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» 2011年08月15日 08時00分 UPDATE

水晶デバイス基礎講座:第10回 振動子ではなく水晶発振器という選択肢

安定した基準信号が早急に必要だ、マッチング評価は面倒……といった場合には、水晶メーカー各社が製品化している水晶発振器(水晶発振モジュール)を活用することをお勧めします。

[宮澤輝久,セイコーエプソン]

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 本連載の第7回〜第9回と複数に分けて、水晶振動子を駆動する発振回路の基本原理や特性、評価方法を解説してきました。

 水晶振動子に合わせ、発振回路をうまく設計することは大切です。水晶振動子と発振回路がマッチングしていないと、さまざまな問題が発生します。例えば、「発振しない」、「周波数がずれてしまう」、「電源電圧の変化によって周波数が大きく変化する」、「電源電圧を下げたら、発振が止まってしまった」、「周囲温度が変わったら、発振が止まってしまった」、「発振周波数が不安定」といった問題です。

 水晶振動子にはたった2つの端子しかないのに、使いこなすのは意外に難しいと感じた読者の方も多いのではないでしょうか。

 水晶振動子と発振回路のマッチングは、水晶振動子のメーカーで評価してもらえますが、これはある程度の数量の量産を前提にした場合です。試作基板の場合は、機器設計者自らが、アナログ回路である発振回路を評価し、発振余裕度や励振レベル、負荷容量を勘案しながら、回路定数を決める必要があります。

 最近の傾向として、SMD(Surface Mount Device)タイプの小型水晶振動子は、CI(クリスタルインピーダンス)値が大きくなる傾向があります。さらに、電子機器の電源電圧が低下しているのに伴って、安定した水晶発振器を設計するのは難しくなっています。これまで使っていた発振回路をそのまま使い回すだけでなく、一度見直すことも必要かもしれません。

 安定した基準信号が早急に必要だ、マッチング評価は面倒……といった場合には、水晶メーカー各社が製品化している水晶発振器(水晶発振モジュール)を活用することをお勧めします。これは、水晶振動子とそれを動作させる帰還発振回路を1つのパッケージに収めたものです。一般には、水晶振動子よりも割高ですが、水晶振動子と発振回路のマッチングを気にすることなく、所望の発振周波数を安定して得られるというメリットがあります。周波数やパッケージ寸法、周波数、電源電圧のバリエーションも豊富ですので、希望に合った水晶発振器を入手することができるでしょう。周波数の範囲は、およそ数k〜数百MHzまで用意されています。

図 表1 一般的な水晶発振器の分類

 表1は、一般的な水晶発振器を分類したものです。水晶発振器は主に、精度や機能ごとに、パッケージ水晶発振器(SPXO)と、電圧制御水晶発振器(VCXO)、温度補償型水晶発振器(TCXO)、恒温槽付水晶発振器(OCXO)に大きく分けられます。これらの水晶発振器には、さまざまな仕様があり、用途は多様です。例えば、PCやオフィス機器、各種情報端末には、パッケージ水晶発振器がよく使用されます。

 図1は、自動実装が可能なSMDタイプの水晶発振器の内部構造図です。当社(エプソントヨコム)の「SG-310シリーズ」を例に挙げました。この水晶発振器は、セラミック積層パッケージに、発振回路を作り込んだICチップと水晶振動子を実装した後、金属のふた(リッド)を溶接し、気密封止したものです。外形寸法は標準3.2mm×2.5mm×1.15mmと小型で、内部回路の動作と発振出力を停止できるスタンバイ機能を有しています。出力は、CMOSやTTLを直接駆動できる方形波。小型化と低消費電力化を進めた「S-210シリーズ」も製品化しており、そのシリーズの外形寸法は最大2.5mm×2.0mm×0.8mmです。

図 図1 自動実装が可能なSMDタイプの水晶発振器の内部構造

 最近は、機器設計者の要望に合わせたさまざまな特徴を有する水晶発振器も製品化されています。周波数範囲や周波数精度、納期といったさまざまな要望に対応するため、性能を向上させたり、機能を付与した品種です。例えば、表2に示したように、周波数をプログラム可能な品種や、EMI対策を施した品種などがあります。以下に、表2にしたそれぞれの品種の概要と特徴をまとめました。

図 表2 機器設計者の要望に合わせた特徴を有する水晶発振器の例

a)プログラマブル発振器

 一般的に、水晶振動子は、設計・試作に時間がかかり、特殊な周波数は入手するのに数カ月もの期間を要したり、入手できないことすらあります。プログラマブル発振器は、内蔵したPLL回路によって所望の周波数を作り出すことができるため、比較的短納期で製品を入手できます。ただし、回路構成上、低ジッタを要求するデータ通信機器のクロックには使えないケースがあるので注意してください。

b)スペクトラム拡散機能付き水晶発振器

 最近の電子機器では、動作時に放射する電磁波によるEMI(放射電磁雑音)を抑制することが求められます。EMIを低減するには、回路設計や基板設計をやり直すか、電磁シールドによる対症療法でしのぐかという選択になるのが一般的です。ただこれらの手法は、時間がかかる上に、必ずしも有効とは限りません。EMI対策として、当社が提案するのが、スペクトラム拡散機能付きの水晶発振器です。この発振器を利用すると、EMIレベルを下げられるため、簡単で有効な対策ができる場合があります。プラグラマブル発振器と同様に短納期で入手でき、拡散率も調整できることから、試作時のEMI評価にも適しています。

c)SAW発振器

 SAW(Surface Acoustic Wave)共振子を使用した発振器であり、高周波を直接発振させることができます。一般的なATカット型水晶振動子を使って高周波対応する場合、水晶振動子の水晶片が薄くなり、加工が難しくなります。これに対して、SAW共振子は厚みではなく、表面に形成された電極間隔で周波数が決まります。このため、フォトリソ加工することにより、容易に高周波に対応できます。さらに、オーバートーン回路や逓倍(ていばい)回路が不要であるため、低ジッタで安定した高周波を得ることができます。高周波で低ジッタのクロック源として、データ通信機器に最適です。CMOS出力の他に、差動出力(LV-PECLやLVDS)の品種もあります。

表3に、エプソントヨコムが製品化している特徴ある水晶発振器をまとめました。

図 表3 エプソントヨコムが製品化している水晶発振器の例

参考文献

日本水晶デバイス工業会技術委員会編、「小型水晶振動子利用ガイド」、1994年12月

日本水晶デバイス工業会技術委員会編、「水晶デバイスの解説と応用(第5版)」、2007年3月

吉村和昭、倉持内武、安居院猛、「図解入門 よくわかる最新 電波と周波数の基本と仕組 み」、秀和システム、2004年12月

宮澤輝久ほか、「Design Wave Magazine2007年2月号 論理回路の要 水晶発振回路の設計&実装」、CQ出版社

滝貞雄、「人工水晶とその電気的応用」、日刊工業新聞社、1974年5月

品田敏雄、「水晶発振子の理論と実際」、オーム社、1955年

岡野庄太郎、「水晶周波数制御デバイス」、新技術開発センター、1995年12月

宮澤輝久、菊池尊行、八鍬恵美、「電子材料2010年7月号 水晶MEMSジャイロセンサ」、工業調査会

宮澤輝久、「エレクトロニクス実装技術2009年1月号 弾性表面波技術を応用したGHz帯高精度SAW共振子及びSAW発振器」、技術調査会

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Profile

宮澤輝久(みやざわ てるひさ)氏

セイコーエプソン 経営戦略本部 経営企画管理部に所属。1991年にセイコーエプソンに入社。水晶デバイス事業部にて、水晶発振器の設計・開発に携わる。その後、1999年から2004年まで、同社欧州(ドイツ)現地法人に赴任し、マーケティングとビジネス開拓に従事した。帰国後、水晶デバイス事業全般の商品戦略と商品企画業務に携わる。2005年、セイコーエプソンの水晶デバイス事業部と東洋通信機が事業統合したエプソントヨコムに異動し、商品戦略部立案及び新規ビジネス開拓を推進した。2011年4月よりセイコーエプソンに出向し、将来の事業に向けた調査活動や、事業部の事業支援に携わっている。


「水晶デバイスは、振動工学や伝熱工学、流体力学、材料力学、機械要素などの機械工学や、電子回路設計などの電気工学、雑音を抑制するための電磁気学、エッチングなどの金属加工、さらに化学など、あらゆる分野の技術が組み合わされて、製品化されるものです。水晶デバイスに携わることは、世の中のあらゆる技術に触れる機会が多く、驚きと発見、勉強の毎日です」(宮澤氏)。



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