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カーボンナノチューブ素子のICチップ、 “せっけん”と“トレンチ”で実用へ前進材料技術(1/2 ページ)

IBMの研究チームは、現行の標準的な半導体プロセスを使って、カーボンナノチューブを用いたトランジスタ素子を1枚のチップ上に1万個以上作り込むことに成功したと発表した。こうした成果は世界初であり、シリコンの次を担う半導体材料として期待されるカーボンナノチューブ・ベースの集積回路(IC)の商用化を大きく進展させると主張している。

» 2012年11月08日 11時57分 公開
[Dylan McGrath,EE Times]

 シリコントランジスタの時代に別れを告げる――そのための準備が着実に進んでいる。

 シリコン(ケイ素、Si)材料を使ったトランジスタは現在、微細化が物理的な限界に近づいている。連綿と続いてきた微細化の取り組みによって、物理的な寸法がナノスケールの領域に達しつつあるのだ。シリコンの物性や物理法則の面からみても、これまでのような性能向上はやがて得られなくなるだろう。従来のようなシリコントランジスタの微細化は、あと数世代で限界を迎えるというのが業界の多くの見解である。

 そこで、半導体の次世代材料の1つとして期待されているのがカーボンナノチューブだ。カーボン(炭素、C)を使う特殊な構造の人工材料である。それを利用したトランジスタ素子をIC(集積回路)化する取り組みに、新たな進展があった。

 IBMの研究チームは、現行の標準的な半導体プロセスを使って、ナノチューブを用いたトランジスタ素子を1枚のチップ上に1万個以上集積することに成功したと発表した 。同社は、こうした成果は世界初であり、カーボンナノチューブ・ベースのICの商用化への道を開くものだと主張している。

IBMの研究者が手にしているのが、1万個を超えるカーボンナノチューブ・トランジスタを作り込んだウエハーである。このウエハーは、IBM社内にある商用の半導体ファブの設備で検査したという。

商用化への課題に焦点

 カーボンナノチューブはいずれ半導体材料としてシリコンを置き換え、半導体チップの小型化を今後も従来のように続けられるようになる――。このようにみる向きは少なくない。科学者らによれば、カーボンナノチューブはシリコンよりも優れた電気的特性を備えており、特に、大きさがわずかに原子の直径の数十倍というナノスケールのトランジスタ素子を実現する有力な候補になるという。

 IBMは、「カーボンナノチューブはトランジスタ素子のコアとなる部分を形成し、既存のシリコントランジスタと同様の機能を、それを上回る性能で果たすことができる」と説明する。

 既にIBMの研究チームは2012年の前半に、大きさが10nm以下という分子レベルながら、優れた特性のスイッチング素子として機能するカーボンナノチューブ・トランジスタを実証済みである。このサイズは、人間の毛髪の直径の1万分の1に相当し、最先端のシリコントランジスタの半分にも満たないという。

 ただしIBMによれば、これまで世界で報告されている成果では、一度に作り込めるカーボンナノチューブ・トランジスタの数は最大でも数百個にとどまっており、ICとしての商用化に向けた大きな課題を乗り越えるには不十分だった。

 同社が開発した新たな手法を用いれば、数多くのナノチューブ・トランジスタをウエハー上のあらかじめ設定した位置に作製することが将来的に可能になるという。商用チップとして実用化するには、10億個以上のナノチューブ・トランジスタを作り込む必要があるとIBMは述べている。

 同社の研究部門であるIBM Researchで物理科学担当のディレクタを務めるSupratik Guha氏は、報道発表資料の中で、「カーボンナノチューブ・トランジスタは、物理寸法がナノスケールという非常に小さい領域において、他の材料を用いたトランジスタをしのぐ特性が得られる。ただし解決すべき課題もある。カーボンナノチューブを極めて高い純度で精製したり、ナノスケールで高い精度で配置したりといった課題である。当社はこれらの課題の解決に向けて、大きな進展を遂げている」と語った。

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