コラム
» 2012年10月30日 09時30分 UPDATE

材料技術:電子の流れからナノ粒子を“隠す”、新型素子につながる研究成果を米大学が発表

物体を不可視化する「クローキング」の技術を、電子デバイスに応用する研究が始まっている。米大学の研究チームが、クローキングを応用し、電子の流れの中でナノ粒子を“不可視化”する技術を発表した。まだ研究初期の段階ではあるが、このコンセプトを用いれば、新しいタイプのスイッチ素子などが誕生する可能性もあるという。

[Dylan McGrath,EE Times]

 米マサチューセッツ工科大学(MIT:Massachusetts Institute of Technology)の研究チームは、物体を不可視化する技術であるクローキングを応用し、電子の流れの中にあるナノ粒子をあたかも存在しないかのように“隠す”技術を開発しているという。この研究は将来、熱電素子の効率を向上させたり、現代のトランジスタとは異なる仕組みの新たな電流制御素子を生み出す可能性がある。

 研究チームが、雑誌「Physical Review Letters」の2012年9月号に掲載された論文で説明したところによれば、今はこの技術の基本的な構想をコンピュータシミュレーション上で確認した段階である。

 物体のクローキングでは従来、「メタマテリアル」と呼ばれる特殊な性質を持つ人工媒質を使って、不可視化したい物体を覆うという方法が取られてきた。物体に当たった光をメタマテリアルによって曲げ、その物体をう回させることで不可視化の効果を得る。

 MITの研究チームは、このクローキングの考え方を電子の動きに適用した。通常、電子は媒質を通り抜ける際に、光などの電磁波とよく似た動きをする。そこで、MITの機械工学部教授であり、論文の執筆者の1人であるGang Chen氏と研究チームのメンバーは、クローキングの手法を電子の動きに応用することを考えた。

 ただしChen氏によると、研究チームが開発した電子クローキング用の媒質は、光のクローキングとはやや異なる仕組みで機能するという。すなわち、MITが今回発表した研究では、電子はナノ粒子をう回するのではなく、ナノ粒子を“通り抜ける”と説明する。電子が移動する軌道はナノ粒子に入るときに曲がるが、出るときに再び曲がって元の軌道と同じになる。つまり、電子が移動する先にナノ粒子が存在していても、それを通り過ぎた後の軌道はナノ粒子が存在しない場合と変わらない。その結果、ナノ粒子が電子の流れに対して“不可視化”されるという仕組みだ。

mm121030_MIT.jpg ナノ粒子を不可視化する概念図 電子がナノ粒子(中央にある丸い物体)を通過する際にたどる経路が、茶色の横線で示されている。電子が粒子に入るときに経路はいったん曲がるが、粒子から出るときに再び曲がって、元の経路の延長線上に戻る。そのため、電子は、あたかも粒子がそこに存在しないかのごとく進んでいるように見える。 出典:MIT

 今回のシミュレーションでは、ナノ粒子のサイズを数nmに設定した。このサイズを選択したのは、電子の流れの波長に整合させるとともに、一定のエネルギー準位における電子の流れを旧来のドーピング手法に比べて桁違いに高める狙いがあるという。Chen氏は、これはフィルタやセンサーのような電子部品の効率を高めることにつながる可能性があるとする。

 さらに同氏は、電子デバイスに向けた新型のスイッチング素子の実現にもつながるとしている。例えば、電子の“可視”と“不可視”という状態を切り替えることで電子の流れのオン/オフを制御するスイッチが考えられる。Chen氏は、「我々の研究はあくまでも初期の段階にある」と述べた上で、「現時点では、研究をどこまで進めることができるか定かではない。だが、この技術に可能性があることは確かだ」と述べている。

 MITの大学院生であり、論文の共著者でもあるBolin Liao氏は、「このアイデアは、理論を提示した最初の一歩である。今回の結果を基に、新しい素子の実用化に向けてさらなる研究に取り組みたい」と語った。

 今回の技術開発を手掛けた研究チームには、Chen氏とLiao氏の他に、米Rutgers Universityの助教授を務めるMona Zebarjadi氏や、科学研究員であるKeivan Esfarjani氏なども参加している。

 米カリフォルニア大学バークレー校の機械工学部教授であるXiang Zhang氏は、今回のプロジェクトには参加していないが、今回の成果について、「クローキングの概念を電子の領域にまで拡大した、非常に素晴らしい研究だ。研究グループは、熱電素子への応用に大いに役立つ、極めて興味深い手法を開発したといえる」とコメントした。

【翻訳:田中留美、平塚弥生、編集:EE Times Japan】

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