連載
» 2012年07月06日 11時15分 UPDATE

福田昭のストレージ通信(1):ストレージの過去・現在・未来 (1/2)

磁気メディアや半導体メモリなどを使った「ストレージ」を解説する福田昭氏の新連載。ストレージ技術を中心に据えながら、ストレージに関する市場やビジネスにも触れていく。第1回は、HDDをフラッシュメモリやSSDと比較し、今後のストレージがどのような道をたどるのか、ヒントを示した。

[福田昭,EE Times Japan]

 「連載の性格は第1回に現れると考えています。そこで、技術的な話題に入る前に、第1回では筆者のストレージに対する問題意識を示していただけないでしょうか」

 本連載の担当編集者から、上記のような内容の電子メールを受け取った後、筆者はしばらく悩んでいた。なぜかというと、筆者は技術ジャーナリストとして信頼性品質管理技術を20年以上にわたってウオッチしており、工業製品というものの信頼性がいかに危ういものかを度々、思い知らされてきたからだ。

 このためストレージに対する問題意識は、極めてネガティブなものとならざるを得ない。それをそのまま書いてしまうと、ストレージ製品に対する「ネガティブキャンペーン(?)」になってしまう恐れが高い。それは筆者が望むところではない。

 そこで「ネガティブキャンペーン」にはならない程度に「不都合な真実」を、「都合のよい真実」に混ぜながら筆者の問題意識を述べていくことにする。

 「問題意識の公表」が筆者を悩ませる理由は他にもある。問題意識とは「将来のテーマ」と密接に関連しているからだ。フリーのジャーナリストである筆者にとっては、類似の分野を扱う全ての記者やフリージャーナリストなどは競争相手でもある。自分が温めている「将来のテーマ」を競争相手が欲しがるかどうかはさておき、自分から進んで手の内を見せることには抵抗がある。

 そこで以下に述べる「問題意識」は、自分の将来のテーマを抽象化してある。どうか、ご容赦願いたい。

消耗品扱いされてきたHDD

 ストレージに限らず、工業製品は常にコストとのバランスで信頼性を維持している。言い換えると、常に一定の水準で故障するリスクを抱えている。ストレージの代表であるHDDも例外ではない。

 HDDは機械的衝撃と機械的振動に弱い。HDDは寿命がそれほど長くない。この2つは、PCを趣味とする、あるいはPCが好きなユーザーの間では、常識の一部だ。「クラッシュ」や「突然死」などと呼ばれる突然の故障がHDDに起きる可能性があることはHDDメーカーも認めており、バックアップをとること(別のHDDにデータのコピーを保存すること)が強く推奨される理由でもある。

 HDDの寿命について、あるHDDメーカーの設計者は「5年が目安」と学会で述べていた。家電製品が7年程度の寿命を目安としていることに比べると、かなり短い。一方でPCのヘビーユーザーは「HDDを消耗品」として扱う。

 あるユーザーがバックアップを含めて常に使用しているHDDは3台。メインが1台、バックアップが2台という使い方だ。それぞれの購入時期は1年ずつ、ずれている。そして毎年、1台ずつHDDを購入していく。購入したHDDはメインとなり、これまでメインだったHDDはバックアップHDDとなる。そしてバックアップHDDの中で古い方を廃棄する。こうすると、購入後およそ3年でHDDを廃棄することになる。このサイクルを毎年、繰り返す。

HDDの安値とHDD業界の寡占化

 このような消耗品扱いができるのは、HDDの価格が安いからでもある。数千円で数百Gバイトの容量が手に入るのであれば、1年に新しいHDDを1台ずつ購入しても、懐はそうは痛まない。

 HDD価格の低さは、HDD事業の利幅が低いことを意味する。利益を稼ぐには、生産規模の拡大によるスケールメリットを採らざるを得ない。2000年以降のHDD業界は薄利多売の枠組みから抜け出せず、事業買収の繰り返しによって規模を拡大し、企業数を減らしてきた。主な事業買収と企業買収を挙げると、2001年にMaxtorがQuantumのHDD事業を買収し、2002年に日立製作所がIBMのHDD事業を買収した。HDDを初めて開発した企業であり、HDDの歴史ともいえるIBMのHDD事業が買収されたことは、IT業界の大きな注目を集めた。

 1980年代には100社を超えたHDDメーカーだったが、2005年初めの時点では主要なHDDメーカーは7社に減っていた。Western Digital、Maxtor、Seagate Technology、日立グローバルストレージテクノロジーズ(HGST)、東芝、富士通、Samsung Electronicsである。

 その後も買収は止まらず、HDD業界は明らかに寡占化に向かっていた。2006年にはSeagateがMaxtorを買収した(買収合意は2005年12月)。2009年には富士通がHDD事業を東芝に譲渡した。これでHDDメーカーは5社に減った。さらに2011年にはWestern DigitalがHGSTを買収することで合意し、SeagateがSamsungのHDD事業を買収することで合意した。2012年6月の時点ではいずれの買収案件も完了しており、主要なHDDメーカーはわずか3社に減ってしまった。

タイの大洪水がもたらしたもの

 薄利多売に陥っていたHDD業界を多少なりとも救ったといえるのが、2011年9月前後に猛威をふるったタイの大洪水である。直接に大きな被害を受けたのはWestern DigitalのHDD組み立て工場とHDD部材メーカー各社の生産工場だった。Western DigitalのHDD生産は一時は完全に停止し、流通在庫を取り崩すことで販売が維持された。この結果、市販のHDD価格は急上昇した。

 HDD価格の急上昇により、HDD事業の粗利益率は一気に上昇した。タイ洪水の被害が大きかったWestern Digitalはともかく、タイ洪水が間接的な被害(部材調達)で済んだSeagateは2012年に入って利益を大幅に増した。ただ、HDD価格が10倍といった暴騰を起こしたわけではなく、2倍〜3倍の価格上昇にとどまったので、むしろ健全な利益を出せるようになったともいえる。筆者はHDDのようなインフラストラクチャ(情報インフラ)に相当する事業は、継続的な研究開発投資をしても利益が出せることが望ましいと考えている。タイ洪水は不幸な出来事であったものの、HDD価格の上昇そのもの(現在の価格水準)は適正だと感じている。

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