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» 2013年05月15日 10時44分 UPDATE

プロセッサ/マイコン:IBMのスパコン、ガン治療費の削減に光明

陽子線をガン細胞に照射して死滅させる陽子線治療。ガンの最先端治療として期待されているが、費用が高額で、照射ポイントの決定に時間がかかるのがデメリットとなっている。IBMの基礎研究所は、スーパーコンピュータを利用することで、陽子線治療の費用を下げられると提案する。

[R Colin Johnson,EE Times]
IBM

 IBMの医療診断分析は、ガンの治療だけでなく、腫瘍の破壊に有効な新治療法のコストを下げることも目的としている。この新しい技術では、物理の実験などで使われる巨大加速器をルームサイズに小型化した、高エネルギー粒子加速器を使用する。加速器で陽子線を正確に照射して、腫瘍内のガン細胞を破壊する。周囲の組織には影響がないという。IBMの基礎研究所であるIBM Researchは、「POWER7」プロセッサを搭載したクラスタスーパーコンピュータ上で動作するソフトウェア分析を使って、有効性の高いこの新治療法のコストを下げることを目指している。

 だが、この技術の開発には巨額のコストがかかる。さまざまな治療を受けたガン患者は、2012年は世界中で1200万人に上った。その数は、2030年には2100万人に増加すると予想されている。米国では現在、陽子線治療を受けられる施設を17カ所、建設している。それぞれの施設の建設費用は2億米ドルを超える。総額で34億米ドル以上の費用が投じられることになるが、この最先端の治療を受けやすくするために、さらに小型で低価格な加速器の設計が行われている。

 その実現に対して大きな障壁となっているのが、陽子線治療に必要なコンピュータの処理能力だ。

 現在の陽子線治療では、長く複雑な準備が必要である。まず、MRI(磁気共鳴画像)やCTスキャンで腫瘍の位置を特定する。次に、医師と放射線技師が、腫瘍を破壊するための陽子線を照射する位置を、1週間以上かけて正確にマッピングする。陽子線治療は、従来の放射線治療とは異なり、ビームの先端のみでエネルギーが放出されるため、人体組織を通り抜けても組織は影響を受けない。そのためには、腫瘍の内側に正確に陽子線が届くように、照射方向を慎重に調整しなければならない。

 IBM Researchの科学者であるSani Nassif氏は、「陽子を光速の1/2の速度まで加速するが、エネルギーは閾(しきい)値に達するまで放出されない。閾値に達すると、運動エネルギーを一気に放出する。したがって、陽子は人体の奥深く(約15cm)まで照射できる。陽子線は体内に入っても表面の近くではエネルギーを放出せず、停止する直前にエネルギーを放出する。そのため、皮膚と照射ポイントの間の組織は影響を受けない」と説明している。

陽子線治療費の60%削減を目指す

 陽子線治療は、従来の放射線治療と同じく、エネルギーを放出することでガン細胞のDNAにダメージを与え、ガン細胞の再生や代謝を阻止する。このようにして破壊されたガン細胞は、人体の持つ浄化作用、つまり死んだ組織を一掃する機能によって除去される。

 陽子線の照射方向を詳細にマッピングするのは、非常に困難な作業である。1つのノズルで、異なる角度からさまざまなエネルギーレベルの複数の陽子線を放出しなければならないからだ。問題は、マッピングの作業に1週間もかかるため費用が高額になることだけでなく、医師と放射線技師が陽子線の照射方向を決めている間も、腫瘍は大きくなり、治療の成功率が下がってしまうことにある。

 IBMの陽子線治療は、スーパーコンピュータを使って陽子線を照射する方向を迅速に決定し、(1週間ではなく)わずか15分で多数の代替療法プランを主治医に提示することができる。そのため、患者はMRIやCTスキャナのある部屋から陽子線治療室に移動すると、すぐに治療を受けられる。腫瘍が肥大化しないので、治療の成功率も大幅に向上することになる。

 Nassif氏は、「陽子線を腫瘍に照射した後の反応なども予測しやすくなる。何千もの治療方法を提案できるようになる」と述べている。

 IBMは米国テキサス大学(University of Texas)のAnderson Medical Cancer Centerで、パートナー企業と協力して、陽子線治療のコストを約60%下げることを目指している。また、POWER7を搭載したクラスタスーパーコンピュータを使って、治療計画の作成時間の短縮化にも取り組んでいる。この方法が確立されれば、現在、医師らが手作業で行っている治療計画の作成と比べて、1000倍の速さで計算処理を行えるようになるという。

mm130515_IBM_fig1.jpg 現在の方法では、医師と放射線技師が腫瘍を破壊する陽子線の照射方向をマッピングするのに1週間かかる。その間にも腫瘍は肥大化し、治療の成功率が下がってしまう。IBMの「Power 730」を搭載したクラスタコンピュータによる分析は、陽子線の照射方向のマッピングを15分で行える(クリックで拡大) 出典:IBM

【翻訳:滝本麻貴、編集:EE Times Japan】

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