インタビュー
» 2011年03月11日 10時00分 UPDATE

アナログ・デバイセズ代表取締役社長兼会長 馬渡修氏:1万社と取り引きするには

アナログICメーカー各社が取りこぼしがちな顧客がいる。日本国内の企業の9割を占める中小企業だ。数は多いが規模が小さく、全国に散らばっている。個々の取り引きに要する手間を考慮すると、積極的にはなりにくいだろう。アナログ・デバイセズは、中小企業に属する技術者の仕事の進め方を調査し、円滑な採用を促す手法を編み出した。

[畑陽一郎,EE Times Japan]

EE Times Japan(EETJ) 中小企業を開拓する理由は何か。

馬渡氏 エレクトロニクス産業が右肩上がりの時代は、われわれの主要な顧客である大手メーカーの売り上げが伸びることを期待できた。大手メーカーと協力すれば、売り上げを増やすことができた。ところが最近5年ぐらいの状況を見ると、必ずしも過去成長してきた大企業が今後とも伸びるかどうか確実ではない、と気が付いた。

 日本は他国と比べて企業の数が多い。10%は大企業で、その他が中小企業だ。調査データから分かることだが、日本の半導体ユーザーの15%を1万社の中小企業が占める。ところが、この中小企業に限定すると当社のマーケットシェアは低く、5%以下だった。そこで、この市場に取り組むことを3年ほど前に決めた。現在ではこの市場を「コアマーケット」と名付けて、5つの産業別の市場と合わせて「5+1」戦略としている。

EETJ コアマーケットに対する成果は上がったのか。

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馬渡氏 成功したと言える。コアマーケットでの売り上げが対前年比で約80%伸びた。世界同時で始めた取り組みだが、日本が一番成功している。コアマーケット対応について、日本発の提案も多い。

EETJ 1万社を相手にすると、人員やコストに無理が出るのではないか。

馬渡氏 営業担当者やフィールドエンジニアが1万社に属するそれぞれの顧客を直接サポートすることはできない。これは最初から分かっていた。それならばWebサイトか代理店に任せることで実現するしかないと当初から考えていた。コアマーケットも狙ったWebサイトを開設したが、現在も少数の担当者で運営している。

EETJ どのようなWebサイトなのか。

馬渡氏 Webサイトの運営を始めるに当たり、カタログ類を大量に公開するという手法では成果が上げられないことは予想できた。そこで、顧客となる中小企業の技術者が仕事を進める上でどのように行動しているのか、どのように半導体を選んでいるのかを調査した。

 中小企業に属する顧客はどの半導体メーカーの営業担当者と話すこともなく、十分な情報を受け取っていないことが分かった。さらに企業の規模が小さいので、知財部門や品質管理部門を備えていない。技術者が1人でいろいろな業務をこなしている。自己で仕事が完結していることが分かった。

 それならば、中小企業向けを狙った当社のWebサイトで技術者の仕事が完結するようにすればよい。技術者本人がWebサイトにアクセスして、部品を探し、評価して、サンプル品を注文できる仕組みを作ればよいと考えた。設計について困ったときにはWebサイトに用意した口コミ(BBS)を参考にできるようにした。BBSにはアナログICを使った際の苦労話が大量に投稿されている。

EETJ そのようなWebサイトを作るに当たり、気をつけたことは何か。

馬渡氏 2つある。サンプル品を素早く提供することと、問題が起きにくい製品を絞り込んで提供することだ。技術者が1人で働いているのなら、(購買部門に任せることもできないため)サンプル品をすぐに入手できないと困るだろう。これまではサンプル品を申し込むと、海外の倉庫から発送していたため、1週間を要することがあった。そこで電子部品・半導体の通販サイトを運営する国内企業のチップワンストップと組んで、17時までに注文していただければ、翌日に届くようにした。

 提供する製品を絞り込んだ理由は幾つかある。24時間で配送できるようにするという理由もあるが、一番重要なのは技術者が使ったときに問題が起きにくくすることだ。品質についても供給についても実績があって、安定しており、問題が報告されていないことが重要だ。さらに、データシートの日本語化が完了しており、アプリケーションノートが用意してあるものを選び出した。市場に投入したばかりの最新の製品は含まれていない。当社には約1万の製品があるが、そこから、約300製品を「おススメ製品」として選び出した。

 こうすれば顧客の技術者の手元で問題が起きにくく、当社の直接のサポートも不要になる。

EETJ コアマーケット向けの理想のWebサイトは実現できたのか。

馬渡氏 目指すところのまだ半分もできていない。「半導体のAmazon.com」になることが目標だ。顧客が購入した製品、閲覧した製品の情報を元に、顧客が次に注文する製品、次に必要になる製品を予測し、提示したい。実現は難しいが、今年の課題だ。当社のWebサイトが役に立つと体感できれば、顧客は業種や設計内容の概要を入力してくれるようになるだろう。そうすれば予測を提示しやすくなる。

EETJ コアマーケットを取り込む方策は他にあるのか。

馬渡氏 2つの取り組みを進めている。どちらもサードパーティーとの協業に基づく。まず、FPGAを利用する顧客を取り込んでいる。FPGAを搭載したボードを設計する際、電源やアンプ、コンバータのICを使うことが多い。顧客はFPGAについて詳しくても、アナログICに詳しいとは限らない。そのため、リファレンスボードに搭載されているアナログICを採用する傾向がある。リファレンスボードと同じICであれば問題が起きにくいからだ。

 そこで、FPGA大手のアルテラやザイリンクスの代理店と組んで、リファレンスボードを当社のアナログICを使って設計してもらうことにした。日本で成功しつつあり、海外でも当社の米国本社とアルテラ本社、ザイリンクス本社間で交渉に入っている。

 もう1つはプリント基板だ。プリント基板を設計する際、コアマーケットの技術者はCADメーカーから提供されたデータを使うことが多い。そこで、プリント基板のネット通販サイト「P板.com」を運営するインフローと組み、当社のアナログICを含んだ設計データ例を作ってもらうよう交渉した。

 いずれの取り組みも、コアマーケットの技術者がどのように製品を設計するのかを調べた結果、始めたことだ。

 この他、代理店へ問い合わせがあった場合、きちんと回答してもらえるような試みも進めている。例えば顧客が二次代理店に問い合わせたとき、回答が遅くなるという指摘があった。コアマーケットからの問い合わせは単純な質問も多く、受け答えが円滑に進むような資料を用意するだけで代理店の対応が改善できると考えた。アンプICやコンバータICについて、「イージーキット」と呼ぶマニュアルを代理店に配布し、半年に1回更新するようにした。電話での問い合わせの際には、まずはすぐに回答することが大切だと考える。


馬渡 修(まわたり おさむ)氏

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中央大学理工学部卒業。1979年、日本モトローラ入社、2000年まで半導体部門イメージング・エンターテインメントソリューション担当ディレクターを務める。2001年、日本シノプシス入社。2003年アナログ・デバイセズにセールス・ディレクターとして入社後、2006年に副社長、同年、代表取締役社長に就任後、代表取締役社長兼会長に就任。

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