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―実践編(準備号)― 英語に愛されないことは私たちの責任ではない「英語に愛されないエンジニア」のための新行動論(4)(3/5 ページ)

» 2012年07月09日 08時00分 公開
[江端智一,EE Times Japan]

 仮に、英語の必要性を「観光」に求めるのであれば、実に年間1450万人もの人が出国しています。毎年、日本人のおよそ10人に1人が海外に出国している計算です。観光が、国際コミュニケーション人材育成の第一歩であると考えれば、その目的は達成しているのかもしれません。

 観光をきっかけに、海外にプライベートな友人ができれば、人生はより豊かになるでしょう。観光人口のたった1%(15万人)の方であっても、海外の友人ができれば、とても素晴しいことです。民族の枠組みを超えて、お互いの考えや立場を理解できるようになれば、国家間の紛争も減っていくことでしょう。「国家百年の計」の観点から見れば、大変意義あることだと思います。

図 写真はイメージです

 しかし、明日にでも「油の臭いのする工場のラインで、現地のエンジニアと大声で怒鳴りながら仕事をする場面(本連載の第1回参照)」で闘わなければならない我々エンジニアにとって、「百年の計」などというのんびりした話はどうでもよくて、明日のリアルな日々の方が、はるかに深刻です。

 一人のエンジニアとして言わせていただければ、たかだか、数年に一度、1〜2週間程度の「海外旅行」のために10年近くも英語を勉強させられてきたとすれば ―― 私は絶対に怒る。

第3の要因 英語教育者の資質と英語教材の内容の問題

 この連載を始めて、「英語に愛されている人」とは、すごい人なのではなく、「普通でない能力を有する特殊な人( 以下、「特殊な人」と略します)」ではないか、と思うようになってきました。我が国の英語教育をリードしている方々が英語に愛されている人と仮定すれば、我が国の英語教育は、「特殊な人」によって行われていることになります。ここで、いくつかの疑問が生じます。

 特殊な人は、「英語に愛されない私たち」を理解できるのでしょうか。「片思いでは足りない」という事実(本連載の第2回参照)を認められるのでしょうか。そして、最大の疑問は「特殊な人が、特殊でない私たちを教育できるのでしょうか」ということです。 日本における英語学習の環境は、果して適正なものであるのだろうかと、私は常日ごろから疑問に思っております。

 第一に、前述した通り、英語を教える側にある人たち、つまり、日本で英語教育をリードしている方々(先ほど私が「特殊な人」と述べた方々)のその「資質」に問題があるのではないかと思っています。第二に、英語の教科書やNHKのラジオやテレビのプログラムの内容は、適正ではないのではないかと疑っています。英語教育のリーダーの方々と英語の教材は、それらが相互に連携して、負のフィードバックループを形成しているように思えて仕方ないのです。

図 写真はイメージです

 英語教育をリードされている皆さんは、英語に愛されている人です(英語が死ぬほど嫌いなのに英語教師になったという話を聞いたことがないので、この論証は省略します)。そして、そのような人は、原則として無条件に頭が良く、理解のスピードも恐ろしく速く、そして何より、英語を使うケースが絶無の我が国において、英語を自分のものにし得た「意欲の塊」の方々です。

 そのような方が付き合う海外の方々も、「意欲の塊」たる知的エリートの方となるのは当然です。自然に、その生活、文化、思考形態は、世界的な知的エリートに通じるものとなります。そして、その内容が、「文部科学省認定の英語の教科書」や「NHKラジオ・テレビ英会話テキスト」に反映されるわけです。それらの教材で、勉強をする私たちは、このような高度な話題が展開されている英語に恐れおののき、躊躇(ちゅうちょ)するようになります。「外国に行ったら、こんな高度な知的で難しい会話を、英語でしなければならないのか」と。

 しかし、この現状は、少なくとも私が過してきた海外生活の状況と一致しません。どの国でも、「平気で約束を破る」、「時間を守らない」、「最悪の品質の商品を渡してくる」といった人は普通にいましたし(日本人よりずっと多かったように思う)、考え方がアバウトで、その場しのぎで、空気を読めない人間も少なくなかったように思います。 

 例えば、米国の上級軍曹(シニア・サージェント)と話をする機会があったのですが、彼が「UFOは我々人類に警告を発しているのだ」と語った時、私は「日米安全保障条約の抜本的見直し」を政府に勧告すべきではないかと、真剣に考え込んだものです。

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