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世界を包む電子の神経網 ―― “モノのインターネット”が秘める可能性無線通信技術 M2M(1/4 ページ)

各種センサー端末から家電、インフラ機器まで、あらゆるモノに通信機能を組み込んでネットワーク化する、いわゆる“モノのインターネット”は、この地球に張り巡らされるエレクトロニクスの神経網だ。そこで捉えた膨大な情報から価値のある情報を抽出すれば、人類にとってさまざまな課題を解決する有力な手段になるだろう。

» 2012年05月14日 09時33分 公開
[R. Colin Johnson,EE Times]

 IPアドレスの枯渇問題が深刻化したのはそれほど昔のことではない。しかし今ではもう、IP(インターネットプロトコル)の次世代版「IPv6」が普及しつつある。これにより、インターネットのアドレス空間は「事実上無限大」と言えるほどに拡大する。無数の機器にIPアドレスを割り当て、それらの機器同士がM2M(Machine to Machine)通信で直接データをやりとりする「モノのインターネット(IoT:Internet of Things)」の世界が実現に近づく。

 そして今、モノのインターネットの課題は、新たな局面に差し掛かっている。すなわち、ネットワークにつながる無数のデバイスがクラウドコンピューティング環境に送り込む膨大なデータから、我々にとって価値のある情報をいかに抽出するか。ただ、これは課題であると同時に、人類にとって大いなる機会でもある。モノのインターネットから取り出した情報を生かせば、今日の社会が抱える問題を解決したり、現時点では見えていない明日のニーズを予測したりするアプリケーションを作り出せるかもしれない(図1)。

図1 図1 社会が抱える問題の解決手段に エネルギー/水資源管理ソリューションのベンダーである米国のItronは、電力会社がピーク需要を低減したり、住宅オーナーがエネルギーの浪費を防いだりするのを支援するZigBeeネットワークを構築した。出典:Itron (クリックで画像を拡大)

何兆個ものセンサーで森羅万象を把握

 IPv6の普及が始まる以前のインターネットでは、現在Googleでチーフインターネットエバンジェリストを務めるVint Cerf氏が1977年に米国の国防総省で開発した32ビットのアドレスシステムが主流で使われており、IPアドレスは最大42億個までしか利用できなかった。人間同士の通信が支配的だった時代は、これでも事足りた。

 しかしインターネットを介したM2M接続の比率が高まり始めた今、128ビット方式のIPv6への移行はそのトレンドを大きく後押しする要素になっている。IPv6では、1800京(1800億の1億倍)ものホストが可能になり、300澗(かん、1036、1兆の1兆倍の1兆倍)を超えるデバイスを収容できるようになる。

 今では、この無限とも言える広大なアドレス空間に加えて、インターネット上で暗号通信を行うための規格「IPsec(Internet Protocol Security)」も標準化されており、膨大な数のクラウド対応デバイスをネットワークに接続できる環境が整いつつある。IBMは2011年の時点で、そうしたクラウド対応デバイスが「2015年には1兆個を超えるだろう」と予測していたが、それら全てを容易に収容することが現実的になっている。

 IBMは「Smarter Planet」と呼ぶ取り組みを展開しており、その中でモノのインターネットの最終形態を次のように予想している。それは、地球というこの惑星に張り巡らされるエレクトロニクスの神経網だ――。何兆個ものセンサーノードが、人々が興味の対象とする森羅万象をモニタリングする。その結果として得られるE(エクサ、1018、百京)バイト規模のデータがクラウドベースのスーパーコンピュークラスタに流れ込む。そして、そのクラスタが人間の「心」をモデル化した解析ソフトウェアを使って、膨大なデータから人類にとって有益な価値ある情報を抽出する。

 IBMのスーパーコンピュータ「Watson」のエピソードはまだ記憶に新しい。2011年2月に米国のクイズ番組「Jeopardy!(ジョパディ!)」で人間のチャンピオンと対決し、勝利を収めたのである。そのWatsonの人工知能が、全地球規模で展開される――。そんなイメージを浮かべてみてほしい。

 IBMのフェローであり、IBM Researchでイノベーション担当バイスプレジデントを務めるBernie Meyerson氏は、次のように指摘する。「モノのインターネットの出現は、データの洪水を引き起こす。その結果、いわゆる“ビッグデータ”と呼ばれる巨大なデータ群が生まれる。そのビッグデータを収集し、フィルタリングや順位付けを施したり、分析したりするには、最先端のITが必要不可欠だ」。

 さらに同氏は、「当社がSmarter Planetのコンセプトを掲げて取り組むヘルスケアや交通/輸送、エネルギーなどの分野において、ビッグデータを解析する能力を駆使すれば、全人類にメリットをもたらすような新しい識見と最適化への道筋を切り開くことができる」と続ける。

 人類の過去の技術革命を振り返ると、それらがいずれも、時宜を得たイノベーションに基づいていたことに気付く。例えば蒸気機関の発明は、産業革命を加速させた。しかし、モノのインターネットは、決して革新的な技術に基づいているわけではない。それよりも、既に確立されたデバイスを小型化あるいは超小型化して活用することが主眼になる。

 ただ、エンジニアリングの観点で見れば、モノのインターネットの世界を広げていくためのハードルは今なお高い。セキュリティや標準化、ネットワーク統合、超低消費電力デバイス、エネルギーハーベスティング……。幾つもの課題がある。そしてたぶん最も重要になるのは、この地球に張り巡らされつつあるエレクトロニクスの神経網の本質が人類の利益であると誰もが安心できるような、ネットワークへの信頼性を形作ることである。

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