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2012〜13年は目が離せない!! 新たな社会インフラ導入へ無線技術の準備整う無線通信技術 スマートメーター(3/7 ページ)

» 2012年07月02日 14時30分 公開
[前川慎光EE Times Japan]

注目集める新規格「IEEE 802.15.4g」

 現在、屋外(スマートユーティリティネットワーク)系を対象にした無線通信規格として広く注目されているのが、2012年4月に正式に発効したばかりの物理層規格、IEEE 802.15.4gである。

 Wi-SUN AllianceのChair(議長)を務めるPhil Beecher氏は、同団体の資料の中で「Wi-Fi、ZigBee、3G通信、WiMAXといったさまざまな無線方式があるが、『Neighborhood Area Network(スマートユーティリティネットワークのこと)』と呼ぶ規模の大きなネットワークに対しては、多くの場合、成功していなかった」と説明している。IEEE 802.15.4gは、既存方式と市場の要望の「ギャップ」を埋めることを目的に、半導体ベンダーや装置ベンダー、ガスメーカー、電力関連会社などによって、2008年に策定作業が始まった。

 IEEE 802.15.4gが正式に発効したことで、スマートユーティリティネットワークをはじめ、エネルギー効率を高めることを目的にした各種無線ネットワークの最も基本的な土台が固まったといえるだろう。IEEE 802.15.4gの特徴はさまざまだが、標準化の範囲などを記載した文書である「PAR(project authorization request)のScope」を見ると分かりやすい。以下のような項目が記載されている。

  1. 利用する周波数帯は、各国の規制に対して柔軟性を持たせ、例えば700M〜1GHzの周波数帯や2.4GHz帯を利用する
  2. データ伝送速度は少なくとも40kビット/秒だが、1000kビット/秒は超えない程度に設定する
  3. スマートメーターへの実装を想定し、エネルギー効率の高さと耐障害性を両立させる
  4. 主に屋外の無線ネットワークを対象にする*1)
  5. 少なくとも1500オクテットの物理層のフレームサイズを確保する
  6. 少なくとも3つの異なる無線ネットワークが共存できること(例えば、電気とガス、水道)
  7. 密集した都市部において、少なくとも1000台の端末を接続する無線ネットワークを考慮すること

 特筆すべき点としては、各地域の規制に柔軟に対応し、細やかなパラメーター設定が可能な枠組みにしたことだ。具体的には、利用する周波数帯や変調方式、データ伝送速度などに多様性を持たせている。変調方式は、「周波数偏移変調(FSK)」、「位相偏移変調(QPSK)」、「直交周波数分割多重(OFDM)」の3つを規定しており、いずれかを選択して使う。異なる変調方式を採用した無線システムが、同じエリアに存在するときのシステム間の干渉を抑制し、共存させるためのモード(Multi Physical Layer Management)も用意した。

地域 周波数帯(MHz) 変調方式
欧州 169.400〜169.475 2FSK、4FSK
米国 450〜470 2FSK、4FSK
中国 470〜510 2FSK、4FSK、OFDM、O-QPSK
中国 779〜787 2FSK、4FSK、OFDM、O-QPSK
欧州 863〜870 2FSK、4FSK、OFDM
欧州 868〜870 O-QPSK
米国 896〜901 2FSK
米国 901〜902 2FSK
米国 902〜928 2FSK、OFDM、O-QPSK
韓国 917〜923.5 2FSK、OFDM、O-QPSK
日本 920〜928 2FSK、4FSK、OFDM、O-QPSK
米国 928〜960 2FSK
日本 950〜958 2FSK、4FSK、OFDM、O-QPSK
米国 1427〜1518 2FSK
世界各国 2400〜2483.5 2FSK、OFDM、O-QPSK
IEEE 802.15.4gで規定された周波数帯と変調方式


 また、「物理層のフレームサイズ(ペイロードサイズ)は、少なくとも1500オクテット(バイト)」という記述にも注目したい。1500バイトという数値はイーサネットフレームの最大データ長に相当する。ZigBeeに使われている物理層規格であるIEEE 802.15.4のペイロードサイズが最大127バイトだったのに比べると、とても大きなサイズだ。これは、IEEE 802.15.4gの上位レイヤーにインターネットプロトコル(IP)を利用することを、あらかじめ想定した設定であることを意味する。今後の拡張性を考える上で重要な点だろう。

*1)屋外だけでなく、屋内の無線ネットワークの構築に使うことも検討されている。

スマートグリッド界の「Wi-Fi」目指す「Wi-SUN」

 前述のように、スマートユーティリティネットワークを対象にした国際標準規格であるIEEE 802.15.4gの策定は無事に完了したものの、懸念が残っていた。それは、IEEE 802.15.4gやIEEE 802.15.4eには、柔軟性を高めるためにさまざまなオプションが用意されている一方で、インターオペラビリティ試験の運用を取りまとめる機関が存在しなかったことだ。インターオペラビリティ試験が実施されなければ、「IEEE 802.15.4g準拠」と記載した無線端末同士であっても、相互にデータをやりとりできることが保証されないことになってしまう。

図 Wi-SUN Allianceの活動内容 物理層としてIEEE 802.15.4gをベースにした無線仕様を策定し、相互接続試験を運用する。出典:Wi-SUN Alliance

 冒頭に紹介したWi-SUN Allianceは、このような懸念を解消することを目的に、新たに設立された業界団体である。スマートメーターや機器間通信(M2M)インフラ、FA機器制御、ヘルスケアといったユースケースごとに、IEEE 802.15.4gをベースにした幾つかの無線仕様(Wi-SUN Specification)を策定する。物理層はIEEE 802.15.4gをベースにするが、MAC層はIEEE802.15.4や、MAC層の修正事項をまとめた「IEEE802.15.4e」にこだわらず、用途ごとに適したものを選択する予定である*2)。いわば、スマートグリッドやスマートユーティリティネットワークといった用途における「Wi-Fi」を目指しているのが、Wi-SUN Allianceだといえるだろう*3)

 Wi-SUN Allianceのオープンハウスに参加したある業界関係者は、「IEEE 802.15.4gという国際標準規格は広く認知されつつあるものの、オプションがたくさんあり、これを機器にどう実装するか、無線機器の相互接続をいかに確保するか、という点が心配だった。Wi-SUN Allianceの活動は、機器の開発の効率性や迅速な市場導入には不可欠な取り組みで、期待している」と語った。

Wi-SUN Allianceが協力関係の構築を目指す業界団体の候補(左)と、設立当初のプロモーター企業(右)。出典:Wi-SUN Alliance

 同団体はまず、IEEE 802.15.4gに記載された幾つかの周波数帯および変調方式のうち、920MHz帯のFSK(Frequency Shift Keying)を採用したWi-SUN仕様を策定する。メンバー企業の募集および仕様策定は既にスタートしており、2013年第2四半期にWi-SUN仕様の第1弾をリリースする予定だ。試験ツールや標準機、ラボの用意も進め、2013年第2四半期の終わりごろにインターオペラビリティ試験の運用(IoT Service)を始める計画になっている。

 活動地域としては、まず日本市場を対象にした活動をメインに進めたのち、米国やアジア、欧州に範囲を広げる。Wi-SUN仕様やインターオペラビリティ試験の準備と並行して、他の業界団体や認証機関との協力体制の構築も進める。Wi-SUN Allianceの資料には、「IEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers)」、「ZigBee Alliance」、「Smart Grid Interoperability Panel(SGIP)」、「Open Smart Grid(OpenSG)」、「Consortium for SEP 2 Interoperability (CSEP)」、「HEMS Alliance」、「ECHONET CONSORTIUM」、「Japan Smart Community Alliance(JSCA)」といった国内外の団体が挙げられている。

図 Wi-SUN Allianceの活動スケジュール 出典:Wi-SUN Alliance
*2)ネットワーク構成のうち、MAC層より上位の層は、各ベンダーが用途ごとに適したものを選択することになる。

*3)スマートグリッドやスマートユーティリティネットワーク、スマートホーム、HEMSといった領域を対象にした業界団体は幾つかあるが、それぞれネットワーク階層のどこを規定しているのかに注意したい。Wi-SUN Allianceは物理層とMAC層という下位層を規定し、ZigBee AllianceやECHONET CONSORTIUMは上位層をカバーしているため、互いに競合するのではなく、相補的な関係にあるといえる。

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