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電子書籍の次なる市場を掘り起こせ、産業/物流向け電子ペーパーの開発進むディスプレイ技術 電子ペーパー(1/4 ページ)

電子ペーパーの主な市場は、電子書籍リーダーである。ただ、その現在の市場は、水面にわずかに見える“氷山の一角”なのかもしれない。小売業や物流、製造、広告といった大きな可能性を秘めた新市場に向けた電子ペーパーの製品開発が進んでいる。

» 2011年11月29日 10時00分 公開
[前川慎光,EE Times Japan]

 Amazonの「Kindle」やソニーの「Reader」、Barnes&Nobleの「NOOK」――。機器メーカーや書店業、サービス事業者といったさまざまな業種の企業を巻き込み、電子書籍の市場が盛り上がりを見せている。電子書籍リーダーの新機種の発表や、企業間の提携、新サービスの発表と、話題には事欠かない。最近では、Amazonやソニーが電子書籍リーダーの新機種を相次いで発表した他、楽天が電子書籍端末およびコンテンツの販売を手掛けるカナダのKoboを3億1500万ドルで買収したニュースが記憶に新しい(関連記事)。

 電子書籍リーダーの多くの機種で使われているのが、「電子ペーパー」と呼ぶ表示デバイスである(図1)。現在のところ、電子ペーパーの主な市場は電子書籍リーダーだ。ただ、現在の電子書籍リーダーという市場は、水面にわずかに見えている“氷山の一角”なのかもしれない。小売業や物流、製造、広告といった新市場を狙った電子ペーパーの製品開発が着々と進んでいる。解像度を高めたり、コントラスト比を向上させたりといったディスプレイの改善だけではない、新たな開発のトレンドをリポートする。

図 図1 さまざまな企業が電子ペーパーを使った電子書籍リーダーを製品化している 写真は、2011年10月に開催された「FPD International 2011」でE-Ink Holdingsのブースに展示されたもの。

視認性が高く、表示の保持に電力不要

 電子ペーパーの特徴はその名が示す通り、紙の性質と電気的な性質を兼ね備えた表示デバイスであることだ。他の表示デバイスに比べると、紙のように視認性が高く、屋外でも文字を読み取りやすい。薄型で携帯性に優れ、折り曲げられるフレキシブル性を持った電子ペーパーの開発も進んでいる。電気的な表示デバイスであるため一般的な紙と異なり、表示内容を書き換えることも可能だ。書き換え時には電力を消費するが、文字を表示しているときには電力を消費しないことも大きな特徴である。

 このような特徴を生み出しているのが、独特の表示手法である。例えば、業界大手のE-Ink Holdingsが採用する「電気泳動方式」では、白色と黒色の画素となる帯電粒子を液体に納めたマイクロカプセルを用意し、これを幾つも並べることで文字を描画する。微小な電極によって外部から電圧を印加することで、帯電粒子の動きを制御し、白または黒を表示する仕組みである。反射型の表示デバイスであるため屋外でも文字を読み取りやすく、液晶ディスプレイに不可欠なバックライトが不要であるため、薄型化できる。これまで、白色と黒色の粒子が液体中を移動するため、表示の応答性に難があることが指摘されていたが、最近では応答性を高めた品種も開発されている(関連記事)。

 前述の通り、電子ペーパーの市場はほぼ電子書籍リーダーが占めているが、書き換えが可能で、表示の保持に電力を消費しないという特徴が生きる用途は多い。RFID(無線ICタグ)技術と電子ペーパーを組み合わせた電子タグ/電子値札向けの表示デバイスや、製造現場や建築現場で使うことを想定した電子ペーパーモジュール、教育用途を狙った電子ペーパーといった多様な品種の開発が進んでいる。

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