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» 2012年12月21日 10時00分 UPDATE

NIDays 2012講演リポート:フルノの魚群探知機にも生きている!? RF回路とデジタル信号処理の協調設計

高周波(RF)信号を扱う無線通信システムでは、設計/検証の負担が急激に高まっている。そこで、RF回路とデジタル信号処理の協調設計が重視されるようになってきた。RF設計ツールベンダのAWR Japanと、同ツールのユーザであり、「フルノ」ブランドの魚群探知機で知られる古野電気が、最新の事例を報告した。

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 RF信号を扱う無線通信システムの開発が複雑化・高度化している。1台の機器が複数の無線通信機能を持つことが当たり前になってきたからだ。無線LAN(Wi-Fi)、Bluetooth、携帯電話、NFC(近距離無線通信)といった無線通信機能の全てを1台のモバイル機器に載せることすら、現在では珍しくない。

 そのような状況で2011年5月に、ナショナルインスツルメンツ(NI)は米国の設計ツールベンダであるAWR corporationを買収した。AWRは、RF回路の設計ツールソフトウェアを数多く開発、提供している。代表製品はRF/マイクロ波回路設計ツールの「Microwave Office(MWO)」と通信システム設計ツールの「Visual System Simulator(VSS)」である。AWRがNIの子会社になったことで「携帯電話を含めた通信分野で、NIとの深化した協調を期待する」とAWR Japanの北島徹雄氏は講演で述べていた。

AWR Japanの北島 徹雄 氏 技術セッション「RF通信回路設計/検証におけるハードウェア・イン・ザ・ループによる効率化」に登壇したAWR Japanの北島 徹雄 氏

 最近の無線通信システムの設計で重要な点は、デジタル変調を全ての通信方式が採用していることだ。デジタル変調の採用によって、大容量のデータを短時間に伝送できるようになった。変調と復調を含めて、システムレベルと回路レベルを協調して設計することが必要である。

 AWRの製品では、VSSがシステムレベルの設計ツールとしてRFシステムのモデリングやRFブロック(ミキサー、パワーアンプ、フィルタなど)の接続、様々な通信規格(デジタル変調方式)のサポートなどを担う。そしてMWOが回路レベルの設計ツールとしてミキサーやパワーアンプ、フィルタなどの設計と解析(線形解析および非線形解析)を受け持つ。VSSとMWOが協調してシミュレーションを実行することで、システムと回路の協調設計を実現している。

RF、デジタル、計測の3つが協調

 AWRがNIの子会社となったことで、RF設計とデジタルシステム設計、そして計測の協調がしやすくなった。システム設計ツールVSSに、NIが提供するシステム開発ソフトウェア「NI LabVIEW」のプログラムコードをインポートして使えるようになったのである。AWR製品のユーザにとっては、信号発生や信号解析などの機能を設計ツールに取り込めるとともに、NIのハードウェア製品であるPXI型のモジュール式計測器を利用することで、迅速にプロトタイピングを実行できるようになる。

 VSSにLabVIEWのコードをインポートした場合、VSSでは「LabVIEWノード」の入力端子と出力端子がLabVIEWコードの入力と出力に対応することになる。これにより、LabVIEWの可視化された信号処理機能やリアルタイムDSP機能、計測・制御機能などをVSSの1ブロックとして使用する。

 もちろん、LabVIEWノードの入力端子あるいは出力端子だけがVSSに存在することもある。例えば、LabVIEWの信号解析機能をVSSに取り込んだ場合は、VSSの出力がLabVIEWの入力となる。そして、LabVIEWでカスタマイズした信号解析機能を利用できる。また逆に、LabVIEWの信号生成機能をVSSに取り込んだ場合は、LabVIEWで作成したカスタム信号の出力がVSSに入力される。

図1 VSSとNI LabVIEWの連携 図1 VSSとNI LabVIEWの連携(クリックで画像を拡大) 出典:AWR Japan

基地局パワーアンプの開発に適用

 実際の開発事例として、携帯電話基地局のパワーアンプをAWR Japanの北島氏は挙げていた。最大出力250WのLTE(Long Term Evolution)用パワーアンプをAWRのMWOで設計した。LTE用パワーアンプの開発では、変調誤差(EVM:Error Vector Magnitude)特性や隣接チャンネル漏洩電力(ACP:Adjacent Channel Power)特性などを測定する必要がある。

 従来はVSSにパワーアンプのモデルを組み込んでシミュレーションした結果と、試作品のパワーアンプを計測した結果を比較していた。計測用の信号生成と結果の解析は開発者がセットアップし、実行する。測定条件のパラメータを変えて何度も測定する必要があり、かなりの手間がかかっていた。

 ここでNI LabVIEWを導入すると、計測用の信号生成回路と信号解析回路を簡単に設計できるともに、自由にカスタマイズできるようになる。パワーアンプのモデルと試作品の両方に対して同じ信号波形を入力し、同様の解析を実行できる。これにより、シミュレーションと測定結果の比較が非常に簡単になるわけだ。すなわちPXIハードウェアの信号発生器とパワーアンプの試作品あるいはモデル、PXIハードウェアの信号アナライザを組み合わせることで、いわゆる「ハードウェア・イン・ザ・ループ(HIL)」の系を構築する。そしてモデルと試作品の測定結果を比較すればよい。

図2 NI LabVIEWとVSSの協調によるハードウェア・イン・ザ・ループ(HIL)の構築 図2 NI LabVIEWとVSSの協調によるハードウェア・イン・ザ・ループ(HIL)の構築(クリックで画像を拡大) 出典:AWR Japan

DPDとミリ波レーダーでRFとデジタルを協調設計

 この他にもRF設計とデジタル設計の協調事例として、デジタル・プリディストーション(DPD)とミリ波レーダーを挙げていた。

 DPDとは、パワーアンプの非線形性を補償するために、あらかじめデジタル回路で信号波形に歪を与える技術であり、パワーアンプの効率を低コストで高めることができる。前段に相当するデジタル回路部分をNI LabVIEWで設計し、後段のRFパワーアンプ回路をAWRのツールで設計することで、協調設計を実施する。

 ミリ波レーダーは、前段のデジタルベースバンド回路と後段のアナログRF送受信回路で構成される。これも前段のデジタルベースバンド回路をLabVIEWで設計し、後段をAWRのツールで設計する。

図3 デジタル・プリ・ディストーション(DPD)の仕組み 図3 デジタル・プリ・ディストーション(DPD)の仕組み(クリックで画像を拡大) 出典:AWR Japan

アナログ設計者とデジタル信号処理設計者のギャップを埋める

 北島氏に続き、船舶用電子機器のリーディング企業である古野電気株式会社で技術研究所の研究部部長を務める柏卓夫氏が、アナログ設計者とデジタル信号処理設計者(デジタル設計者)がどのように協調して設計作業を進めているかの実例を報告した。

古野電気で技術研究所の研究部部長を務める柏卓夫氏 古野電気で技術研究所の研究部部長を務める柏卓夫氏

 船舶用電子機器に限らず、システム開発では様々な分野の設計者が開発に参加する。各専門分野の開発成果物は“モジュール”となり、各モジュールをつなぎ合わせることでシステム全体が完成する。ここで問題になるのが、異なる分野の開発成果物をつなぎ合わせた時に、全体として設計要求を満足して動作するかどうかである。言い換えると、異なる分野の間でどのようにして整合のとれた設計を実施するか、になる。

 例えば高周波を扱うアナログ設計者と、デジタル信号処理アルゴリズムを扱うデジタル設計者の間には、長大な距離感がある。「地球の裏側にお互いが存在しているような感覚」だと柏氏は述べていた。

 アナログ設計者は、アルゴリズムやリンクバジェットなどが決まらないと設計の詳細を詰められない。回路設計者は、回路の変更が出力信号に与える影響を把握しづらい。そしてデジタル設計者は、アルゴリズムの変更が回路に与える影響を考慮しない。このような状態だと、「とりあえず試作機を作って評価しよう」となる。試作機の製作には日数がかかる。試作機の製作・評価をスキップして設計仕様書をまとめると、各設計者が用意する仕様書はオーバースペックになり、それが重なり合ってシステム全体としては非常に無駄が大きい仕様になってしまう。

 そこで古野電気は、デジタル信号処理設計者の多くが使うプログラミング言語がC++であり、AWRのツールがC++で記述されていることから、「デジタル信号処理アルゴリズムをVSSあるいはMWOの上でモデル化できるのでは」と考えた。AWRがモデルデザインキット(MDK)と呼ぶ機能を使って信号処理アルゴリズムをVSSに取り込んだ。こうすることで、アナログ設計者が回路変更の影響を把握しやくなる。

 そして、NIがAWRを買収したことにより、VSSがNI LabVIEWをコールできるようになった。これにより、LabVIEWを使ってデジタル信号処理アルゴリズムを記述していた設計者が、アナログ設計者とやりとりしやすくなる。仕様書を交わさずに、設計データで受け渡しできる。

 さらにNIのPXIハードウェアを使うと、アナログ回路を追加するだけで、システムの試作品を簡単に作れるようになる。ボードやFPGAなどを新たに設計する手間をかけることなく、試作品が入手できるので、試作検証の期間が短くなる。その結果、開発期間を大幅に短縮できるという。


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提供:日本ナショナルインスツルメンツ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2012年12月31日

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