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» 2011年01月28日 00時00分 UPDATE

水晶デバイス基礎講座:第3回 水晶デバイスの小型化の裏に特性維持の工夫あり

電子機器の高機能化と小型化の要求は、今後も続きます。水晶デバイスも新技術を取り込みながら、小型化と高性能化が進んでいきます。

[宮澤輝久,エプソントヨコム ]

 本連載では、機器設計の鍵を握る水晶デバイスに焦点を当て、水晶がタイミングデバイスに向く理由や、水晶を利用したタイミングデバイスを使うときの勘所、水晶を使った発振回路の評価手法など紹介します。第1回目と第2回目ではそれぞれ、水晶という材料の特性や、水晶がタイミングデバイスに向いている理由を紹介しました。

 第3回目となる今回は、水晶デバイスが進化してきた歴史を紹介しましょう。

 携帯電話機が世の中に登場した1980年代、「ショルダーフォン」が話題になりました。その名の通り、肩に掛ける携帯電話機です。このショルダーフォンに搭載していた「温度補償型水晶発振器(TCXO)」と呼ぶタイミングデバイスは、4.0ccほどの体積でした。

 その後、電子技術の進歩を背景に、携帯電話機は大きく進歩しました。現在私たちが手にしている携帯電話機は、カメラやインターネット接続、ワンセグ放送の視聴や録画といった数多くの機能を搭載しつつも、背広の胸ポケットに収まるほど小さなサイズを実現しています。これに伴って、搭載されているTCXOの体積も0.003ccと、非常に小さくなりました(図1)。1980年代に使われていたTCXOのおよそ1/1300に相当する体積にまで小型化したことになります。

図1 図1 水晶デバイスの進化の歴史 電子機器の多機能化や小型化に伴い、水晶デバイスも進化してきました。1980年代の温度補償型水晶発振器(TCXO)の体積は4.0ccでした。これに対して、最近のTCXOの体積はわずか0.003ccです。

 今後も電子機器の高機能化と小型化の要求は、続きますので、水晶デバイスも新技術を取り込みながら、小型化と高性能化が進んでいきます。

小型化はそう簡単ではない

 しかし、水晶デバイスの小型化はそう簡単ではありません。例えば、基準信号を生み出す水晶振動子の寸法を小さくすると、加工の難しさに起因した特性変化と、振動子の特性そのものの変化が生じます。

 一般に、水晶振動子が小さくなると、製造時の機械加工の精度を一定に保つのが難しくなるため、振動子の特性がばらつきます(図2)。具体的には、水晶振動子の振動のしやすさを表す指標である「CI(クリスタルインピーダンス)」をはじめ、スプリアス特性や温度特性、周波数偏差特性といったさまざまな指標がばらつきます。水晶振動子を小型化するには、加工精度の一段の向上が必要なのです。

図2 図2 水晶振動子の一般的な製造工程 水晶振動子の製造工程は、水晶ウエハーの作成、チップ化、パッケージ化の主に3つに分けられます。水晶ウエハーの作成工程では、人工水晶の原石をブロック化した後、ウエハーとして切り出します。その後、水晶ウエハーを個片化し、ドラムを使って球面加工します。水晶振動子が小さくなると、機械加工の精度を一定に保つのが難しくなるため、振動子の特性がばらついてしまいます。

 また、水晶振動子を何の工夫もなく単純に小さくしただけだと、水晶振動子を振動させにくくなり、前述のクリスタルインピーダンスが大きくなってしまいます(図3)。

図3 図3 単純な小型化では水晶振動子の特性が劣化 上図は、水晶振動子が小型化していく様子。下図は、クリスタルインピーダンスの変化を示しています。水晶振動子の寸法を単純に小さくしただけだと、振動子の振動しやすさの指標である「CI(クリスタルインピーダンス)」がばらつくと同時に、平均値は増大してしまいます。

MEMS技術を水晶加工に適用

 水晶振動子は機械加工技術を使って製造するのが一般的です。最近では、小型化と高性能化を両立させるという課題を解決するために、半導体製造技術では一般的なフォトリソグラフィ技術を活用していこうという取り組みがあります(図4)。

図4 図4 水晶振動子の形成にフォトリソグラフィ技術を活用 従来の機械加工の工程と、フォトリソグラフィ技術を使った製造工程を比較しました。フォトリソグラフィ技術を水晶の加工に利用することで、水晶素子や電極の加工精度が飛躍的に向上します。

 フォトリソグラフィ技術を水晶の加工にも応用することで、水晶素子や電極の加工精度を飛躍的に向上させることができます。このようにして、CI値の低減や、発振周波数の制御、温度特性の向上など、さらなる小型化を進めるための製造手法を確立してきました。

 一般に、フォトリソグラフィ技術をはじめとした半導体微細加工技術を使って、機械や電気、光、化学に関するさまざまな機能を集結したデバイスを「MEMS(Micro Electromechanical Systems)」と呼びます。エプソントヨコムでは、MEMS技術を適用した水晶デバイスを、「QMEMS」と名付けました。QMEMSは、「Quarts」とMEMSを組み合わせた造語です。

 次回以降は、水晶を使ったタイミングデバイスとして最も広い用途があるATカット型の水晶振動子について紹介しましょう。水晶振動子の動作を考察するとき、電気的な等価回路を使うと便利です。


参考文献

日本水晶デバイス工業会技術委員会編、「小型水晶振動子利用ガイド」、1994年12月

日本水晶デバイス工業会技術委員会編、「水晶デバイスの解説と応用(第5版)」、2007年3月

吉村和昭、倉持内武、安居院猛、「図解入門 よくわかる最新 電波と周波数の基本と仕組 み」、秀和システム、2004年12月

宮澤輝久ほか、「Design Wave Magazine2007年2月号 論理回路の要 水晶発振回路の設計&実装」、CQ出版社

滝貞雄、「人工水晶とその電気的応用」、日刊工業新聞社、1974年5月

品田敏雄、「水晶発振子の理論と実際」、オーム社、1955年

岡野庄太郎、「水晶周波数制御デバイス」、新技術開発センター、1995年12月

宮澤輝久、菊池尊行、八鍬恵美、「電子材料2010年7月号 水晶MEMSジャイロセンサ」、工業調査会

宮澤輝久、「エレクトロニクス実装技術2009年1月号 弾性表面波技術を応用したGHz帯高精度SAW共振子及びSAW発振器」、技術調査会

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Profile

宮澤輝久(みやざわ てるひさ)氏

セイコーエプソン 経営戦略本部 経営企画管理部に所属。1991年にセイコーエプソンに入社。水晶デバイス事業部にて、水晶発振器の設計・開発に携わる。その後、1999年から2004年まで、同社欧州(ドイツ)現地法人に赴任し、マーケティングとビジネス開拓に従事した。帰国後、水晶デバイス事業全般の商品戦略と商品企画業務に携わる。2005年、セイコーエプソンの水晶デバイス事業部と東洋通信機が事業統合したエプソントヨコムに異動し、商品戦略部立案及び新規ビジネス開拓を推進した。2011年4月よりセイコーエプソンに出向し、将来の事業に向けた調査活動や、事業部の事業支援に携わっている。


「水晶デバイスは、振動工学や伝熱工学、流体力学、材料力学、機械要素などの機械工学や、電子回路設計などの電気工学、雑音を抑制するための電磁気学、エッチングなどの金属加工、さらに化学など、あらゆる分野の技術が組み合わされて、製品化されるものです。水晶デバイスに携わることは、世の中のあらゆる技術に触れる機会が多く、驚きと発見、勉強の毎日です」(宮澤氏)。



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