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» 2012年09月10日 08時00分 UPDATE

「英語に愛されないエンジニア」のための新行動論(7):―実践編(パラダイムシフト)―入出力装置という「機械的な私」の作り方 (2/3)

[江端智一,EE Times Japan]

私たちもPCと同じ戦術を採ろう

 しかし、この話の中には示唆的なパラダイムが含まれています。「英語に愛されないエンジニア」である私たちもPCと同じ戦術を採れば良いのです。私たちは、PCよりも、もっと知的レベルの低い、単なる「入出力装置」になるのです。その機械は、指先で操作可能で華やかなGUIも、メールやTwitter、Facebookも使えず、Skypeのような音声通信手段すらも持ちません。

 私たちは、技術英語というプログラミング言語を入力し、シーケンス処理をベースとした情報処理を実施し、技術英語というプログラミング言語で出力する、ただ、それのみを行う入出力装置という「機械に成り下がる」のです。

 使えるI/O(入出力インタフェース)は「目」と、「耳」、「口」というアナログだけ。低スペック、低クロック周波数で、内蔵されたごく少量の揮発性のRAMと、書き換えできないROMのチップだけからなり、アプリケーションやミドルウェアはもちろん、OSすらも具備しません。

図 写真はイメージです

 「入出力装置」となった私たちは、英語に関してバージョンアップしませんし、行えません。これから登場してくるであろう、きらびやかで魅力的で楽しそうな英語に関する新しい技を全て拒否します。

 「聞くだけで分かるようになる英語」やら、「3週間でぺらぺらになる英語勉強方法」といった(うそくさい)アプリケーションをダウンロードしません。英語に関する材料(英語の語彙(ごい)など)も追加しません。さらには、英語力を向上させる可能性のある、ありとあらゆる行為を行いません。言うまでもなく、英会話教室への入校や、TOEIC、英検などの受験は、お金と時間の浪費と考えます。

 私たちが行うことは、ただ1つ。私たちの言語中枢にあるROMに焼き付ける、必要最小限のコンパイラ(翻訳機)を作るだけです。具体的には、いつ、いかなる時においても、どこの誰にどのような不意打ちをくらっても応えられる、必要最小限の英単語と英語フレーズを焼き込みます。

必要最小限の英語コンパイラ(翻訳機)を作ろう

 具体例で説明します。私の場合、「DUO2.0」(×3.0、×4.0)と、「英会話とっさのひとこと辞典」の、全ページ、全内容を10年前に完璧に焼き込みました。

 「DUO」には、少ない例文の中に、多くの英単語や熟語を、かなり無理して突っ込んでおり、超小型の辞書データベースとしての役割を担ってもらいました。無理しているせいで、文章はなかなか愉快な内容になっています(例えば、「彼は、その恐竜の精巧な縮小模型をじっと見つめた」、「信じてもらえないだろうけど、茂みの中から怪獣が現われたんだ」は、私の中の2大爆笑ヒット例文)。

図 数回以上、バスタブに沈めた「DUO」と「英会話とっさのひとこと辞典」

 「英会話とっさのひとこと辞典」の焼き込みは、赴任先の米国で生活していくための私たち夫婦の最後の選択でした。全ての会話を「例文だけで成立させる」、つまり、朝起きてから夜寝るまでの全ての会話を、この書籍に出てくる例文だけで対応するという「力づくの技」で乗り切ることにしたのです。

 知識、学歴、キャリアなどというプライドに関わるものは、何もかも跡形もなく吹き飛び、単語、文法、活用、時制、不定詞や前置詞の使い方などという、もはやそのような瑣末(さまつ)なことに拘っていられる状況ではありませんでした。文字通りの意味で「生き残る」ために、私たち夫婦は手段を選んでいる余裕などなかったのです。

 この2冊が、私のROM領域に焼き込まれた英語の全てです。私が記憶している英単語とフレーズは、10年前から一節、一語たりとも増えておりません。頭脳という私のハードウェアに書き込み可能な英語素材のストックは、この2冊で限界でした。もしかすると、もっと覚えられるのかもしれませんが、私はそのような作業が嫌いです。嫌いなことはROMですらイレース(消去)されてしまいます。嫌いな内容は、最小限にとどめることが重要です。

 つまり、今の私は、上記の2冊のみが焼き込まれたROMにアクセスし、適当なメッセージ(技術英語)を吐き出すだけの、単純な「入出力装置」として完成したわけです。

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