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» 2011年04月06日 18時50分 UPDATE

水晶デバイス基礎講座:第4回 水晶振動子の発振周波数はどう決まるのか

今回以降、水晶を使ったタイミングデバイスのうち、「ATカット型」の水晶振動子を、詳しく取り上げます。ATカット型を取り上げる理由は、最も幅広く使われているからです。

[宮澤輝久,セイコーエプソン]

 今回以降、水晶を使ったタイミングデバイスのうち、「ATカット型」の水晶振動子を、詳しく取り上げます。何回かに分けて、ATカット型水晶振動子の特徴や、電気的な等価回路、振動子の発振周波数について詳しく考察しましょう。

 ATカット型とは、人工水晶のZ軸から「35°15′」の角度で切り出した振動子の名称です。水晶を使ったタイミングデバイスには、音叉型や、ATカット型、SAW振動子といったように、幾つもの種類があります。このうち、ATカット型を取り上げる理由は、最も幅広く使われているからです。

 一般に、さまざまな電子機器に搭載されているマイコンやDSPには、発振周波数がMHz帯のタイミングデバイスが必要です。MHz帯のタイミンデバイスを実現するのに、最も加工が容易で量産に適しているのが、ATカット型の水晶振動子なのです。今回は、ATカット型水晶発振子の発振周波数について解説しましょう。

振動子の厚みで発振周波数が決まる

 ATカット型の振動子は、本連載の「第2回 水晶を発振器に使う5つの理由」の図3に示した通り、平らな水晶片を上から押さえながら、横方向にずらしたように振動する「厚みすべり」を繰り返すモードで振動します。−49°の角度で水晶を切り出す「BTカット型」も同様の振動モードです。ただ、BTカット型は、ATカット型に比べて、温度変化に対する周波数精度の特性が劣るため、あまり使われていません。

 ATカット型振動子の大きな特徴は、水晶チップの厚みが発振周波数を決める重要なパラメータであることです。具体的には、発振周波数(f0)は、(1)式で表せます。単位は、MHzです。

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 厚みが1mmのときの基本波(n=1)の発振周波数は1.67MHzになり、この値を周波数定数と呼びます。(1)式において、nはオーバートーン次数(1、3、5・・・と続く奇数)、tは厚み(mm)です。(1)式から明らかなように、発振周波数は振動子の厚みに反比例します。例えば、発振周波数が20MHzの基本波であれば厚みは約83μm、50MHzの基本波であれば約33μmになります。

 ATカット型水晶振動子の発振周波数の範囲は、水晶チップの寸法を考慮しなければ、以下で説明する理由によって下限は800kHz。上限は、最近の製造技術の進歩を背景に、基本波で300MHz帯にまで向上しています。従って、高周波の基準信号が必要なときでも、回路構成が複雑になるオーバートーン発振(nが3以上のとき)ではなく、基本波発振を使うことが主流になってきました。しかし、振動子を薄くするのには限界がありますので、発振周波数の高周波化には、限界があります。

発振周波数、機械強度と寸法が深く関係

 一般には、水晶振動子の厚み/寸法(アスペクト比)と、発振周波数や機械的な強度、発振のしやすさは相互に関係しています(図1)。発振しやすさの指標を、「CI(クリスタルインピーダンス)値」と呼び、小さければ小さいほど発振しやすくなります。CI値が下がると損失が減るという効果があるのですが、不要な振動成分の抑制が難しくなってしまうという側面もあります。

図1 図1 ATカット型水晶振動子の共振周波数と寸法の関係の概略図 ATカット型水晶振動子の共振周波数は、基本的には水晶チップの厚みで決まります。振動子を薄くするのには限界がありますので、発振周波数の高周波化には、限界があります。一般に、水晶振動子の厚み/寸法と、発振周波数や機械的な強度、発振のしやすさは相互に深く関係しています。

 例えば、振動子を薄くすると、機械的な強度が下がりますので、取り扱いや使用環境には注意する必要があります。その代わり、CI値が下がり、振動しやすくなるという効果が生まれます。

 一方で、同一の発振周波数で比べると(同じ厚みで比べると)、水晶振動子の寸法が小さくなればなるほど、CI値が上昇してしまい、発振しにくくなってしまいます(本連載の第3回「小型化の裏に特性維持の工夫あり」を参照して下さい)。

 水晶メーカーの腕の見せ所は、水晶振動子を小型化/薄型化しつつも、特性を維持することです。そうすれば、水晶振動子を利用する設計者は、今までに設計した発振回路をそのまま使えます。

<strong>表1 エプソントヨコムが製品化しているATカット型水晶振動子の例</strong> 所望の周波数に応じて、振動子の寸法を選択する必要があります。例えば、12MHzの発振周波数が必要なとき、2.5mm×2.0mmサイズ以上の振動子であれば、幾つかの品種が用意されています。これよりも小さい2.0mm×1.6mmサイズや、1.6mm×1.2mmサイズだと対応できないことが分かります。

 表1に、現在当社(エプソントヨコム)が製品化しているATカット型水晶振動子をまとめました。安定した周波数を得るには、所望の周波数に応じて、振動子の寸法を選択する必要があります。例えば、表1を例にすると、12MHzの発振周波数が必要なとき、2.5mm×2.0mmサイズ以上の振動子であれば、問題ありませんが、これよりも小さい2.0mm×1.6mmサイズや、1.6mm×1.2mmサイズだと対応できないことが分かります。図1に示した、発振周波数と寸法の関係が表1にも表れています。

温度特性も良好なATカット型

 このほか、ATカット型の水晶振動子は、他のカット角の振動子に比べて、広い温度範囲で安定した周波数が得られることも大きな特徴です。

 ATカット型振動子の温度特性は、図2に示すように3次曲線になります。横軸は温度で、縦軸は周波数変化量を示しています。それぞれの曲線は、水晶の切断角度が基準(Z軸から35°15′)からどれだけずれているか(ずれ角)をパラメータにしたものです。このように、切断角度を変えることで、温度特性を変えることができます。

図2 図2  ATカット型水晶振動子の温度特性 横軸は温度で、縦軸は周波数変化量を示しています。それぞれの曲線は、水晶の切断角度が基準(Z軸から35°15′)からずれ角をパラメータにしたものです。

 他のカット角の振動子の温度特性が2次曲線であるのに対して、ATカット型水晶振動子の温度特性は3次曲線です。従って、他のカット角の振動子に比べて広い温度範囲でひと桁以上、安定した周波数精度が得られるのです。例えば、業界で最も使われているGSM方式の携帯電話機の基準信号源である26MHzを生成する水晶振動子では、−30°〜85℃の温度範囲で、±10ppm(±260Hz)以下の周波数精度を実現しています。

 次回は、ATカット型水晶振動子の挙動を深く理解するため、振動子の電気的等価回路を取り上げます。


参考文献

日本水晶デバイス工業会技術委員会編、「小型水晶振動子利用ガイド」、1994年12月

日本水晶デバイス工業会技術委員会編、「水晶デバイスの解説と応用(第5版)」、2007年3月

吉村和昭、倉持内武、安居院猛、「図解入門 よくわかる最新 電波と周波数の基本と仕組 み」、秀和システム、2004年12月

宮澤輝久ほか、「Design Wave Magazine2007年2月号 論理回路の要 水晶発振回路の設計&実装」、CQ出版社

滝貞雄、「人工水晶とその電気的応用」、日刊工業新聞社、1974年5月

品田敏雄、「水晶発振子の理論と実際」、オーム社、1955年

岡野庄太郎、「水晶周波数制御デバイス」、新技術開発センター、1995年12月

宮澤輝久、菊池尊行、八鍬恵美、「電子材料2010年7月号 水晶MEMSジャイロセンサ」、工業調査会

宮澤輝久、「エレクトロニクス実装技術2009年1月号 弾性表面波技術を応用したGHz帯高精度SAW共振子及びSAW発振器」、技術調査会

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Profile

宮澤輝久(みやざわ てるひさ)氏

セイコーエプソン 経営戦略本部 経営企画管理部に所属。1991年にセイコーエプソンに入社。水晶デバイス事業部にて、水晶発振器の設計・開発に携わる。その後、1999年から2004年まで、同社欧州(ドイツ)現地法人に赴任し、マーケティングとビジネス開拓に従事した。帰国後、水晶デバイス事業全般の商品戦略と商品企画業務に携わる。2005年、セイコーエプソンの水晶デバイス事業部と東洋通信機が事業統合したエプソントヨコムに異動し、商品戦略部立案及び新規ビジネス開拓を推進した。2011年4月よりセイコーエプソンに出向し、将来の事業に向けた調査活動や、事業部の事業支援に携わっている。


「水晶デバイスは、振動工学や伝熱工学、流体力学、材料力学、機械要素などの機械工学や、電子回路設計などの電気工学、雑音を抑制するための電磁気学、エッチングなどの金属加工、さらに化学など、あらゆる分野の技術が組み合わされて、製品化されるものです。水晶デバイスに携わることは、世の中のあらゆる技術に触れる機会が多く、驚きと発見、勉強の毎日です」(宮澤氏)。



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