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海外での打ち合わせを乗り切る、「英語に愛されないエンジニア」のための最終奥義「英語に愛されないエンジニア」のための新行動論(19)(4/4 ページ)

» 2013年06月14日 00時00分 公開
[江端智一EE Times Japan]
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 これらの最終奥義の発動と引き換えに、あなたが失うものは何でしょうか。

 それは、あなたのプライドです。

 あなたは嘲笑され、ため息をつかれ、仕事ぶりの拙さを指摘され、経験不足を責められます。しかも遠まわしに。加えて、私たちは、その内容すらも理解できないかもしれません。英語ですから。あなたは、人生最大級の屈辱の中で、打ち震えることになるでしょう。

 ――しかし、それが何だと言うのですか?

 私たちは「英語に愛されないエンジニア」なのです。そのようなエンジニアが、インターナショナルでクールに仕事をして尊敬されるなどという、そんな夢のような話があるわけがありません。こと英語に関しては、若いうちにした苦労は何の実にもならず、年を取っても同じように苦労します。私たちの苦労が報われる日は永遠に来ません。望みのない幻想を持ってはなりません。

 しかしながら、どのような立場であれ、われわれはプロのエンジニアです。

 バカにされようとも、コケにされようとも、成果(あるいは成果に見えるような何か)を日本に持ち帰らなければならないのです。任務遂行のためには、嘲笑されることくらい「予定調和だ」と、高らかに笑えるようになってください。

 もう一度繰り返します。

 私は、今の今に至るまで、仕事での英会話で相手の言っていることを完璧に理解したことは、ただの一度もありません。理解したように相手に「誤解させ」、「成果を日本に持ち帰ること」に全精力を集中させていただけです。

 私のプロフィールに記載されている「会話の1割の単語だけを拾って残りの9割を推測し、相手の言っている内容を理解しないで会話を強行するという希少な能力」とは、まさしく、この最終奥義の発動のことなのです。


 では、今回の内容をまとめます。

  1. 「最初から最後まで、何を言っているのか全く分からない」という英語の打ち合わせに対応する手段は存在する。
  2. その手段が、「会話の1割の単語だけを拾って残りの9割を推測する」という、「英語に愛されないエンジニア」のための最終奥義であり、その目的は「相手の言っている内容を理解しないまま、(概ね正しい)結論を持って帰国する」ことである。

 では、次回はインターミッションとして、今や我が国において新興宗教と同じレベルにまで達したといっても過言ではない、TOEICを“弄(いじ)りたい”と思います。

 この新興宗教の神に対して、蟷螂(とうろう)の斧であろうとも一矢報いたいと考える、私の思いの丈を語らせていただきます。

 どうぞ、お楽しみに。


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Profile

江端智一(えばた ともいち) @Tomoichi_Ebata

 日本の大手総合電機メーカーの主任研究員。1991年に入社。「サンマとサバ」を2種類のセンサーだけで判別するという電子レンジの食品自動判別アルゴリズムの発明を皮切りに、エンジン制御からネットワーク監視、無線ネットワーク、屋内GPS、鉄道システムまで幅広い分野の研究開発に携わる。

 意外な視点から繰り出される特許発明には定評が高く、特許権に関して強いこだわりを持つ。特に熾烈(しれつ)を極めた海外特許庁との戦いにおいて、審査官を交代させるまで戦い抜いて特許査定を奪取した話は、今なお伝説として「本人」が語り継いでいる。共同研究のために赴任した米国での2年間の生活では、会話の1割の単語だけを拾って残りの9割を推測し、相手の言っている内容を理解しないで会話を強行するという希少な能力を獲得し、凱旋帰国。

 私生活においては、辛辣(しんらつ)な切り口で語られるエッセイをWebサイト「江端さんのホームページ」で発表し続け、カルト的なファンから圧倒的な支持を得ている。また週末には、LANを敷設するために自宅の庭に穴を掘り、侵入検知センサーを設置し、24時間体制のホームセキュリティシステムを構築することを趣味としている。このシステムは現在も拡張を続けており、その完成形態は「本人」も知らない。



本連載の内容は、個人の意見および見解であり、所属する組織を代表したものではありません。



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