法は30cm×30cmまたは、20cm×50cm程度である。

図4 図4 完全に「ケーブルフリー」のデジタルテレビ 映像と電力それぞれをワイヤレスで供給している。ハイアールグループ(Haier Group)が試作した。出典:WiTricity

 最後に、3つ目は電気自動車を充電する用途に使うワイヤレス給電モジュールである(図5)。すでに、日本や中国、ドイツ、米国、カナダといった各国の自動車メーカーやティア1(第1階層)メーカーに向けて、提案を開始している。このタイプのモジュールのサイズは50cm×50cmで、最大3.3kWの電力を供給可能だ。伝送距離が20cmのときの(共振器間の)伝送効率は90%を超える。

図5 図5 電気自動車の充電をワイヤレスで実現 共鳴型ワイヤレス給電システムを採用すれば、送電側と受電側の位置合わせの自由度が高められる。出典:WiTricity

 当社の電気自動車向けワイヤレス給電システムは、既存の電磁誘導方式のワイヤレス給電システムに比べ、送電側/受電側デバイスのサイズが小型で、送電側と受電側が離れているときにも、伝送効率が高いことが特徴だ。X軸やY軸、Z軸のほか、ピッチ軸、ロール軸、ヨー軸の合計6軸に対して、デバイス位置の自由度が高いことも強調したい。

EE Times Japan 何社に対して、ワイヤレス給電モジュールのサンプルを提供したのか。

Schatz氏 具体的な企業名は明らかにできないが、およそ20社のメーカーおよびビジネスパートナー企業にサンプルを提供した。中国青島に本社を構える総合家電メーカーのハイアールグループ(Haier Group)と、米国の自動車部品メーカーのデルファイ(Delphi)については、当社との協業を発表している。

EE Times Japan 量産出荷を始める時期の見通しを教えてほしい。

Schatz氏  限定的な生産はすでに開始しており、2011年中ごろには量産を開始できると期待している。まず、モバイル機器に採用される見込みだ。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

RSSフィード

公式SNS

All material on this site Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
This site contains articles under license from AspenCore LLC.