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» 2012年06月01日 10時00分 UPDATE

EETweets 岡村淳一のハイテクベンチャー七転八起(9):技術を見極める目を鍛えるには? 〜書を捨て町に飛び出よう〜

現代のエンジニアリングに求められているのは、既存の技術を上手に組み合わせて、その時代の要求に適合した商品を提案することです。それには、商品や人々の利用環境への好奇心と想像力が必要なのではないかと感じています。技術の先導役を目指すなら、時には(専門)書を捨て、町(現場)に飛び出しましょう!!

[岡村淳一,Trigence Semiconductor]

@trigence」のつぶやきを出発点に、企業経営のあれこれや、エレクトロニクス業界に思うこと、若い技術者へのメッセージを連載中!!→「EETweets」一覧

 皆さん、こんにちは。今回のテーマは「技術を見極める目を鍛えるには?」です。会社や組織の技術開発を方向づける先導の役割を担うことは、エンジニアが目指すべき最終キャリアではないでしょうか。将来必要となるであろう技術アイテムを抽出し、数々の競合技術の中から、開発コストや困難度、既存技術との整合性などを考慮しながら、適切な開発目標を設定することは、将来の会社の生死を分けるやもしれぬ、重要な仕事ですよね。

 先導役には、技術を見極める力が不可欠です。エンジニアリング(=工学)とは究極の真理を求める学問ではなく、時代や環境に応じて、最適な解決策を見つける作業です。ですから、技術を多面的に捉えること、市場や技術環境、そしてシステムからの要求を幅広く理解する力が求められます。

図 写真はイメージです

 小生が前職で技術部長を担当していた時の対象技術である、「液晶ディスプレイのタイミング制御LSIと画像プロセッサLSIの間のデジタル画像伝送」という技術分野に注目してみましょう。最初のアプローチは、CMOSレベルのデジタル信号をパラレルに伝送するというシンプルな解決策です。もし、新たな技術課題が生まれなければ、デジタル画像伝送の技術の進化はそこで止まっていたはずです。

 ところが、液晶ディスプレイの高画質化への要望が増し、必要とされる伝送速度は飛躍的に高まりました。例えば、必要な画素数や色数が増え、電磁雑音(EMI)に対する要求は厳しくなります。さらに、ディスプレイ部を折り畳むノートPCや携帯電話機が生まれ、ヒンジの間に信号線を通す必要が生まれます。

優れたビジネスパーソンに共通して言えることは、新技術を多面的に捉えようとするところだ。複数の専門家との会話を通じて、新技術の価値を評価しようとする姿勢だね。時に、評価の曖昧(あいまい)化に利用されるこの多面的な手法は、ビジネス金脈を探るふるいの役目にもなり得る。要は、手法より使い手だということ。


 何が変わったでしょうか。データの伝送速度が高まることで、より一層厳しくなるEMI強度を下げるために信号振幅を抑える必要に迫られました。狭いヒンジスペースに信号を通すには信号線数をさらに減らす必要があります。デジタル画像伝送の利用環境やシステム要求が変化することで、パラレル伝送方式の淘汰(とうた)に向けた力が高まり、その一方でシリアル伝送(SerDes)方式の進化を促す力が強まったのです。

 しかし一言にシリアル伝送技術と言っても、システムやLSIへの実装の手法は多種多様です。PLL技術やDLL技術、変調や復調の方式、「プリエンファシス」や「ディシジョン・フィードバック」、「多値伝送」、「クロック抽出技術」など、さまざまな要素技術があります。もちろん、400Mビット/秒というデータ伝送性能を達成するための実装手法と、1Gビット/秒の性能を満たすための実装、さらに3Gビット/秒や6Gビット/秒を満たす実装手法は大きく異なります。

下手にエンジニア力があると自らの知識で提案された技術を見極めようとしてしまう。陥り易いのは欠点を見つけようとしたり、矮小(わいしょう)化して既存の技術との違いを比較したり、自分の知識の多さを知らず知らずのうちに顕示してしまいがちだ。結果、多面的に捉えるべき新技術の真価を気付かずに終わる。


 「大は小を兼ねる」ということわざがあります。伝送速度が高ければ、それより低い方には対応できるわけですが、「なるべく伝送速度が高い技術を開発すれば良い」というものではありません。回路規模や消費電力、実装に必要なプロセス技術の難易度、コード変調方式の複雑さ、プロトコルやスクランブルのオーバーヘッドなど、さまざまな項目がトレードオフ関係にあります。これらの数々のトレードオフや設計仕様と求められる伝送速度のちょうど良いバランスを取らねば、競合他社との競争には負けてしまいます。

 技術開発の先導役には、まさに適切な開発目標を定めることが求められます。それには、上の例で言うとシリアル伝送に関係した広範な技術を理解するだけではなく、液晶ディスプレイを必要とする最終製品に対する理解、顧客が求める商品の進化の方向性や多様性への想像力、必要なプロセス技術との親和性、コスト感覚など、机にしがみついているだけでは決して得られない現場での情報収集が必須です。

エンジニアなら、目の前の結果をただ咀嚼(そしゃく)するだけではなく、切り口を変えて別の視点で実験して、自分が扱っている素材の可能性を追求するだろう。ビジネス起業もそれに同じ。漫然と営業するのではなく、顧客の反応を見つつ切り口を変えてプレゼンすること、開発ベクトルを修正することも必要だ。


 今回は特別に、技術の真贋(しんがん)を見極める際の小生のポイントをご紹介します。まず「ユニークであること」。日本語で言えば、独創的とか個性的といった特徴も重要ですが、どこか「面白い」と思わせる特徴があること。そういう技術を個人的には「ユニーク」だと定義しています。そして、「今まで見落としていた価値を生むこと」。「言われてみればそうだよね」というコメントが自然に出てきそうなもの。つまり、意外性がありながらも納得性がある技術ですよね。真贋を見極めると言っているのは、決して偽物を糾弾することではありません、イノベーションにつながる前向きな技術を見極めよう!、ということです。当社が手掛けているデジタルスピーカー技術(Dnote)は、この2つの特徴を備えていると信じて開発を進めています。

エンジニアにとって、技術は我が子も同然だ。育てるのは楽しい。でもいつまでも子どもが親に依存してはならないのと同じように、技術がビジネスとなり、お金を稼いでくれることが、本来の子育ての目的だ。子育て自体に執着せずに、目標をしっかり見極めて、時に厳しく、一人立ちを手助けすることも必要だよね。


 「言うは易し」。高度に専門化した現在のエンジニアリング社会において、多様な技術の全てを理解し、先導役になることは難しいと考えるかもしれません。小生からの提案は、自分が専門とする技術分野を足掛かりとして、さまざまなシステム要求を理解する努力を重ねてみることです。優秀なエンジニアが陥りがちな、単眼的な発想は捨てて、複眼的な発想で技術課題に取り組むことが、自らの発想を広げ、技術の先導役に必要なスキルや知識を増やしてくれると、小生は信じています。

 一見複雑な技術も、かみ砕いて理解してみると、ほとんどは既存の技術の組み合わせでできています。現代のエンジニアリングに求められているのは、既存の技術を上手に組み合わせて、その時代の要求に適合した商品を提案することです。それには、個別技術への深い造詣も必要ですが、それ以上に、商品や人々の利用環境への好奇心と想像力が必要なのではないかと感じています。先導役を目指すなら、時には(専門)書を捨て、町(現場)に飛び出しましょう!!


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Profile

岡村淳一(おかむら じゅんいち)

1986年に大手電機メーカーに入社し、半導体研究所に配属。CMOS・DRAMが 黎明(れいめい)期のデバイス開発に携わる。1996年よりDDR DRAM の開発チーム責任者として米国IBM(バーリントン)に駐在。駐在中は、「IBMで短パンとサンダルで仕事をする初めての日本人」という名誉もいただいた。1999年に帰国し、DRAM 混載開発チームの所属となるが、縁あってスタートアップ期のザインエレクトロニクスに転職。高速シリアルインタフェース関連の開発とファブレス半導体企業の立ち上げを経験する。1999年にシニアエンジニア、2002年に第一ビジネスユニット長の役職に就く。

2006年に、エンジニア仲間3人で、Trigence Semiconductorを設立。2007年にザインエレクトロニクスを退社した。現在、Trigence Semiconductorの専従役員兼、庶務、会計、開発担当、広報営業として活動中。2011年にはシリコンバレーに子会社であるDnoteを設立した。



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