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ダイヤよりも硬く、羽毛よりも軽く――炭素が開く新材料材料技術(1/3 ページ)

炭素は新材料の宝庫だ。フラーレンやグラフェン、カーボンナノチューブが新しいエレクトロニクスを支える素材として活躍している。だが、炭素の可能性はまだまだ尽きない。ダイヤモンドよりも硬い素材、羽毛よりも軽い素材……。2012年春以降に発見された新材料を紹介する。

» 2012年08月31日 16時40分 公開
[畑陽一郎,EE Times Japan]
ダイヤよりも硬く、羽毛よりも軽く――炭素が開く新材料 テトラポッド構造

 炭素は「炭」素という名称のためか、地味な材料として捉えられてきた。黒鉛(グラファイト)が工業上は最も重要で、ダイヤモンドや無定形炭素も広く使われているものの、新材料という扱いは受けていなかった*1)

*1) これらの物質が研究開発の対象となっていないという意味ではない。例えば、無定形炭素は微細な黒鉛の結晶が無秩序につながったものであり、特に品質を制御したカーボンブラックは導電性付与剤として電池の性能や品質を高めるために必要不可欠な材料である。

 このような状況が変わったのは1980年代以降である。1985年のフラーレン(C60)の発見、1987年のグラフェン登場*2)、1991年の飯島澄夫氏(NEC)によるカーボンナノチューブの発見……。

*2) グラフェンはグラファイト(黒鉛)を構成する1層として古くから概念上は知られていたが、グラフェンという用語は1987年に登場したものだ。

 球状、平面状、チューブ状という新しい構造の炭素の単体が見つかったことで、さまざまな用途開拓が進みつつある。フラーレンは有機ELや有機薄膜太陽電池の半導体材料として既に実用化されている。炭素がサッカーボールのような「オリ」状構造をとっているため、オリの中に他の物質を閉じ込めて使う用途もある。

 グラフェンは電子の移動度が最も高い物質として知られている。デジタル回路に必須のトランジスタを高速動作できるということだ。タッチパネルや太陽電池に必要不可欠な透明電極にも役立つ。カーボンナノチューブは微細な回路を接続する電線に使える。チューブの直径や曲率を変えることで材料の性質が変わる特長も役立つ。このように新材料の応用分野はエレクトロニクスだけを考えても幅広い。

 だが、現在はこのような新材料の応用研究だけが進んでいると考えるのは早計だ。2012年の春以降に限っても、奇妙な性質を持つ新炭素材料の発見が続いている。どのような材料なのか見てみよう。

ダイヤモンドよりも硬い

 米Carnegie Institution for Science(カーネギー研究所)*3)の研究チームは、ダイヤモンドに傷を付けられるほど硬い炭素材料を発見した(図1)。炭素の結晶と無秩序な構造が組み合わさった材料である。機械的な用途の他、電気的な用途、電気化学の用途が検討されている。Lin Wang氏が率いる研究チームの論文は米Science誌の2012年8月17日号に掲載された。

*3) 同研究所では地球物理学研究の一環として、人工ダイヤモンド合成の新手法を開発している。化学蒸着法により、10カラット以上の無色で品質の高い単結晶ダイヤモンドを合成できるという。今回の研究も地球物理学研究室で行われたものだ。

図1 ダイヤモンドよりも硬い炭素材料の構造 C60にm-キシレン溶媒を加え(図左)、32万気圧に加圧した後(図右)に取り出すことで、構造が永久的に変化する様子を示したシミュレーションモデル。赤紫がC60分子、青と白からなるのがm-キシレン。出典: Lin Wang, Carnegie Institution

 冒頭で紹介したように、炭素だけからなる物質は実にさまざまな構造をとる。ハチの巣状の構造が2次元に広がるグラフェン、グラフェンが積み重なった黒鉛(グラファイト)、3次元の密な結晶構造をとるダイヤモンド、グラフェンをホースのように丸めた形をとるカーボンナノチューブ、サッカーボールにも似たフラーレンだ。

 このように炭素だけからなる物質のうち、あるものは結晶構造をとり、炭素原子同士の結合が周期性を持っている。その他の炭素物質、例えば無定形炭素には周期性がない。厳密には小さな単位では周期性があるが、広い範囲では周期性を失う。周期性と非周期性を兼ね備えた炭素材料はこれまで観察されたことがなかったが、人工的に作り出すことは可能だと考えられてきた。Wang氏はこのような性質を満たす材料を今回初めて合成できたと考えている。

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