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センシング応用進む水晶デバイス、バイオやモバイルなど新市場に向かう水晶デバイス(1/3 ページ)

ここ数年、水晶材料をさまざまな分野のセンシングに生かそうという製品開発が進んでいる。センシング分野を対象にした水晶デバイスは、水晶材料の物性の良さを、さまざな物理量の測定に応用したものだ。

» 2011年03月10日 19時50分 公開
[前川慎光,EE Times Japan]

 ここ数年、水晶材料をさまざまな分野のセンシングに生かそうという製品開発が進んでいる。

 現在、水晶材料を使った電子部品と言えばタイミングデバイス、というほど水晶材料を採用した基準信号源は、あらゆる機器に広く使われている。水晶材料は、タイミングバイスに適した物性を備えており、高精度の基準周波数を生成できるからだ。

 例えば、安定した電気機械エネルギー変換特性を備えていることや、均一で安定した高品質材料を確保できること、加工性に優れていること、共振の鋭さの指標「Q値」が高く、振動させたときの損失が小さいといった物性がある。センシング分野を対象にした水晶デバイスは、水晶材料の物性の良さを、さまざな物理量の測定に応用したものである。

 例えば、古くから、温度センサーや水位計測用の圧力センサー、ガスセンサー、膜圧センサーなどに使われてきた。最近では、水晶デバイスの高性能化や小型化を背景に、バイオや医療、食品といった新市場へのセンシング応用や、モバイル機器に向けた製品展開が進んでいる。モバイル機器の分野で比較すると、Si(シリコン)材料の各種センサーが競合技術に位置付けられる。水晶材料のセンサーは、Si材料のものに比べ、測定精度が大幅に高いという特徴がある。

 最近の動向としては、日本電波工業とエプソントヨコムが、水晶デバイスのセンシング応用を積極的に進めている。両社の水晶デバイスはいずれも、水晶材料の特性を、センシング分野に向けた新たな技術開発でうまく引き出したことが特徴だ。

古くからの計測技術を発展

 日本電波工業は、ナノグラムやピコグラムといったごくわずかな質量変化を検出可能な生体分子間相互作用解析装置「NAPiCOS」を開発し、2010年4月に販売を開始した*1)図1)。環境物質検査や食品検査、医療臨床検査、バイオ計測といった分野を対象にしており、有害な化学物質やアレルギー抗原、たんぱく質などの微小物質を高精度に測定/解析できることが特徴だ。

*1)生体分子間相互作用を高感度に自動計測する装置「NAPiCOS Auto」を開発したことを2009年11月に発表し、2010年4月に販売を開始した。マニュアル操作タイプの「NAPiCOS システム」もある。

図1 図1 日本電波工業の生体分子間相互作用解析装置「NAPiCOS」 ナノグラムやピコグラムといったごくわずかな質量変化を検出可能だ。1Hzの周波数変化が35pg(ピコグラム)の質量変化に相当する分解能を有する。測定時間が短いことや、マイクロ流体チップを開発することで、微量試料での計測を可能にしたことも特徴。NAPiCOS Autoの寸法は、53cm×32.5cm×41cmである。

 NAPiCOSの基本原理は、「水晶振動子マイクロ天秤(QCM:Quartz Crystal Microbalance)」と呼ぶ手法である。「ATカット型」の水晶振動子*2)は、厚みすべりモードで、ある共振周波数で振動する。このとき、水晶振動子の電極に何らかの物質が付着すると、わずかな質量増加によって共振周波数が低下する。これを、水晶振動子の「質量負荷効果」と呼ぶ。このわずかな質量増加を、共振周波数の変化として捉えるのが、水晶振動子マイクロ天秤法の基本的なアイデアである。

*2)ATカット型とは、厚みすべり振動を使う切断角度(35°15′)で形成した水晶片であり、およそ1MHz〜数100MHzの周波数で発振させることができる。

 水晶振動子マイクロ天秤法の原理は1970年代に発見されており、旧来からガスセンサーに使われたり、大学などの研究機関で活用されていた。同社が、水晶振動子マイクロ天秤法に注目したのは、産業技術総合研究所(産総研)と2004年に共同研究を開始したことがきっかけだった。産総研では、2004年以前から水晶振動子マイクロ天秤法を使ったダイオキシンの測定に取り組んでいた。有害物質であるダイオキシンを測定する社会的な機運が、1990年代後半に高まったことが背景にある。ダイオキシンは測定が難しいが、水晶振動子の物性を質量測定に生かせば、ダイオキシン濃度を正確に測定できると考えた。

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