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TIがマイコン事業の拡大を加速、「売上高を2013年までに倍増」ビジネスニュース 企業動向(1/2 ページ)

Texas Instrumentsがマイコン事業を拡大させている。「MSP430シリーズ」や「C2000シリーズ」、そしてARMのマイコン向けプロセッサコア「Cortex-Mシリーズ」を搭載する「Stellarisシリーズ」を含めて製品ラインアップを大幅に強化し、2013年までにマイコン事業の売上高を2010年比で倍増させる方針だ。

» 2011年11月07日 18時51分 公開
[朴尚洙,EE Times Japan]

 2011年9月末にNational Semiconductorの買収を完了するなど(参考記事1)、アナログIC事業の強化を推し進めるTexas Instruments(以下、TI)。その一方で同社は、マイコン事業についても、年間売上高を2012〜2013年までに2010年の2倍となる20億米ドルまで伸ばすという方針を明らかにした。ARMのマイコン用プロセッサコア「Cortex-Mシリーズ」を搭載する汎用マイコン「Stellarisシリーズ」を続々と投入するとともに、16ビットマイコン「MSP430シリーズ」や32ビットマイコン「C2000シリーズ」のラインアップを拡大し、組み込み機器向けマイコンの需要取り込みを急ぐ。

図1 TIのScott Roller氏 図1 TIのScott Roller氏

 TIでマイコン担当のバイスプレジデント兼ゼネラルマネージャーを務めるScott Roller氏(図1)は、「組み込み機器向けプロセッサ市場の80%はマイコンが占めている。当社がマイコン事業の成長を目指す上で、この組み込み機器向けマイコンに対する取り組みはひときわ重要になる」と語る。続けて、Roller氏は、「組み込み機器には、PCや携帯電話機のような標準が存在しない。このことは、それぞれの組み込み機器がマイコンに求める仕様は千差万別で、1種類のプロセッサコアや決まりきった周辺回路でその仕様を実現するのは難しいということを意味している。だからこそ、マイコンのプロセッサコアは1種類ではなく複数用意しなければならないし、製品ラインアップも増しておかなければ、顧客の細かな要求に対応することはできない。マイコン事業の成長を明言している以上、ポートフォリオ拡大のため積極的に投資して行く」と強調する。

 現在のTIのマイコン事業は、プロセッサコアの種別で見ると、大まかに4つの製品シリーズに分けることができる(図2)。1つ目は、20年以上前から展開してきた同社独自の16ビットプロセッサコアを搭載するMSP430シリーズである。MSP430シリーズの主な用途は、低消費電力が求められる機器だ。例えば、スマートメーターやセンサーノード、エネルギーハーベスティング(環境発電)などである。また、1米ドル以下の単価を特徴とする「バリューライン」をそろえるなど、低コストが求められる用途にも最適とする。2010年6月には、バリューライン向けに4.3米ドルと安価な開発キット「LaunchPad」も投入している。さらに、2011年5月には、業界初のFRAM(強誘電体メモリ)搭載マイコン「MSP430 FRAM」を発表した。「FRAMは、消費電力がフラッシュメモリの約1/100と小さい。低消費電力のMSP430シリーズと組み合わせるのに最適なメモリと言えよう」(Roller氏)という。

図2 TIのマイコン事業を構成する製品シリーズ 図2 TIのマイコン事業を構成する製品シリーズ 左から、「MSP430シリーズ」、「Stellarisシリーズ」、「C2000シリーズ」、「Herculesシリーズ」の順番に並んでいる。

 2つ目は、TIが圧倒的なトップシェアを持つDSPをベースに開発した32ビットプロセッサコア「C28x」を搭載する「C2000シリーズ」だ。2004年に発表した「Piccolo」を皮切りに、FPU(浮動小数点演算ユニット)を追加するなどして処理能力を高めた「Delfino」を投入し、2011年6月にはC28xとARMの「Cortex-M3」を搭載する「Concerto」を発表(参考記事2)するなど製品ラインアップを拡大している。主な用途は、モーター、ポンプ、電源、LED照明など、複雑なデジタル処理をリアルタイムで制御する必要がある機器である。Roller氏は、「C2000シリーズは、モーターや電力変換などで複雑な処理を行う再生エネルギー機器にも適している」と述べる。

 3つ目は、ARMのCortex-Mシリーズを搭載するStellarisシリーズである。Stellarisシリーズは、同シリーズを開発していたLuminary Microを2009年5月に買収したことにより、TIのマイコン事業に加わった製品である。Roller氏は、「ここ数年の間に競合他社もCortex-Mシリーズを搭載するマイコンを市場投入している。このように複数の企業が同じプロセッサコアを搭載するマイコンを製品化する流れは、Intelが『8051』を発表した時以来になる。そして、Cortex-Mシリーズも、8051と同様に市場に広く浸透することになるだろう」と主張する。2011年9月には、これまでのCortex-M3を搭載する製品群に加えて、Cortex-Mシリーズの最新プロダクトである「Cortex-M4F」を搭載する「Stellaris Cortex-M4F」を発表している(参考記事3)。なお、低コスト/低消費電力を特徴とするCortex-Mシリーズのプロセッサコア「Cortex-M0」については、「現時点では採用しない方針」(同氏)である。

 4つ目となるのが、ARMのリアルタイム処理が必要なマイコン向けのプロセッサコア「Cortex-Rシリーズ」を搭載する「Hercules(ヘラクレス)シリーズ」である。Herculesシリーズは「Cortex-R4F」を2個搭載している。これら2個のコアが互いの動作を監視するロックステップ動作によって、機能安全規格(一般産業用機器向けのIEC 61508、自動車向けのISO 26262)に対応できることを特徴としている。

 2010年時点において、各製品シリーズがマイコン事業の売上高に占める比率は、MSP430シリーズが約50%、C2000シリーズが25%、StellarisシリーズとHerculesシリーズで構成されるARMマイコンが25%となっている。Roller氏は、「2013年までにマイコン事業の売上高を倍増したときも、MSP430シリーズ、C2000シリーズ、ARMマイコンが売上高に占める比率は現在とほぼ同じになると想定している。ただし、ARMマイコンについては、現時点ではその90%をHerculesシリーズが占めているが、2013年までにはStellarisシリーズが50%を占めるようになるだろう」と見ている。つまり、2010年時点のStellarisシリーズの売上高は1000万米ドル程度に過ぎないものの、2013年までには2億5000万米ドルまで成長するというわけだ。

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