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スマートグリッドを実現する無線の進化、サービス連携や組み込み容易に無線通信技術 スマートグリッド(2/4 ページ)

» 2010年12月03日 00時00分 公開
[前川慎光,EE Times Japan]

ハードウエアではなく、ソフトウエアを売りに

 People Powerは、2009年1月に設立されたばかりのベンチャー企業である。同社は、無線通信用モジュールを提供するベンダーでありながら、売りにするのは無線通信用モジュールに載せるミドルウエアや、クラウドを使って提供する電力管理サービスという、特色ある企業だ。宅内やビルにあるエレクトロニクス機器の電力管理の「プラットフォーム」の提供を、2011年初頭に開始する(図2)。

図2 図2 People Powerが提供する電力管理の「プラットフォーム」の概略図  プラットフォームの構成要素は3つある。1つは、「SuRFモジュール」と呼ぶ無線通信モジュールで、図中のイメージング機器や電子製品、テレビといった宅内にある機器に組み込む。構成要素の2つ目は、SuRFモジュールに載せるネットワーク接続用ミドルウエア「OSIAN(Open Source IPv6 Automation Network)」。3つ目は、クラウドを使った電力管理サービス「ESP(Energy Service Platform)」である。このようなプラットフォームを構築することで、スマートフォンやPCから、宅内機器の消費電力を把握したり、機器を制御したりできるようになる。

 同社が言うプラットフォームとは、「SuRFモジュール」と呼ぶ無線通信モジュール(図3)と、ネットワーク接続のためのミドルウエア「OSIAN(Open Source IPv6 Automation Network)」、クラウドを使って提供する電力管理サービス「ESP(Energy Service Platform)」を組み合わせたもの。「エンドツーエンドのサービスを提供することで、電力管理サービスの導入を容易にする」(同社のCEO兼ChairmanのGene Wang氏、図4)ことが狙いだ。

図3 図3 「IEEE 802.15.4g」を採用したSuRFモジュール  実装面積は、25mm×25mm×0.9mmと小さい。モジュールの中心にあるのは、テキサス・インスツルメンツの無線通信用マイコン「CC430F5137」である。CC430F5137には、900MHz帯に対応したRFトランシーバ回路が搭載されている。

 同社のプラットフォームを採用すれば、「宅内やビル、商業施設の電力消費量の「監視」や「管理」、「比較」、そして『コンテスト』を、1つの枠組みの中で実現できる」(同氏)と強調する。ここでいう、コンテストとは、Facebookなどのソーシャルネットワーキング・サービスを使って、消費電力の削減量を競わせるようなサービスのこと。

図4 図4 People PowerのCEO & ChairmanであるGene Wang氏  「エンドツーエンドのプラットフォームを提供することで、電力管理サービスの導入を促す」という言葉を繰り返した。同氏が手に持っているのが、IEEE 802.15.4gに対応したSuRFモジュール。2011年第1四半期に量産を開始する予定である。

 例えば、スマートフォンといったモバイル端末や、ノートPCなどから、宅内のエレクトロニクス機器の電力消費量を把握したり、機器を遠隔制御したりできる(図5)。それだけではなく、例えば、社内の部門ごとや地区ごと、同規模の商業施設やオフィスごとといった単位ごとに、電力消費量を比較し、競わせるようなアプリケーションも用意している。温度センサーや湿度センサー、天候といった補助情報を基に、宅内やビル、商業施設の機器をリモート制御したり、制御スケジュールを管理したり、自動的に電源をオフにすることも可能であるという。「まず、電力消費量を把握し、次に過去の消費データや他部門の消費量と比較する必要がある。こうなっていないと、機器を制御して消費量を抑制するという行動にはつながらない。さまざまなシステムベンダーや機器メーカーに対し、一般消費者が、省エネに楽しく参加できるプラットフォームを提供する」(同氏)という。

「IEEE 802.15.4g」で消費電力を低減

 People Powerのプラットフォームを構成する要素は、前述の通り3つある。1つ目のSuRFモジュールは、宅内やビルのさまざまなエレクトロニクス機器に組み込むことを想定しており、プリント基板の寸法は25mm×25mm×0.9mmと小さい。プリント基板に、無線通信機能を搭載するのに必要な半導体部品が数多く実装してある。

 半導体部品の中で中心的な役割を担うのが、テキサス・インスツルメンツの無線通信用マイコン「CC430F5137」である。900MHz帯に対応したRFトランシーバ回路を搭載しており、消費電力の低さが特徴だ。

図5 図5 スマートフォンで宅内機器の電力消費量を監視・制御  People Powerは、スマートフォンやノートPCを使って、宅内のさまざまなエレクトロニクス機器の電力消費量を把握したり、機器を制御したりする電力管理サービスを提供する。画面に表示されているのは、電力料金を把握するための画面。

 無線通信規格に「IEEE 802.15.4g」を採用することも特筆すべき点である。IEEE 802.15.4gは、消費電力の低さが特徴のZigBeeに採用されている「IEEE 802.15.4」の物理層を改良したもの。ガスや電力、水道といった各種メーターを高機能化した「スマートメーター」をネットワークに接続することを対象にした無線通信規格である。各種スマートメータのネットワークを「Smart Utility Networks」と呼ぶ。同社はSmart Utility Networksに向けたIEEE 802.15.4g規格を他社に先駆け、無線通信モジュールに採用した。

ミドルウエアとセットで提供

 構成要素の2つ目であるOSIANは、ネットワーク接続のためのミドルウエアで、SuRFモジュール上で動作させる。宅内のエレクトロニクス機器や宅内のハブとなる機器に、OSIAN対応の無線通信モジュールを組み込むことで、各機器は宅内ハブを介してクラウドの電力管理サービスに接続できることになる。「消費電力の低さや伝送距離の長さを特徴にしており、オープンソースとして提供する」(同氏)。

 OSIANは、無線センサーネットワークの開発に向けて開発されたオープンソースOS「TinyOS」を利用している。TinyOSは、1万人もの開発者が利用しており、100万を超える無線センサーに実装された実績を有する。

 構成要素の3つ目である電力管理サービス(ESP)は、SuRFモジュールを搭載し、インターネットに接続された各種機器から収得したデータなどを集計、解析し、付加価値のある情報として利用者に提供するもの。技術的にはすでに完成しており、同社はAmazon.comのクラウドサーバーを利用して、サービスを提供する予定である。

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