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「超」高速無線LANがやってくる、IEEE802.11ac/adが変えるモバイルの世界(技術編)無線通信技術 Wi-Fi(3/4 ページ)

» 2012年03月16日 19時08分 公開
[前川慎光,EE Times Japan]

いかにMU-MIMOを実装するか?

 NTT未来ねっと研究所は、無線通信のコア技術の1つとして、かねてからMU-MIMOに着目し、開発を進めてきた(図5図6)。同研究所ではビームフォーミングを実現するのに、各端末のチャネル推定情報から、空間の伝達関数を求め、その逆行列を送信信号に乗算して送信する「ゼロフォーシング」と呼ぶ手法を採用した。

 イメージとしては、数m離れた距離にある屋外の小さな箱に、紙飛行機を飛ばして入れようとするときに似ている。狙った小さな箱に紙飛行機を入れるには、空間の風向きや風速などをきちんと考慮して、飛ばす必要がある。無線通信の場合も同じだ。狙った端末にデータを送り届けるには、電波が空間でどのような影響を受けるか(これが、空間の伝達関数)を正確に把握し、それに基づいて電波を送る必要がある。

図 図5 NTT未来ねっと研究所が業界で初めて実証したMU-MIMOの通信システム データ伝送速度が1Gビット/秒を超えるリアルタイム伝送を実証した。最大6つの端末に対応している。(クリックで拡大)

 一般に、空間の伝達関数行列は未知なので、電波を端末に送る前段階に何らかの手法で推定する必要がある。このとき必要になるのが、各端末から送信側に送るチャネル推定情報である。先の紙飛行機を例にするなら、本物の紙飛行機を投げる前に、練習のためにダミーを試しに投げてみることに似ている。送信側からデータを送る前に、既知のトレーニング信号を送信側から端末に送り、空間で電波が影響される具合を推定するための基礎情報(これが、チャネル推定情報)を端末で算出する。

 以上のようなMU-MIMO処理を機器に実装するときに重要なのが、親機が端末からチャネル推定情報を受け取って、親機側で送信ビームを形成する際の処理スピードだ。同研究所では、MU-MIMOのリアルタイム処理を実現するために、2つの新技術を開発した。1つは、送信ビーム形成を効率的に行う独自の信号処理アルゴリズム。もう1つは、チャネル推定情報を端末から親機に送るときの圧縮技術である。基準値との差分情報のみを送る圧縮技術を考案することで、通信のオーバーヘッド時間を短縮した。

図6 写真左は業界初のMU-MIMOの通信システムを開発した、NTT未来ねっと研究所のワイヤレスシステムイノベーション研究部の主幹研究員である市川武男氏(左)と、同研究部 電波システム技術研究グループの主任研究員である浅井裕介氏。写真右は、3つの端末にMU-MIMOで信号を伝送している実証実験の様子(クリックで拡大)

 2010年5月には、開発した高精度のビームフォーミング技術を使い、業界で初めてMU-MIMO処理によって大容量データをリアルタイム伝送することに成功したと発表した。最大6台の端末それぞれのアンテナ数に応じた最適な状態で同時に通信し、合計で最大1.62Gビット/秒のデータ伝送速度を実現した。同研究所は、IEEE 802.11acの作業部会においてもMU-MIMOの導入に向けた作業を主導し、規格への採用に貢献した。

 MU-MIMOは、無線LANのみならず、携帯電話通信(セルラー通信)にも有効な無線処理技術である。最先端の技術がいち早く導入される無線LANでMU-MIMOが実用化された後、LTE-Advancedといった次世代のセルラー通信にもMU-MIMOが採用される見通しだ(関連記事下り1Gビット/秒目指す「LTE-Advanced」、ドコモが実験装置と実証成果を披露)。

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