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電子機器の要「タイミングデバイス市場」に今何が起こっているのか?電子部品 タイミングデバイス(1/2 ページ)

いつが、その変化の“タイミング”なのか――。今から起こることを予測するのは難しいが、後に過去を振り返ればあのときが変曲点だったのだと気付くことは多い。タイミングデバイス市場の歴史を後々振り返れば、まさに今が変化のスタート地点なのかもしれない。

» 2011年11月22日 08時00分 公開
[前川慎光,EE Times Japan]

 どのような電子機器にも少なくとも1つは搭載され、機器の正確な動作を支える陰の立て役者、タイミングデバイス――。安定した市場、そのように見られていたタイミングデバイス市場が騒がしい。この市場は古くから、水晶を材料とするタイミングデバイスの独壇場だった。ところが、その“常識”が少しずつ変わりつつある。タイミングデバイスをめぐる、新たな動きをリポートしよう。

タイミング業界をめぐる2つの変化

 図1に、電子機器の一例としてAppleのスマートフォン「iPhone 4」のプリント基板を示した。基板の両面には、役割の異なる合計6個ものタイミングデバイスが実装されている。特定の周波数を安定的に生成する「振動子」や、振動子とそれを駆動する発振回路を1つのパッケージに収めた「発振器」がある。前述の通り、何十年もの間、水晶を使ったタイミングデバイスである水晶振動子や水晶発振器が、さまざまな機器の基準信号源として広く使われてきた。

図 図1 Appleのスマートフォン「iPhone 4」のプリント基板に実装されたタイミングデバイス プリント基板の両面に、「音叉型水晶振動子」や「温度補償型水晶発振器」、「水晶振動子」といった、用途が異なる多様な水晶のタイミングデバイスが実装してある。写真提供:フォーマルハウトテクノソリューションズ

 今からさかのぼること5年前の2006年にこの市場に参入したのが、SiTimes(サイタイム)やDiscera(ディセラ)といった新興企業である(SiTimesの市場参入のニュース記事Disceraのニュース記事)。これらの企業は、シリコン(Si)材料をMEMS(Micro-Electro Mechanical Systems)技術で振動子を作り込む独自技術を有する。その技術を駆使して、水晶振動子の置き換えを狙った「MEMS振動子」や、水晶発振器の置き換えを狙った「MEMS発振器」を製品化してきた(MEMS発振器の特徴を紹介した関連記事)。水晶振動子は水晶を加工した振動片が規則的に振動するのに対し、MEMS振動子は特定の共振周波数を有するSiの振動片を使う。

 これまでは、新たなタイミングデバイスであるMEMS発振子やMEMS発振器が市場全体に与える影響は限定的だと見る向きがほとんどだった。しかし、2010年後半からそうも言えない状況になってきた。その理由は2つある。まず1つは、タイミングデバイス市場の売上高のおよそ半分を占める振動子の製品ジャンルにも攻勢を掛けていること。もう1つは、水晶デバイスの高精度品に匹敵する周波数精度を有するMEMS発振器が製品化されたことである(関連記事)。

 SiTimeによれば、タイミングデバイス市場全体の市場規模は、47億米ドルに達する。この市場を分解すると、振動子単体の市場がおよそ15億米ドル、発振器の市場は18億米ドル、発振器の周波数を高めたり、出力系統数を増やしたりするクロックジェネレータIC(PLLシンセサイザIC)などが残りを占める。これまで、Si材料を使ったタイミングデバイスを手掛ける半導体ベンダーが注力していたのはMEMS発振器だったが、ここ最近、市場規模が大きいMEMS振動子の製品領域も強化する姿勢を鮮明にしているのだ。

図 SiTimeは、ICやLSIに内蔵して使うMEMS振動子のベアチップを半導体ベンダーに提供している

 具体的には、SiTimeが、2010年11月にリアルタイムクロック向けのMEMS振動子「SiT1052」を発表し、振動子市場に参入することを表明した。新たに開発した基本周波数が524kHzの振動子を使い、この基本周波数を1/16に分周することで、32.768kHzのリアルタイムクロックを得る。発振周波数が32kHzの音叉型水晶振動子の置き換えを狙う。

 このMEMS振動子が水晶振動子と大きく異なるのは、導入先が機器メーカーではなく、半導体ベンダーであることだ。SiTimeは、良品を保証したベアチップ(KGD:Known Good Die)の形態でMEMS発振子を出荷するとともに、駆動回路や温度補償回路、リアルタイムクロック出力回路などをIPコアとして提供する。半導体ベンダーは、購入したベアチップを自社のICチップとともに単一のパッケージに内蔵し、機器メーカーに提供する。「MEMS振動子は、セラミックパッケージが必要な水晶振動子とは異なり、ICに一般的に使われているプラスチックパッケージに内蔵できる。これまで必要だった水晶振動子の外付けは不要になり、この部分の配線作業や、回路整合を取る手間が省ける。このメリットは大きいはずだ」(同社)。

 「振動子市場への売り込みはまだスタートしたばかりで顧客はまだ少ないものの、既に5〜6社の半導体ベンダーと契約済みだ」(同社)という。なお、SiTimeのMEMS振動子かどうかは公表していないものの、Maxim Integrated Productsは、業界で初めてMEMS振動子を内蔵したリアルタイムクロックIC「DS3231M」を、2010年10月に発表済みである(「DS3231M」の製品紹介ページ)。

 現在、SiTimeが半導体ベンダーに提供しているのは前述の通り、発振周波数が32kHzの音叉型水晶振動子の置き換えを狙ったリアルタイムクロック向けのMEMS振動子である。発振周波数がMHz帯の「ATカット型水晶振動子」の置き換えが可能なMEMS振動子も、技術的には可能だという(ATカット型水晶振動子についての解説ページ)。

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