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» 2012年02月10日 10時10分 UPDATE

エンジニアのための市場調査入門(3):高機能化とコモディティ化への流れ、戦略をどう立てるか? (1/2)

マテリアル(材料)やエレクトロニクス分野の場合、多くは「高機能化」が勝負どころになる一方で、市場が成熟化することで、高機能品もいつしかコモディティになる日がやってきます。現代の市場はこれまでになく細分化、多層化しているため、1つの視点、1つの軸だけから市場を判断すべきではありません。

[田村一雄 ,矢野経済研究所]

「エンジニアのための市場調査入門」連載一覧

 前回と今回の2回に分け、エレクトロニクス分野の話題を例に、市場調査の基本となる考え方を解説します。前回は、市場全体を立方体に見立て、X軸は分野(自動車、エレクトロニクス、機械……)、Y軸は地域、Z軸は原料(川上)から製品(川下)までの流れをまとめる「3Dリサーチ」や、さまざまな視点で市場を細分化することの必要性などを紹介しました。

 本連載の第3回となる今回は、液晶ディスプレイに不可欠なLCD偏光板を例に、市場の捉え方や業界の動きを紹介します。次回以降は、実際に市場調査を進めるために参考となる各工程の手法や内容に話題を移す予定です。(EE Times Japan 編集部

事業化を判断するときの落とし穴

 事業化を判断する立場の者にとって落とし穴になりがちなのは、「ニーズがある」という開発担当者、または調査(リサーチ)担当者の言葉である。この言葉が担当者の口から出たとき、上司は「ニーズ」の濃淡やボリューム感を見極める必要がある。

 例えば、当社が制作・販売している自社企画のリポート(MR:Market Report)もそうだ。担当者がこのテーマはニーズがある(売れる)と言う。そりゃあ確かにそういうリポートを欲しいと思う人はいるかもしれない。しかし、欲しいと思っている人がどれだけいるのか、どれだけ強く思っているのかが重要だ。

 欲しいと思っている人が多い場合と少ない場合では、価格設定を変える必要がある。欲しいという強い思いがあれば、ある程度の高価格設定は受け入れられる。しかし、高過ぎると商売にならない。調査担当者および投資を判断する人は、「欲しい」と思う人のその分野への情熱、予算の範囲、お金を出す優先順位、決定権などの要因を見極める必要がある。自分のことに置き換えてみても分かるはずだ。こういうところを改善してくれればいいのに、こんなモノがあったらいいのに、とは考える。そして言ってはみる。しかし、そうしたものが出てきても、実際にお金を払って買うかどうかは別問題ということが多いではないか。

 「モノができた→リサーチを行った→ニーズはありそうだ」、となればユーザーのサイフを開かせるような仕掛けや仕組みを構築することだ。広告、宣伝、広報、販売促進、営業など広い意味での「マーケティング」が重要になってくる。

市場は多面的に理解した上で評価しよう

 マテリアル(材料)やエレクトロニクス分野の場合、多くは「高機能化」が勝負どころになり、先のような議論は既存製品よりも高機能化した新製品が開発された場合になされると想定される。一方、市場が成熟化することで、高機能品もいつしかコモディティになる日がやってくる。しかしながら、現代の市場はこれまでになく細分化、多層化している。従って、1つの視点、1つの軸だけから市場を判断すべきではない。個々の企業の戦略は、市場を多面的に理解した上で評価する必要がある。高機能製品とコモディティ製品では、マーケティングやソリューションも変わってくる(図1)。筆者が関わった「液晶ディスプレイ(LCD)偏光板」の分野には、この観点で非常に典型的な事例があったので紹介しよう。

図 図1 偏光板の主要アプリケーション例 付加価値(粗利)と生産量の関係

 LCD偏光板は、各種の光学特性および積層されるフィルムそれぞれに欠点が無いことが求められ、「延伸」、「染色」、「コーティング」、「ラミネート」、「カッティング」といったコンバーティング技術の粋を集めたような高機能フィルムである。このため2001年には、日本メーカー4社で全世界の80%弱の市場シェア(生産能力ベース、矢野経済研究所推計。以下同様)を占めていた。しかしながら2005年には50%弱まで低下、さらに2006〜2007年頃にパネルメーカー系列の韓国および台湾メーカーが参入し、2012年以降は中国メーカーもTFT(Thin Film Transistor)向けの本格生産に乗り出すといった状況だ(表1)。

 こうした状況から筆者は2008年に発行したリポートで、「偏光板はスーパーコモディティの時代に突入する」とした。実際に2010年以降、偏光板メーカーの競争の軸は「モノづくり」から「仕組みづくり」に移っている。

図 表1 偏光板メーカー別の主要アプリケーション

 詳しく説明しよう。日東電工および住友化学の市場トップ2社は、韓国Samsung Electronics(サムスン電子)の他、国内外の上位パネルメーカーの工場において、後加工を開始している。ここで言う後加工とは、ロールツーパネル(Roll to Panel)設備の設置とオペレーションおよび検品のこと。これまで例えば日東電工だと、偏光板の生産工程のうち、PVA(ポリビニルアルコール)の染色・延伸や、TAC(トリアセチルセルロース)フィルムとの貼り合わせ、位相差フィルムの貼り合わせといった前工程を国内生産し、カッティングや検品といった後工程は現地生産を行ってきた(住友化学は、後工程だけではなく前工程も韓国、台湾に設置)。

 今回のロールツーパネル工程がこれまでと大きく異なるのは、パネルメーカーの工場内に入り、パネルとの貼り合わせまで偏光板メーカーが行っている点である。日東電工がサムスン電子の湯井(タンジョン)工場でロールツーパネルを開始したのは2010年春。これ以前、韓国の京畿道平澤市の日東オプティカル(KORENO)に1台のロールツーパネル設備を設置し、サムスン電子からモジュールの供給を受け試験生産を行ってきた。技術面とコスト面で一定の成果が出たため、湯井工場に1ラインを導入、その後2ラインを追加したとみられる。

 ロールツーパネルの製造プロセスは、まずロールで搬入された偏光板を所定の幅にスリットする。その後、VAモードの場合、偏光板はモジュールに0度と90度で貼られるので、モジュールを90度回転させる必要がある。この辺りに日東電工の重要な特許があるとされる。住友化学は、この特許をくぐってか、パネルメーカーに対して同様のことを始めた。

 一方、日東電工と住友化学は、高性能スマートフォンおよびタブレットPC向けでも激しい競争を繰り広げている。Appleの「初代iPhone」から「iPhone3G」まで住友化学が偏光板を独占供給、「iPhone4」で日東電工も参入した。タブレットPCの「iPad」については当初、韓国LG化学(LGC)と住友化学が市場シェアを取り、iPad2では初期段階で日東電工が供給、後に住友化学が再び参入している。詳細は割愛するが、これらの位相差フィルムには最先端の高機能フィルムが採用されている。

 以上の日東電工および住友化学の事例から何が分かるだろうか。高機能製品とコモディティ製品では、マーケティングやソリューションも変わってくると先に述べた戦略がうまく展開されている。つまり、コモディティ分野では製造設備の稼働率を維持あるいはアップするために量を確保、そのための仕組みづくりで顧客企業のソリューションに貢献し、一方で最先端分野に最先端の材料と技術を投入することで収益を確保する。見事な戦略ではないか。

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