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非核三原則に学ぶ、英語プレゼンのポイント「英語に愛されないエンジニア」のための新行動論(17)(6/7 ページ)

» 2013年04月23日 11時00分 公開
[江端智一,EE Times Japan]

(付録1)人のふんどしで相撲を取るエンジニア

 冒頭の「人のふんどしで相撲を取る作戦」について、お話を続けたいと思います。

 当時、私の会社は、ドイツの研究機関と共同研究プロジェクトを実施しており、私はメンバーの一員として参画していました。私は、そのプロジェクトの実施項目の中に、自分が携わっていた「標準化活動」という項目を付け加えてもらいました。

 ほとんど火事場泥棒のように、ドサクサにまぎれて、と言う感が否めませんが。まあ、そのかいもありまして、私はまんまとドイツの研究機関の有能なスタッフの協力を得て、標準化の提案書の作成にこじつけました。

 この「標準化活動」とは、国からの依頼研究の一つで、私としては、提案書の提出をもって、「任務完了」の形とするつもりでした。ですが、念のために、この標準案をインターネットの標準化団体IETFのミーティングで発表し、私の任務について、誰からも文句を言わせないような状態にしておきたいと思っておりました。

 私のもくろみはただ一つ。

 「共同研究者のH博士を説得して(丸め込んで)、今回の標準書の内容をIETFのミーティングで発表してもらおう」ということでした。私は、このように誠に姑息(こそく)な計略をもって、ドイツに乗り込んだのです。

 私に英語のプレゼンテーションができないことは、誰よりも私がよく知っていました。ホテルや飛行機のチェックインすらまともにできない男が、英語のノンネイティブに対して配慮のかけらもない、あの「IETFミーティング」で、ろくに応答できるわけがないからです。

 翌朝、昨夜と打って変わって、秋の終わりを感じさせる深色の紅葉が美しいベルリンの中心街を眺めながら、上司と私はタクシーで研究機関の施設に向かいました。指定された会議室に赴くと、次々とプロジェクトメンバーが入ってきました。この段階では、私はまだ、今回の標準書の作成に関して、並々ならぬ労力を提供して下さった、H博士との面識がありませんでした。

 標準書の作成に関しては、社内の同僚や上司、ドイツの研究機関のプロジェクトリーダーの協力があったのはもちろんですが、何より、H博士が、毎日電子メールで議論に根気よく付き合って下さったからこそ、なんとか標準書の骨格を作り上げることができたのです。

写真はイメージです

 私はめったなことでは、誰かに心から感謝することはないのですが、このH博士にお会いした時には、小走りで博士に近づき、最大級の感謝の言葉を発しながら、両手で握手させていただきました。

 昼休みには、研究所のすぐ傍を流れる川沿いを歩きながら、標準書の内容やドイツでの生活について話をしました。

 ひらひらと落ち葉が舞い落ちる川沿いの小道を、H博士とゆっくり歩きながら、研究について意見を交換していることに気づいたとき、私は、自分のそのカッコよさに、陶酔してしまいました


 こうやって振り返ってみると、「海外研究機関との共同研究」、「国家プロジェクトへの研究報告」、そして「社内への業務報告」、どれを取ってみても、私自身はロクな成果を上げていないような気がします。しかし、それらを取りまとめて、あたかも立派な成果に「見せかけた」という点においては、見事に立ち回ったと確信できます

 「人のふんどしで相撲を取る」という、その一点において、私は当初の目的を完遂したのであると、胸を張って自慢したいのです。

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