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第8回 発振回路を評価する3つの作業〜周波数マッチング〜水晶デバイス基礎講座(1/2 ページ)

今回は、設計した発振回路をどのように評価するのか解説しましょう。これまで、発振回路を評価するには、負性抵抗や発振余裕度という指標が大切であることを、詳しく述べました。今回は、さらに発展させて、水晶振動子と発振回路のマッチング評価に取り掛かります。

» 2011年07月05日 00時00分 公開
[宮澤輝久セイコーエプソン]

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 前回(本連載の第7回)は、水晶振動子を振動させる発振回路の動作原理や特性を紹介しました。今回は、設計した発振回路をどのように評価するのか解説しましょう。これまで、発振回路を評価するには、負性抵抗や発振余裕度という指標が大切であることを、詳しく述べました。今回は、さらに発展させて、水晶振動子と発振回路のマッチング評価に取り掛かります。

 安定な発振を得るには、水晶振動子と発振回路のマッチングが重要です。水晶振動子が生み出した安定した発振は、デジタル回路のクロック源として、システム全体の動作の基準になります。従って、水晶振動子に合わせて発振回路を設計しないとシステムの安定した動作は望めません。

 マッチングがうまくとれていない回路構成では、例えば、十分な周波数の安定度が得られない、発振が止まってしまう、発振が安定しないといった問題が生じます。水晶振動子をマイコンとともに使用するときには、発振回路の評価が必要です。水晶振動子と発振回路のマッチングを確認するには最低限、以下の3つの評価作業が必須です(図1)。

図 図1 水晶振動子と発振回路のマッチングを確認する3つの評価作業

(1)発振周波数(周波数マッチング)評価:適切な周波数精度で発振しているか。

(2)発振余裕度(負性抵抗)評価:電源投入時に、短時間で安定した発振状態になるか。また、発振が持続するか。発振余裕度については、前回詳しく紹介しました。

(3)励振レベル評価:水晶振動子に過大な電流が流れ込み、不具合の原因にならないか。

 前回解説した、発振余裕度(負性抵抗)という指標の他に、発振周波数の精度や励振レベルといった指標も総合的に評価する必要があります。3つの項目、すなわち、「発振周波数の精度」、「発振余裕度」、「励振レベル」がバランスよく満たされている場合には、非常に信頼性の高い発振回路を設計できているといえます。それでは、3つの評価項目の説明と、発振回路を設計する上の押さえどころを紹介しましょう。

まず、発振周波数の精度を確認

 まず、発振周波数の精度の評価(周波数マッチング)を確認します。本連載の「第6回 水晶振動子を使うとき知っておくべきこと」では、水晶振動子を購入する際には、機器設計者の側が水晶振動子の発振周波数(FL)と、負荷容量(CL)、発振周波数の許容偏差(Δf)を指定する必要があることを述べました。上記の3つの数値を基に、水晶メーカーでは、負荷容量(CL)に合わせて、振動子を発振させながら、発振周波数や許容偏差を合わせ込みます。

 ただ、あらかじめ指定した負荷容量(CL)には、実際の基板にさまざまな要因で発生する静電容量(浮遊容量)は考慮されていないことに注意する必要があります。浮遊容量は、発振周波数の精度を劣化させてしまう要因になります。従って、浮遊容量の影響も考慮して、水晶振動子そのものの発振周波数を水晶メーカーに変えてもらうか、機器設計者の側で負荷容量を再度調整します。これが、周波数マッチングの作業の大枠です。

 それでは、評価作業に入りましょう。水晶振動子と発振回路を評価するには、当然のことながら、水晶メーカーから、基板評価に必要な値の発振周波数を持つ水晶振動子を購入する必要があります。

 特別な仕様でない限り、入手が容易な水晶メーカー指定の標準品をお勧めします。ICメーカーが推奨する品種があれば、ICメーカー指定の水晶振動子を使って評価するとよいでしょう。評価用水晶振動子を用意したら、以下の3つの仕様を確認します。

(1)標準の負荷容量値

負荷容量は、本連載の第5回に述べた通り、水晶振動子の側から発振回路を見たときの静電容量です。前述の通り、購入の際に水晶メーカーに、機器設計者の側から値を指定する必要があります。

(2)標準の負荷容量における水晶振動子の発振周波数(FL)

FLは、標準の負荷容量を持った発振回路で水晶振動子を駆動したときの発振周波数です。常温における値を使います。浮遊容量などは考慮されていません。

(3)水晶振動子の等価回路定数

等価直列抵抗(R1)や、等価直列静電容量(C1)、等価直列インダクタンス(L1)、等価並列静電容量(C0)、負荷容量を考慮しない水晶振動子そのものの発振周波数(Fr)などです。

 (2)の標準の負荷容量における水晶振動子の発振周波数(FL)と、(3)の水晶振動子の等価回路定数については、機器設計者の側で測定するか、購入する際に水晶メーカーに各データを要求する必要があります。

 水晶振動子の等価回路定数の測定には、一般的にはインピーダンス測定器やネットワークアナライザを使用します。インピーダンス測定器は、水晶振動子の測定パラメータ(共振周波数や等価パラメータなど)を正確に測定できるという利点がある一方、測定周波数の上限が40MHz程度と低い機種が一般的です。

 最近は、電子機器の高周波化に対応すべく、採用される水晶振動子の発振周波数は40MHzを超えてきます。そこで、測定周波数の上限が数十GHzと高いネットワークアナライザを使い、水晶振動子の等価回路定数を測定することが多くなっています。

 図2は、10k〜300MHzの周波数に対応したネットワークアナライザです。高分解能のRFソースと、最大4ポートの入力部を有し、能動および受動部品、回路の振幅、位相、群遅延などを測定・表示します。ネットワークアナライザに、水晶振動子測定用のπ治具(図3)を接続し、水晶振動子の特性を測定します。

図 図2 評価作業に使う計測器(10k〜300MHzの周波数に対応したネットワークアナライザ)
図 図3 水晶振動子測定用のπ治具

 このように、水晶振動子をネットワークアナライザで測定して、回路等価定数を測定することが理想的ですが、十分な機材がそろわないといった理由などで、機器設計者の側で水晶振動子の等価回路定数を測定することはなかなか困難です。そこで、使用する水晶振動子の等価回路定数のデータは、振動子を購入するときに、水晶メーカーに要求することをお勧めします。

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