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» 2011年10月20日 09時00分 UPDATE

センシング技術:用途が広がるモーションセンサー、「プラットフォーム化」で新市場開拓へ (1/2)

センシング技術が新たな分野に広がっていることを受け、センサーを手掛ける半導体ベンダーは、「電子部品のプラットフォーム化」という新たな戦略を打ち出している。

[前川慎光,EE Times Japan]

 加速度や角速度(ジャイロ)、圧力、位置情報など、人やモノのその時々の状態を把握するセンシング技術の重要度が増している。

 スマートフォンやタブレットPCでは、これらのセンサーで収集したデータを使って、さまざまなアプリケーションを実現している。例えば、活動量を利用したヘルスケアサービスや、位置連動のサービス、ゲームアプリケーションなどである。社会全体を見渡すと、センシング技術は、さまざまなデバイスや機器が通信によってインターネットサービスと連携する「M2Mネットワーク」や、HEMS(Home Energy Management System)といった次世代の社会インフラを支える要素技術となる。

 センシング技術が新たな分野に広がっていることを背景に、センサーを手掛ける半導体ベンダーは、新たな戦略を打ち出している。それが、「電子部品のプラットフォーム化」だ。センサーだけではなく、具体的なアプリケーションを想定した参照設計や、センサーで取得したデータを処理するアプリケーションソフトウェアも組み合わせて提供する動きが出てきているのである。水晶材料を使った高精度のセンサーを続々と製品化しているセイコーエプソンと、民生機器向けのセンサーで市場シェア1位のSTマイクロエレクトロニクスの事例を取り上げ、事業戦略をまとめた。

水晶センサーの精度を引き出すには…

 セイコーエプソンは、これまで水晶材料を使った加速度センサーや角速度センサー、圧力センサーを製品化してきた(関連記事)。同社が、次のステップと位置付けるのが、「すぐに見える化」をメッセージとして打ち出したセンシングプラットフォームの提供だ。ここでいうセンシングプラットフォームとは、センサーやマイコンを搭載したモジュールと、有線または無線のインタフェース、取得したデータを処理・表示するソフトウェアを組み合わせたものである。

 同社がセンサーという個別部品以外のソフトウェアや、具体的なアプリケーションを想定したモジュールも提供する理由は、これまでセンサーを使っていなかった企業に、水晶材料の高精度センサーを採用してもらう障壁を下げることにある。センシング技術の用途は、例えば産業や建築、物流、農業、セキュリティと広がっている。こういった用途の広がりを背景に、これまでセンサーを使ってこなかったという企業でも、センサーを使ったアプリケーションや機器を開発するケースが増えているのだという。「もちろん、センサーだけ供給してもらえば十分だという大手機器メーカーもある。しかし、センサーを使ってデータを収集して活用したいが、ハードルが高いという企業も多い」(同社)。

図 多機能センシング評価ユニット「Eシリーズ」 セイコーエプソンが、センシングプラットフォームのハードウェアの第1弾として用意した評価ユニット。

 同社は、水晶材料を使うことで、シリコン(Si)材料に比べて高精度のセンサーを実現できることをアピールしてきた。ただ、高精度という特徴の反面、センサーの性能を最大限引き出すにはノウハウが必要だったという。例えば、温度や電源電圧の変化に対するセンサーの応答特性や、出力信号に含まれる雑音への理解、複数のセンサーを組み合わせて使ったときのデータの処理方法といったものだ。

 「初めてセンサーを扱う開発者にとって、評価環境の構築や、センサーの性能を引き出せるモジュールや処理ソフトウェアの設計はそう簡単ではない。当社のセンシングプラットフォームを使えば、センサーの性能を引き出すということに苦心せずに、高精度センサーのメリットを享受できるだろう」(同社)。

センシングプラットフォームの第1弾として2機種を製品化

 セイコーエプソンが、センシングプラットフォームのハードウェアの第1弾として用意したのが、多機能センシング評価ユニット「Eシリーズ」と、小型センシング評価モジュール「Mシリーズ」である。センサーの特性を評価するという用途の他、評価モジュールを参照設計として、ユーザーが量産する最終製品にほぼそのまま組み込むことも想定しており、「量産に向けて、システムが80%は準備されている状態の評価ボードである」(同社)という。

図 幾つかの用途を想定した評価ユニットに変更可能 幾つかのアクセサリボードを用意しており、これらを組み合わせることで複数の用途に適したボード構成に変えられる。

 まず、Eシリーズは、エプソントヨコムの6軸統合センサー「AH-6120LR」の他、3軸地磁気センサー、気圧センサーを統合したもの。外部とのインタフェースとして、UARTやUSB、ZigBeeを用意した。幾つかのアクセサリボードを用意しており、これらを組み合わせることで複数の用途に適したボード構成に変えられる。3軸角速度の検出範囲は±1000dps、サンプリング周波数は最大100Hz。加速度の検出範囲は±6g(gは重力加速度)、サンプリング周波数は最大100Hz、地磁気の検出範囲は0.6mT、感度は0.3μT/LSB、気圧の検出範囲は300〜1100hPa、精度は±300Paである。

 一方のMシリーズは、機能を特化した評価ボードである。現在のところ、6軸センサーのAH-6120LRを搭載した品種と、アンテナを一体化したGPSセンサーを搭載した品種の2つがある。

 今後、センサーの種類が異なる評価ボードをMシリーズに追加する。また、取得したデータを処理するソフトウェアライブラリも拡充する他、産業分野に特化したインタフェースを採用したモジュールの商品化を計画している。

sm_201110sensing_epson1.jpgsm_201110sensing_epson2.jpg 左図は、センサーから取得したデータを表示するアプリケーションソフトウェアの構成。右図は、セイコーエプソンのセンシングプラットフォームの概要。

 セイコーエプソンの開発担当者は、「クラウドコンピューティングやネットワーク構築といったIT技術が進化するにつれ、実世界の状態を把握するセンシング技術の重要度が増す。クラウドコンピューティングとセンシング技術が対となって、新たな社会基盤が形成されようとしている」と新たな市場への期待を語った。

 同社は、2009年初頭に公開した長期ビジョン「SE15」の中で、“センシング”を重点領域に位置付けた。“プリンティング”と“プロジェクション”に続く、3本柱の1つという位置付けだ。「センシングに関連した事業は、プリンティングやプロジェクションに比べるとまだ売上高は小さいが、フォトリソグラフィ技術を使った独自の水晶加工技術『QMEMS』や、半導体設計技術、実装技術、ソフトウェア開発といった自社に有する要素技術を組み合わせ、プラットフォーム化して提供する戦略で事業の拡大を目指す」(同社)。

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