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非核三原則に学ぶ、英語プレゼンのポイント「英語に愛されないエンジニア」のための新行動論(17)(3/7 ページ)

» 2013年04月23日 11時00分 公開
[江端智一,EE Times Japan]

非核三原則に学ぶ、プレゼンのポイント

 では続きまして、英語による議論が必要になるような話題を「持たない」、「作らない」、「持ち込ませない」とする、非核三原則に学ぶプレゼンテーションのポイントを説明します。

第一の原則:英語での議論が必要となるような話題を「持たない」

 ここでいう“話題”とは、前々回にお話した「電子メール戦」で議論した内容以外の話題ということになります。準備もしていないような話題を議論にされたら、ミーティングを“ただの確認の場”にすべくこれまで頑張った、「未来完了戦略」の意味がなくなってしまいます。

写真はイメージです

 このような話題を「持たない」ために有効な方法は、事前に、あなたがそのミーティングの「事務局」になってしまうのが一番手っ取り早いです。一見、海外のミーティングの事務局になるなど、恐ろしく面倒で大変のようにも思えますが、もしあなたが「事務局」になれば、当然、打ち合わせに必要な資料を、事前に全部読み込んでおくことも可能です。それは、試験前に試験問題を、あらかじめ入手できることと同じ意味になります。

 あなたは、他の人間に質問する隙を与えず、自分が聞きたい質問だけで質疑応答をタイムアップに導き、「他の人間が英語で質問する機会をつぶす」ことが可能となるのです。

 そして最大のメリットは、あなたがアジェンダを作成できるということです。

アジェンダとは、ここではミーティングの発表の順番や内容を記載したタイムテーブルを指します。あなたはアジェンダによって、議論の内容を確定し、議論が発展する可能性を事前に握りつぶします

 まとめますと、あなたは、このミーティングにおいて、その内容を検閲し、削除し、必要なら弾圧も辞さない、戦前の特別高等警察(特高)のような存在として、このミーティングを、完璧な「出来レース」と化し、前回の「未来完了戦略」を完遂することになるわけです。

第二の原則:英語での議論が必要となるような話題を「作らない」

 言うまでもありませんが、ミーティングの場で新しい議論のネタを作る(創成する)のは、論外です。英語での議論を回避するためですが、それ以上に知的財産権(知財)の関係で大問題となるからです。

 そのミーティングで創成されたアイデアは、どのようなものであれ「発明」になり得ます。そして、その場所で「発明が完成した」と認定される状況であれば、当然、その発明はミーティングにいる全員が発明者(共同発明)になります。

 他社(海外なら言うまでもなく)との共同発明は、知財部が最も嫌うものです。共同で出願するとなると、一般的にはその国と日本の両方で出願することになります。その上、特許権になるまでの対応を行い、権利の持分比率について交渉し、権利化後の特許発明の実施についてその利益配分でゴネる、という、最低最悪のルートをたどることになるからです。その海外の会社と「けんか別れ」になるというケースもあり得ます。

 原則、そのミーティングで発明になりそうと思われる事項は、何であれ、事前に国内特許出願をしておく(海外の出願はパリ条約の優先権を使い1年以内に可能)、というのが、企業の常識ですが、全ての発明を予想して出願しておくなど、しょせんは無茶な話です。

 とすれば、新しい発明ネタが出てきそうな雰囲気になったら、話題を変えてしまうことも必要です。

 繰り返しますが、ミーティングは、事前にメールなどで行ってきた議論の内容の、単なる確認の場にすぎないことを肝に銘じてください。

第三の原則:英語での議論が必要となるような話題を「持ち込ませない」

 ミーティングが、あなたと、あなたとメールで議論した技術者だけであるならよいのですが、多くの場合、頼みもしないのに、その技術者の上司(課長クラス)、部長、下手をすれば幹部が出席することもあります。気まずいこと、この上もありません。

 「なんで、そんな『偉いさん』が、しゃしゃり出てくるんだよ〜」と泣きたくなるかもしれません。しかし、あなたがただのエンジニアであったとしても、その時のあなたは、あなたの会社を代表する全権大使(のように見える立場)なのです。

写真はイメージです

 この人たちが「持ち込む」話題は、技術とはちょっとばかりレベルが違います。

 「新サービスのマーケティング」「協業の態様」「ジョイントベンチャーの資本金出資比率」などなど。エンジニアにすぎないあなたにとって、このような話は次元を超えます。もちろん、あなたにこのような話をまとめ切る器量があれば、あなたの出世は確実、会社での権限は爆発的に大きくなるでしょう。

 ですが、この手の話には絶対に触れてはなりません。「触れてはならない」とは、話を聞いてもならない、という意味です。もし、あなたが「この話を持ち帰る」と返事をしてしまえば、あなたの会社はそのオファーに対する回答の義務が生じることになります。

 その結果、あなたは、会社の幹部にとっては「最悪のお土産」を持参して帰国するハメになるでしょう。しかも、その「最悪のお土産」の中身は、われわれ英語に愛されないエンジニアの英語力によって、全く別の物質に変化している可能性もあるのです(つまり、全く異なる内容として報告してしまうということ)。私が幹部なら、あなたの勤務評価を下げることにためらいはありません。

 ここは、どのような話であれ「自分の裁量では返事もできないし、この話を正確に我が社に伝える能力もない。ビジネスに関する話は、弊社窓口を経由して正当ルートで交渉いただきたい」と、キッパリ伝えましょう。

 まあ、「ビジネス」の話であれば、断わればよいから簡単なのですが、「技術」を持ち込まれると、正直ちょっと困ります。

 これは多分、あなたが「電子メール戦」で行ってきた担当者とは違う技術者、おそらく、その技術者の上司くらいから振られることが多いと思います。先ほどの「発明」の件もありますが、英語を自由に使えないにしても、技術の話をまったくできない技術者だと思われてしまうと、今後の仕事にも影響が出かねません。

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