インタビュー
» 2011年06月07日 15時57分 UPDATE

ルネサス モバイル 代表取締役社長 川崎郁也氏:世界市場でシェアを10倍に (1/2)

ルネサス モバイルの川崎郁也社長は、「今後数年のうちに、世界市場でQualcommと肩を並べる」と公言してはばからない。その先の展望も描く。LTEチップが自動車やカメラ、ゲーム機などに搭載され、クラウドサービスにつながる――そうした新たな時代の覇者を目指すと意気込む。

[Junko Yoshida,EE Times]

 ルネサス モバイルの代表取締役社長を務める川崎郁也氏は、日本人経営者のステレオタイプ――寡黙で遠慮深く、考えを読み取りにくい――とは対照的だ。次々に課題を見つけ出し、解決に向けた取り組みをどんどん進める人物である。

 同社は、ルネサス エレクトロニクスのモバイルマルチメディア事業と、Nokiaのワイヤレスモデム事業が統合し、2010年12月に誕生したモバイル半導体ベンダーである。従業員は世界で約1900名に達するが、そのうち日本人は550名にとどまる。発足わずか半年ながらも、ルネサス モバイルは既に業界を波立たせる存在になっている。その発信源の多くは川崎氏本人だ。同氏は次のように公言してはばからない。すなわち、今後数年のうちに、ルネサス モバイルをモバイルチップ市場の雄であるQualcommと肩を並べる競合に成長させるという。世界のモバイル端末市場で現在はごくわずかにとどまるシェアを、20〜30%まで高める考えだ。

 川崎氏によれば、ルネサス モバイルが描く急成長のシナリオでカギを握るのはLTE(Long Term Evolution)だという。同社は、Nokiaが既に市場で実績を重ね、信頼を獲得済みのLTEプロトコルスタックを買収によって取得しており、それを盾にQualcommに挑むことで十分な勝算があると同氏はみる。

 ルネサス モバイルがQualcommと同クラスだと見なす市場アナリストは、現時点では皆無だ。しかし一方で、Nokiaからのモデム事業買収を仕組んだ川崎氏を過小評価する向きもない。この買収は業界を大いに驚かせるとともに、同氏が業界の「探知機」的な存在だと印象付けた。

 だが、目標達成への道のりはまだ長い。市場調査会社のForward Conceptsでプレジデントを務めるWill Strauss氏は、2010年における携帯電話機向け半導体ベンダーのランキングで、ルネサス モバイルの市場シェアを3%と見積もっている。同社は2011年6月にこのランキングを正式に発表する予定である。

 Strauss氏は、「Qualcommが3GとHSPA+(およびCDMA)のモデム市場でトップの座にあることは、疑う余地もない。3GとHSPA+の市場でQualcommに次ぐのがテキサス・インスツルメンツ(TI)だ。ルネサス モバイルのシェアが伸び始めるのは2012年以降になり、それまで大きな変化はみられないだろう」と述べている。

 一方、LTE市場の顔触れは異なる。この市場を首位でけん引するのはSamsung Electronicsで、その後にQualcommとLG Electronicsが続く。もっともLTEの市場はまだ発展の途上にあり、半導体ベンダーのランキングも流動的だ。Strauss氏は、「HTC(High Tech Computer)のスマートフォン『ThunderBolt』の事例ように、特定の半導体ベンダーに1件でも大型の発注があれば、LTEチップのランキングは一変する可能性がある」と指摘する。同氏によれば、既に19社の半導体ベンダーがLTEベースバンドチップを発表しているが、「実際に出荷しているのは、そのうちのわずかだ」という。

図1 2010年の携帯電話機向け半導体ベンダーランキング 2010年における携帯電話機向け半導体全体の市場規模は550億米ドルだった。この市場には、BluetoothやGPS、電源管理チップなどの製造を手掛ける準大手メーカーも含まれている(ただし、そのほとんどはこの図には記載されていない)。出典:Forward Concepts

 日本の半導体メーカーで幹部を務めるある人物は、「ルネサスは買収先としてNokiaのモデム事業部門を選んだ時点で、その秘策を明かしたようなものだ」という。その幹部は、「日本のモバイル業界では、今もなおNTTドコモが重要な顧客でありパートナーである。しかしルネサスは、世界戦略を展開して実行していく上ではNTTドコモがもはや頼れるパートナーではないということを、全世界に向けて発表したようなものだ」と指摘する。

 ルネサス モバイルの川崎氏は、日本の旧来の常識を否定することを恐れない。賢明かつ大胆、実直でありながら、おどけた面も持ち合わせた、53歳の――日本では通例よりも若い――トップ経営者である。

 同氏は、東京大学と米国のWashington State Universityで電子工学を学び、1982年に日立製作所に入社し、マイコンの設計を手掛けた。TRONや、SH、SH-Mobileなどをはじめとするマイコン関連の開発プロジェクトを幾つも率いた実績を持つ。2008年にはNTTドコモに短期出向し、海外向け携帯電話機事業担当チームの指揮を執った。帰任時にルネサス エレクトロニクスに転籍し、経営幹部の座に就いている。

 皆さんは、日本の旧来の経営者に次のようなイメージをお持ちかもしれない。つまり、単刀直入な質問を受けると、歯の間から息を吸ってふんぞり返り、「お答えするのは難しい」とか「まだ検討しているところ」などと、返答をする場合が多い――(いずれも、日本語では「駄目だ」を意味する)。しかし川崎氏は、率直にはっきりと答える。意見が異なる場合でも、ごまかしたりはしない。

 同氏は2011年5月下旬に、ルネサス モバイルが本社を置く東京で、米EE Timesの独占インタビューに応じた。

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